時間と手間と「オークバークタンニング」 ホワイトハウスコックスの『ヴィンテージブライドル』シリーズについて②
前回、W・H・COXの『ヴィンテージブライドル』シリーズのレザーについて少し説明させていただきました。
せっかくなのでもう少し理解を深めて、ちょっと応用のきく知識にできればと思ってます。
お店の私たちが何か新商品の説明を受ける場合、当然ですがピンポイントにその商品に関して
「どういうもので、何がすごくて、どこがセールスポイントなのか」
というような内容で説明されます。
もちろんそれはそれでいいですし、納得感も十分あります。
が、なんかちょっとだけモヤっとしたものが残ったりもします。(私だけかも、、)
「わかったんだけど、わかったような、わからんような、、、」
何でかというと、言い方悪いですが
「その商品にしか役に立たない説明」であるケースが多いからです。
例えば前回の「ヴィンテージブライドル」のレザーの説明はそこそこ詳しいですが、そういう意味ではまだ不十分と思ってます。
それが実は今回の裏テーマです。
何のことかというと
「ヴィンテージブライドルがすごいのはなんかわかったんだけど、、普通はどうなの?」です。
「ヴィンテージブライドル」のレザーは古代製法『オークバークタンニング』という面倒なやり方で1年半かけてつくられた特別な革だ、というのはわかったけど、じゃ、スタンダードな革の場合とどのくらい違うの?どう違うの?
「スタンダードで一般的な皮革製品の知識や相場感、そういう比較対象するものがないままいきなりその商品の凄さだけ説明される」のでだいたい
「わかるんだけどわからない」
という状況になりがち、ということです。
で、その辺を今回は補足してみます。
『ヴィンテージブライドル』のレザーの特徴は何と言ってもベーカー社の「オークバークタンニング」という鞣し方です。
「じゃ、一般的な“鞣し方“ってどうなの?」ですが、実は結構以前にその辺やってました。
ざっくり理解するには丁度いいと思うのでこちらどうぞ
(メンドーな人は飛ばしてもOK)
結構、頑張って書いてます。
一応、激的にハショッて説明しておくと
おっきく分けて「皮の鞣し方」は2通り
こういう塩漬けの革を
1、クローム鞣し(三価クロムを鞣し剤として使用)
三価クロムの粉末です、これを水に溶かした溶液で鞣す。
こういうドラムとかタイコと呼ばれるのに一緒に入れてグルグル回す
こういう風に仕上がります。(ウェットブルーという状態)
これが現在のスタンダード、世の中の8割がたの革製品はこのやり方だそうです。
2、タンニン鞣し(植物のタンニン成分を鞣し剤として使用)
ミモザのタンニン成分を抽出して粉末状にしたもの。
これを溶かした溶液で鞣す。
A、クローム同様、ドラムタイプでグルグル回して早く仕上げるか
B、こういうピット槽に漬け込んでじっくり仕上げるか
こんな感じに仕上ります。
「タンニン鞣し」も
Aのドラムでグルグルが主流。
Bのピット槽につけるのは今やかなりレアなやり方。
(昔は全部これだったそうです)
実は本来、皮革の加工は下の図くらいの工程を踏みます。
(詳細は目的に応じてかわります)
(出典:下記のサイトよりお借りしてます。内容はあまり関係ないですが興味ある方はどうぞ)
「鞣し」は皮加工のメインイベント的な工程ではありますが、
『オークバークタンニング』といっても図の中の6番目の工程の部分だけです。
前後にまだまだやることがたくさんあります。
(ちなみにブライドルグリースを入れるのは12〜13番あたりか18番あたりじゃないかと思われます)
それでは「他の鞣し方」と比較した『オークバーク』の特殊性について
●『鞣すのに必要な時間が1年間』
6番の「鞣し工程」だけの時間の比較ですが、
・ドラムを使った「クローム鞣し」は約24時間で可能。
・ドラムを使った「タンニン鞣し」も約24時間で可能。
・「クローム鞣し」には「ピット槽に漬け込む」やり方はありません。
・「タンニン鞣し」の「ピット槽での漬け込み製法」は通常25日〜90日ほどかかります。(目的に応じて幅があります。期間の長い方が堅い丈夫な革になります。)
が、同じ「ピット槽で漬け込むタンニン鞣し」の「オークバークタンニング」は
約1年かけてます。
●『タンニン鞣しの鞣し剤がカシ・ナラの樹の皮』
タンニン鞣しの現在の主流の鞣し剤はミモザ、ケブラチョ、チェストナットなどの植物のタンニン成分を抽出して粉末にしたものです。
これを水に溶かしてつくったタンニン溶液に皮を漬け込みます。(タンナーごとのレシピがあります)
『オークバークタンニング』ではカシ・ナラのチップ(樹の皮)を皮といっしょに直接漬け込むそうです。(ベーカーはそのようです)
材料の木材の調達は地元でできるらしいのですがタンニン濃度も低く、他の粉末剤より効率は悪いみたいです。ほんとに昔っからの地元のやり方というノリなのかもしれません。
(国内のタンナーさんを7、8件見たことがありますが、「タンニン鞣し」をやってるところは基本ミモザの粉末を使ってました。バランスが一番いいそうです。「ちょっと硬く仕上げたい時、ケブラチョを混ぜるけど、仕上がりの色が濃くなっちゃうので染色に影響する」的なコメントをどこかで聞きました。)
つまり、『オークバークタンニング』は
スタンダードな「クローム鞣し」はもちろん、同じようなやり方の「ピット槽での漬け込みのタンニン鞣し」と比べても手間と時間がめちゃめちゃかかって生産効率がメチャクチャ悪い『激レアな鞣し方法』ということです。
長くなったので次回へ。
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