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“ミリタリーウェアらしさ“や“アウトドアウェアっぽさ“(ダウンウェア周辺の話❺)
『ミリタリーウェアやアウトドアウェアというのがやっぱりかなり機能性を追求してデザインされている』というのを自分が以前に実感した具体例をあげてみます。
アウトドアでは常識中の常識的な知識らしいのですが、
登山用のジャッケット(ハードシェル、アウター)のフロントのポケットが
・ちょっと上の方についていて
・斜めで
・大きい
のをなんとなく皆さんイメージできると思います。
(ノースフェイスクライムライトジャケット)
かなり大きいポケット、大きいフラップ付きで、中身が飛び出したりしないように開閉はベルクロ+ファスナーです。
これは今はなきスポーツ業態にいたときに教わったのですが、マウンテンジャケットのフロントのポケットは
登山時はバックパックを基本背負っている前提なので
・ショルダーハーネス(背負うためのストラップの正式名称です)とチェストベルト、ウエスト(ヒップ)ベルトに干渉しない位置。
寒冷地ではグローブを外さないまま使うケースもあるので
・わかりやすい位置で、大きめ、開閉しやすいよう斜め方向。ジッパーの引き手もわかりやすく持ちやすい素材。
サングラス・ゴーグル・カメラを携帯したり、やっぱりグローブを外したりもするので
・収納できるようにポケットの容量もそれなりの大きさが必要。
など考慮した設計になってるそうです。
基本の知識すぎなのとタウンユースダウンを選ぶ際にあんまり関係ないのとで、本気で山グッズを紹介してるサイトでないと実はあまり見ない薀蓄です。
(だから逆に意外と一般的には浸透してません。)
(ビギンらしく、クイズ形式なのでやってみてください、リッター表記の計測法は意外です)
もちろん、メーカーごとに考え方も違いますし、技術も進んでますし、アイテムごとに想定してる環境も違うので山用のジャケットはなんでも大きなポケット真ん中寄りということではありません。
伝えたいのは私たちファッションの洋服屋からすると“単に装飾的デザインに見えてしまう“ことにほぼいちいちちゃんとシビアな理由があるのがスポーツウェアやミリタリーウェアだということです。
逆にいうと中央寄りに大きめポケットのデザインはファッションアパレルの目線だと“アウトドアウェアらしさ“の象徴として使われてることもあるある。
かなり以前に解説しましたが、ニットの『減らし目・リブスタート・リンキング縫製』は現在の機械や技術としてはニットを生産する際、必ずしも必要な処理ではありません。(違うやり方もできる)
が、とてもニット(セーター)らしいディティールなのでわざと『減らし目・リブスタート・リンキング縫製』をしっかり使ってニットをつくっているケースが多いです。
(減らし目、ファッションマークと呼ばれる。編み目の数を徐々に減らして形をつくる)
(リブスタート:裾リブから切れ目なしの続き編みで身ごろの天竺に切り替わる。)
なので例えば
(水沢ダウン:マウンテニア)
おそらくこのポケットはデザイン要素が強いと思われます。
中央寄りの大きめポケット(しかも止水仕様)はアルパインウェア(山登りウェア)らしさを表現するにはわかりやすいデザイン・ディティールです。
もちろんバックパックを背負ってもハーネスやベルトは避ける位置になってるでしょうし、機能性もありますし。
水沢ダウンの場合は仕様自体は本気なのでより説得力もあります。
この脇のベンチレーションもタウンユースで使うことがあるのか?ですが、とても山ウェアらしさを感じる仕様です。(いざとなれば効果も十分です)
逆に
(ピレネックス:ブロウ)
(外付けパッチポケット、フラップなし)
雨・雪防げないのでアウトドアウェアではありえないポケットです。が、
こちらはタウンユースで手ぶらででかけられるようにわざと容量の大きいパッチポケットをつけたそうです。
財布、ケータイ、マフラー、グローブ、取り外したフードまで入れておけます。
タウンユース目的のダウンウェアということがよくわかります。
(そういえば、ダウンウェアでもフラップなしパッチポケットはほとんど見たことないかも)
△ △ △ △
先日、紹介された服飾文化振興財団の『5分でわかるヴィンテージ』
(米軍Bー15 フライトジャケットの解説でした。詳しい方から一部間違いの指摘があったらしく後日修正版になるようです)
詳しい内容はぜひご視聴ください。
ここで取り上げたいのは奥深いフライトジャケットの歴史ではなくて、この動画にもでてきますが、フライトジャケットの象徴的なデザイン装備です。
(リラクスのMAー1型モデル)
完全にリラクスの形ですが誰もが元ネタはMAー1(フライトジャケット)だなとわかります。
なぜわかるかというと、
・下画像のようなフライトジャケットの象徴的なデザイン装備をつけてる
・首元、袖、裾のリブの感じを(素材は全然リブじゃないですが)ディティール上で再現してる
・そしてセージグリーンを意識した色
でしょうか。
これだけ揃えると形、全然違うのにやっぱりMAー1に見えます。
(細かくはファスナーの引き手につけてるタブや、ファスナーのムシのざっくり加減とかも、、)
左腕のシガーポケット(ペン4本とタバコ(小物)入れ)
左胸中央寄りにある酸素マスクホースを固定するためのタブ
(ちなみに後にこのタブは技術の進化で必要なくなり、MAー1からも無くなります。このタブはMAー1の初期の頃の仕様です)
(逆にこの形に落とし込めばなんでもリラクスになるのでリラクス無敵です)
<まとめ>
・ミリタリーウェアやスポーツウェアのデザインや装備にはいちいちちゃんとした理由がある
・そんなデザインや装備に特徴があればあるほどファッションアパレル目線では「そのジャンルのウェア“らしさ“」になり、“らしさ“をだすためにわざと使ったりする
・“らしさ“を知っていると洋服のデザインソースがわかったり、企画意図が読みとれたりする。
・ひいてはその服の良さや使い方、コーディネートの仕方がわかったりもする