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靴の底材用の革と馬具用の革 ホワイトハウスコックス『ヴィンテージブライドル』シリーズについて③

前回、“ホワイトハウスコックスの『ヴィンテージブライドル』のレザーはめちゃめちゃ手間と時間がかかる「オークバークタンニング」という生産性が相当低いつくり方をわざわざやってる“という説明をしました。

ドラムを回せば「クローム」であれ「タンニン」であれ、24時間でも可能な『鞣しの工程』を1年間かけてやってます。
(私たちは「手間、暇かかったすごい革なんだな」くらいですが、つくり手側にしてみれば、「場所はいるし、設備管理必要だし、人手はいるし、時間はかかるし、と、ほぼいいことなし」のつくり方です。やっていけてます?という感じです。)

だから、当然「なんでわざわざそんなことを?」と思うわけです。
もちろん、そうしないとつくれない革をつくってるからではあるんですが、
「いったい、どんな革をつくってるの?」となります。

それがベーカー社の看板メニューである

❶ 高級靴の底材(特にアウトソール)用の革
❷ ホントの馬具としてもガッチリ使えるブライドルレザー

です。

❶ 高級靴の底材用の革


『オークバークタンニング』を今だにやってるタンナーが他にもあります。

・ドイツ「レンデンバッハ」
・ドイツ「キルガー」

2社とも日本でも知られるくらい有名なタンナーです。
(知られてないところが他にもまだあるらしい、、です。)

イギリス「ベーカー」を含め3社には共通点があります。

いずれも「高級靴の底材、アウトソール用の革」を生産、供給してるタンナーというところです。

よくこの辺の靴ブランドが使ってると言われてます
ドイツの「レンデンバッハ」 クロケットハンドグレード
ドイツの「キルガー」    オールデン
イギリス「ベーカー」    エドワードグリーン、ガジアーノ&ガーリング
(ビスポークとか高級靴の修理屋さんとかでも使われているみたいです)


これも以前にやってますが、靴の底材、アウトソールというのは身の回りの革製品としては別格の強度(硬さと厚みと耐久性)が必要になります。
その辺は過去にこれで説明してます。(メンドーな方は飛ばして)


靴のソールというのは足の裏にくっつけて毎日外を歩きます。
歩行時の衝撃もあれば体重もかかります。
そう考えるとメチャクチャ強い素材でないとダメそうです。

歩行による地面との接触、摩擦に耐える強靭さと体重を支え足をまもる柔軟性とクッション性を併せ持たなくてはなりません。

ソール用のレザーはもともと厚くて強い成牛の皮をさらに丈夫にすべく、「ピット槽での漬け込みのタンニン鞣し」で長い期間をかけて鞣します。

厚さは5〜5.5mmくらい(革小物用1〜2mmくらい)で、ベンズと呼ばれる牛の背中からお尻にかけての一番繊維の密な場所に、深くまでタンニン成分の浸透した繊維のぎゅっとしまった堅い革です。

例えば

画像1
(ジョンロブ バロス ダブルソール)


画像2
ダブルソール(2枚底) アウトソールは5mmくらい(1枚目は3mmくらい)


「オークバーク」は他のタンニン剤で鞣したものよりも耐久性に優れる割に柔軟性もあると言われ、靴職人さんや修理屋さんは絶賛してるケースが多いです。

「他の革と比べてソールがなかなか減らない」そうです。
(とにかく耐久性があって、かえりも悪くない、裁断のナイフのはいり方がいいとか、、、。レンデンバッハのソールは流通量も多く、私たちでも普通に買えます、ベーカーは少ないですがネットで買えるかも、、)

特別に強度と柔軟性の必要な靴のアウトソール用レザーの中でも特に堅牢性が高く、高級シューズブランドから引くて数多なのが『オークバーク』のレザーです。

❷ ホントの馬具としてもガッチリ使えるブライドルレザー


「ブライドル」というのは手綱から繋がった馬の頭部、顔に装着される部分(ハミ、クツワとか)の馬具の総称だそうです。

そこから馬具用に使用される「ロウ引き加工の革」を「ブライドルレザー」と呼ぶようになったと言われてます。

雨が多い英国の気候や馬の汗・唾液で革の耐性が弱くなるのを防ぐために開発された加工革です。(普通の革より水に強い)

鞍や馬車のハーネスなど馬具全般に使われていたようです。
弱い革で簡単に切れたりへたったりしていたら、事故に繋がったり、命に関わったりします。
一番大事なのは丈夫さ・耐久性・安全性だったはずです。

交通移動手段が馬メインだった時代には「ブライドルレザー」は業務用資材というニュアンスがずっと強かったわけです。

そういう意味で「オークバークタンニングからのブライドル加工を施した革」は抜群の耐久性と柔軟性を持つ馬具用の資材でした。

残念ながら自動車や鉄道の発達とともに馬具の需要は減少していきます。

昔はオークの調達が容易だったのでヨーロッパでは「オークバークタンニング」が広く行われていたようですが、その後、オーク材の乱獲と効率的な代替品(ミモザとか)の発見がありました。

馬具の需要の減少と鞣し材の代替品の登場で「オークバークタンニング」は現在のような激レア状態に至ってしまったようです。(今でも馬具には使われてるようですが、希少さなど、付加価値の要素が強い革になってます)

ベーカー社の
「オークバークタンニングからのブライドル加工を施した革」は、
今となってはとっても希少な「本格派な馬具用の革」ということです。

で、そんな革を使って、財布やベルトなどの日常使いの革製品を生産してるのがホワイトハウスコックス『ヴィンテージブライドル』シリーズです。

「J&F Jベーカー」といえば今やブランドタンナーですが、

❶のソール用の革も
❷の馬具用の革も

その生産の最盛期だった時代には業務用資材のようなものだったのかもしれません。

ベーカー社が言うには「オークバーク」で鞣した革は
「他のタンニンなめし材の革と比べても圧倒的に丈夫で長持ちする」
らしいです。

終わんなかったので次回に。

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