夜の校舎の小人たち

赤い小人は教卓から足をぶらぶらさせて教室内を眺めていた。

大きくなったニンゲンは、この場所から小さなニンゲンを見下ろし、未知の世界を教えていくのだ。

それでいて毎日、先生と呼ばれる。自尊心が高くならないわけないよなと思った。

地面から続いている長い梯子で降り、次に、教壇から見て左奥の席、大橋くんの机の上に登った。

大橋くんの机だとわかったのは、小人たちがいつも掃除用具入れの上に住んでいて、一番近い席だったからというのが理由だ。

上からこっそり覗くと、キャラクターの四角い筆箱に乱暴な字で「おおはし あきと」と書いていた。

そして、ここから黒板を見てみた。

日直の文字はとても小さく、黒板消しは消しゴムサイズだった。

次に、右を見るとフェンスで囲まれた校庭がある。

小さなニンゲンのいない遊具や木々は静かに佇んでいて、まるでニンゲンと一緒の時間に深い眠りについているようだ。

窓から吹く隙間風を薄く感じながら、月を眺めていると、突然、ドアが開いた。

黄色い小人が必死の形相で息を切らしていた。

大丈夫?と駆け寄ろうとすると、彼は叫んだ。

「青色がいなくなっちゃった!」

赤い小人はそれがどうしても信じられなかった。

というのも黄色い小人はいつも嘘ばかりついていて、真面目な青い小人や黒い小人をからかって遊んでいるのだ。

赤い小人が訝しげな顔で見つめると、黄色い小人は濡れた捨て犬のような顔でこう言った。

「今回ばかりは本当だよ!嘘だったらもう二度と口を聞いてくれなくていいから!」

赤い小人は渋々黄色い小人に従い、捜索を開始することにした。

「何か青は今日、変わったことを言ってなかった?」

「ううん。言ってないよ。いつも通り図書室で本を読んで、それから、隣のB組でご飯を食べてたと思う。」

赤い小人は少し考えて呟く。

「それじゃあ図書室に行ってみよう。慎重で冷静沈着を地でいくような青が、誰かに攫われるとも思わないしね。」

「そうだね。ニンゲンたちも今日はお休みだし……。」

図書室に着き、小人の穴から室内に入ると、大きなテーブルの真ん中に一冊の本が開かれていた。

「青色のストッパー!いつも読書するときに使ってるやつ!」

黄色い小人が叫んだ。

ページは62-63で止まっていて、右の方に大きな絵があった。体育のバレーボールだ。

バレーボールのルール解説の横に小さな付箋が貼ってあり、そこにはこう書かれていた。

6月1日 15こ
6月2日 15こ
6月3日 クモがいたので未確認
6月4日 15こ
6月5日 15こ
6月6日

「なんだろうこれ。赤色はわかる?」

「わからないよ。でも、バレーボールだし、体育館に行ってみる?グラウンドは寒いから、その次で。」

体育館の前に着いた。

体育館前の廊下の壁には小さな亀裂があり、これは小人たちの通路として使われているのだ。

赤い小人はこれがどこの学校にもあるというのを、他の学校の小人から聞いたことがある。

そこから穴の通路に入ると途中で声が聞こえてきた。

「助けてください!誰か!!」

青い小人の声だ。

二人は急いで中に入ると声のする方向、つまりは天井を見た。

青色の小人が足をぷるぷるさせてバレーボールにしがみついていた。

「どうしてそんなところに!」

黄色い小人が大声で聞くと青い小人は叫んだ。

「これが、16こだったんだよ!だから今日は、確かめようと、思ったんだ!」

きょとんとする黄色い小人を横目に、赤は長い梯子をひたすらに伸ばした。

「早く!これで降りてきて!」

青は汗ですべる手をしっかりと握り、二人のもとへと降りてきた。

「ごめんね。君たちにはなんのことやらわからないと思うけど。僕はあそこに気がついたら登っていて。」

赤い小人は呆れながらこう返した。

「バレーボール。今日は一つ多かったんでしょ?」

青い小人ははっと驚いた顔をして言う。

「なんでわかったんだい?僕の研究。」

「そうだよ!研究ってなんだよ!」

黄も加勢してきた。

「そりゃまあ、図書室のメモを見ただけだよ。ご丁寧に『体育のひみつ』まで開いてさ。」

赤い小人は続けて言った。

「それで研究はどうだった?青」

「ダメだったよ。増えた謎はわからずじまいさ。」

「そうかそうか。まあでも、君は一つ見落としてることがあるよ。」

青い小人は散々悩んだ挙句、どこを見落としているのか観念して聞いた。

赤い恋人はそうするとこう答えた。

「今日は休日だけど、ここでバレーボールの大会があったんだよ。そして極め付けはこれだ。相手校の選手、すごいヘタクソだったらしい。」

青い小人はそこからしばらく研究をお休みにすることにした。

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