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ごく厚の革と「フルグレインレザー」 ホワイトハウスコックス「ヴィンテージブライドル」シリーズについて④
ホワイトハウスコックスの「ヴィンテージブライドル」シリーズに使われているのはイギリス「ベーカー社」のブライドルレザーです。
「オークバークタンニング」というかなりレアな製法で生産された革で、「鞣す期間」だけで1年を要します。なぜなら、
❶、高級靴の本底の革
❷、ホントのガチガチの馬具として使われてきた革
という「業務用資材レベルで堅牢性、耐久性、柔軟性のある厚みのある革をつくる」ために「漬け込みでじっくりタンニン成分を繊維に浸透させていく時間」が必要だからです。
というのが前回の内容でした。
業務用資材とか書いてしまいましたが、おそらく「昔はそういうノリのものだったはず」ということです。
現在では希少性と品質の高さから靴の底材としても、ブライドルレザーとしても最高級品として扱われてます。
(結果、かなり生産数が少なそうですが、製品は高額で取引されるので“ベーカー社はやっていける“ということみたいです。)
ちなみに「完成までに長期間かかる革」というのは実はそこまで珍しいことではなく、(オークバークは特別長そうですが)国内のタンナーさんでもイレギュラーなオーダーで長期間の鞣し工程が必要なケースは発生するそうです。
ピット槽でじっくりタンニン成分を浸透させていかないと「やたらと厚くて丈夫な革」は加工・生産できないみたいで業務用ベルト(工事関係、作業点検関係、警察の制服)とか特注の産業資材とかは半年〜の時間をかけるらしいです。
一度、展示会で1cmくらいの厚みで2m以上大きさのある水牛の革を見たことがありますが、ほぼ木材というかテーブルの天板のようでした。
話はきけなかったのですが、「こんなとんでもない大物も加工できますよ」というアピールだと思います。それだけで工場の設備、背景がうかがえるわけです。
もう一点、「ヴィンテージブライドル」シリーズの大きな特徴があります。
画像はロングウォレットです。
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「ヴィンテージブライドル」のアイテムはどれも革のもともとの表情がでていて色ムラも目立ちます。銀面をほとんど加工なくほぼ素の状態で使ってるからです。
革の表面(毛の付いていた側)のことを銀面といいます。
下図は加工前の皮の断面構造です。
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(出典:下記URLサイト)
乳頭層の表面または乳頭層を銀面と呼んでます。
皮を革にするというのは上の断面図の「表皮」と「皮下組織」を取り除いて、鞣して、真皮層だけの腐らない安定した状態にすることです。
詳しい解説はこちら見てください。
https://www.kawa-ichi.jp/basic/02/index.html
真皮層だけになった革の銀面に仕上げ工程でバフがけ(サンドペーパーのやすりがけ的なもの)して銀面を削ることがあります。
銀面には動物が生きていたときに付いたキズや毛穴、シワがあるため、銀面を削って平滑にしたほうが
・色やオイルを定着させやすい
・表面の毛穴、傷やシワ血筋などがわかり辛くなる
からだそうです。
「定番のブライドルレザー」では行われてます。
既製品としての均一性をだすために必要な工程です。
『ヴィンテージブライドル』のレザーは銀面のバフがけはしないそうです。
こういう革をフルグレイン(full grain)レザーといいます。
「Grain」とは銀面のことで、銀面をありのままに活かした革ということです。
銀面は牛の身を守っていた部分なので繊維が緻密で「強度・しなやかさ・ハリ」があります。
その点でも『フルグレインブライドルレザー』は“さらに「堅牢性、耐久性」のある革“だといえます。
見た目よりも強さを求めた仕上げということです。
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(向かって左『ヴィンテージブライドル』 右『定番ブライドルレザー』)
原皮の表情やムラがあって「フルグレインのブライドルレザー」というのがよくわかります。定番の方はツルっとしてます。
馬具としての強度を求めた結果の仕上げですが、染料もブライドルグリースも浸透し辛いので時間がかかりそうです。
で、これが見た目の最大の特徴であり、欠点でもあります。
シワ、キズ、毛穴跡、血筋(血管の跡)などがそのまま残っているので
個体差があるというより、『個体差しかない』状態です。
ほぼ同様の状態の製品というのが一つもありません。
<まとめ1>
・堅くて厚い革の生産には(オークバークに限らず)「漬け込みでじっくりタンニン成分を繊維に浸透させていく時間」が必要。
・「定番ブライドルレザー」も生産にかなり時間と手間がかかる。が、「ヴィンテージブライドルレザー」の時間と手間は別格。
『定番ブライドルレザー』
革加工期間 3〜4ヶ月
仕上げ 染料仕上げアニリンフィニッシュ バフがけあり
見た目 革の表情残るが比較的均一性あり
『ヴィンテージブライドルレザー』
革加工期間 1年半
仕上げ 染料仕上げ(光沢なし) バフがけなし
見た目 革本来の表情そのままのため個体差が激しい
・ヴィンテージブライドルレザーは 銀面の表情をそのまま生かすので既製品にもかかわらず、同様の状態の製品がほぼない
<まとめ2>
『ヴィンテージブライドル』シリーズは
・資材用に使えるような厚くて丈夫な革
・銀面を素のまま使うのでシワ、血筋、きずなどの跡が残っている
・個体差かなりある
「財布だ、カードケースだの革小物」にはある意味むいてないです。
「そこまでの耐久性いらないし、見た目綺麗な方がいいし」という価値観なら使わない革です。が、
・数年は必ず使えるであろう耐久性(メンテ次第でもっと持つかも、、)
・とっても革らしい表情と雰囲気
・愛着のわく経年変化
といった本来の革の価値をよしとするなら、
『より革らしさが楽しめて、しかも激レア、一点も同じものなし!』
という特別感があります。