元ホテリエが解説 ❃ 子供の添い寝は無料か有料か?ホテルとゲストが直面する追加料金問題
先日、SNSで「子供の添い寝に追加料金を設定するホテルはいかがなものか?というゲスト対応に苦行した」という、あるホテルでの出来事について書かれたコンテンツを発見しました。
「元」ホテリエとしては、業界から足を洗っているのでエンタメとして楽しく閲覧させていただきました。
さて、結局のところ「子供の添い寝は無料か有料か?」
一体どちらが正しいのでしょうか?
結論から申し上げると、無料であるか有料であるかは一概には断言できません。
結局、ホテルによって方針が異なっていて、ゲストは予約段階でそのホテルの利用規約に従うことに同意したうえで予約を確約する必要があるので、双方の契約のもと成立した内容での滞在利用であれば超過されようがされまいが問題はないということです。
そもそも、ホテルの宿泊代が「部屋料金」と「人数料金」に分かれている理由はいくつかあります。
本日はホテルビジネスについて知られざる料金の小話を書いてみようと思います。
◉ ホテルビジネスの基礎知識 ◉
本題に進む前に少しホテルのビジネスについての考え方について共有してみましょう。
私は元ホテリエなので、業界人視点での語りになりますが、ゲストにもわかりやすい説明を加筆してみます。
ホテルが販売しているものって何だろう
宿泊施設ビジネスが独特なのは「空間提供」であるところが大きいのですが、ゲストは特にそんなことを意識していないのだろうと感じます。
元々その「空間」を販売していた身としては常に念頭にあった当たり前の意識なのですが、ゲストが直接キャンセルを申し出しない限り、例えご予約のあった日数分実際に使われなかったとしても、部屋料金は発生しています。
ゲストからしたら「泊まってないんだから、払う義理ないよね」という気持ちになるのもわかるのですが、私たちホテル側は提供可能な部屋の最大在庫数が決まっています。これは、どうあがいても増やせません。
その場合、「実質はご利用のない予約」をリリーリスしてしまえば、他にご利用希望のお客様へ販売可能になるので利益が出ますが、その事前通知をいただけない場合にはお部屋をずっとブロックしておかなくてはなりません。
例えば7日間のご予約のキャンセルの申し出なくご利用がなかったとすれば、そのお部屋はブロックされてしまうことにより7日間分の赤字となってしまいます。
これを防ぐのが「事前決済予約」の存在です。
事前決済予約が安い理由
事前決済が少し安い理由には、ちゃんと理由があります。
先述に書いたように、ご予約を承る=空間のブロックをするということ。
ホテルは、スーパーのレジのように商品を目の前に持ってきてもらって1アイテムずつバーコードを読んで目の前でお会計をする、といったようなわかりやすい売買スタイルではありません。
お客様が実際に到着される前に、私たちは商品の提供をしています。
レストランでの食事であれば、お会計をせずに帰られるお客様がいたら呼び止めるでしょう。
それが叶わないのが宿泊施設です。
そこで、予約サイトでよく目にする「事前決済予約」という方法で、100%のデポジットをご到着前に保証してもらっています。
全額まるっと請求してしまえる=ホテル側のリスクヘッジができるので「ちょっとまけといたろか」な料金で提供しているため、この予約カテゴリーは比較的安価で予約が可能になっているというからくりがあります。
ですが、もちろんのことキャンセル不可という厳しい条件と隣り合わせなのは、ここまでの説明でなんとなくわかっていただけましたでしょうか。
釣った魚は逃しません。
部屋の提供にかかる基本的なコスト
部屋料金は、部屋の維持管理にかかる基本的なコスト(清掃、電気、水道、設備のメンテナンスなど)をカバーするものです。
「空間提供」の対価とは、それほど実はロマンのない現実的な物事に対して課せられている費用なんですね。
また、部屋自体の広さや設備によって異なるため、部屋ごとの料金設定が異なっています。
少しランクの良いホテルでは、「眺望」に対するコストも徴収します。
これも「空間提供」という観点では、ぐぅの音が出つつも納得の理由です。
追加のサービスやリソースに対するコスト
人数料金は、宿泊者一人一人に提供されるサービスやリソース(ベッドリネン、タオル、アメニティ、朝食など)の費用をカバーします。多くの人が宿泊する場合、その分の追加のリソースが必要となるため、人数に応じて料金が上がる仕組みです。
リネン類のクリーニング費用はホテルのコスト削減の課題の1つでもあることは、ゲストも実は身近に感じられているのではないでしょうか。
「ベッドシーツの交換が不要な場合はお知らせください」
この小さな注意書をホテルの室内で見たことがある方は多いと思います。
そういえば一時期、タオルやバスローブなどを持ち帰るゲストがいるとテレビで話題になった時代がありましたよね。
すごく綺麗に見えるけど、あれも結局はただ洗って使いまわしてるので、どこの誰がどんな使い方してたかよくわからない備品を持ち帰って、何に使っているのだろうかと少し興味はありますが、持って帰っちゃダメですよ!
最近のホテルは、盗難防止のためかシャンプー類は壁に固定式になっている気がしています。
設備やアメニティの利用量の増加
宿泊者が増えると、部屋内での水や電気の使用量が増加します。これにより、ホテルの運営コストが増えるため、人数に基づいた追加料金が発生します。
私が昔に働いていた海外のホテルでは、湯船にお湯を溜めている間に寝落ちするというゲストがたまにいて、下の階にまで水漏れして苦情が出るということがありました。
そうなると、被害の出た部屋は2部屋。また、床を乾かすのに数日かかるので、この手のメンテナンスで被害額の請求をしなくてはならないのですが、おもしろいことにこれよくやるのが日本人なんです。
お風呂文化に重きを置く日本人は、滞在先でもバスタイムを楽しみたいというのは、私自身も同様なのですが、日本語に訳した請求書を部屋に持って行くのが当時の日本人スタッフである私のミッションのひとつでした。
法律や安全面での理由
消防法や建築基準法などによって、部屋の最大収容人数が決められています。定員を超えて宿泊する場合は安全面での配慮が必要で、料金を調整することがあります。
実際に体験されたことがある方の方が少ない(と、信じたい)と思いますが、滞在先のホテルで火事が発生した時の避難指示はどのようにマニュアル化されているかご存知でしょうか。
最近久しぶりに観た映画「The Intern」でもジュールズとベンが新しいCEOに会いに行く前日に滞在したホテルで火災報知器が発動してしまって外に出されるシーンがありました。
あの後、ホテルスタッフはその日に滞在しているゲストのネームリストと部屋番号を照合しながら全員の安全確認のための点呼を取っています。
リストに名前がない状態で宿泊している方に、もしも何かあったとしても、ホテルでの責任は当然負いかねますので、苦情を入れるなら規約を守らなかったご自身までどうぞ。
命に関わる出来事になった場合、万が一お子様が巻き込まれたら…などというリスクヘッジは家族会議内でも必要だと私は考えます。
◉ 子供の添い寝が追加料金として請求されるのは正当か ◉
ではここで、本題の「子供の添い寝が追加料金として請求されるのは正当か」について改めて噛み砕いていきましょう。
子供の添い寝に対して1名分の追加料金が請求されることは、ホテルの運営方針や提供するサービス内容によって正当とされる場合があります。
リソースやサービスの追加負担
子供が添い寝する場合でも、アメニティ(タオル、バスアメニティ、朝食など)が提供される場合は、その分のコストが発生します。これにより、追加料金が正当化されることがあります。
事前にご相談のうえ、ホテルから案内された料金をお支払いすれば、快適に滞在をお楽しみいただけます。
部屋の収容人数の制限
ホテルは、部屋ごとに法律で定められた最大収容人数があり、それを超える場合には追加料金が必要となることがあります。
お子様であっても、宿泊人数に含まれるため、料金が発生することが滞在先のホテルによってはありえます。
部屋の設備や準備
たとえ子供が大人とベッドを共有する場合でも、ベッドリネンの追加洗濯や部屋の使用量が増加し、それに対応するためのコストがかかる場合があります。特に、清掃や消耗品の使用量が増えるため、ホテルが追加料金を請求することが一般的です。
ホテルごとのポリシーの違い
一部のホテルでは、特定の年齢以下の子供の添い寝に対して無料にするポリシーもあります。
これは、ホテルの運営コストやサービスレベルに応じた判断です。
ですが、コロナ禍で打撃を受けたぶんの挽回と、円安によるインバウンド増加により、国内ホテルのほとんどが全体的な値上げをしている印象です。
したがって、リソースやコストを理由に追加料金を請求する方針をとるのは「いい口実」だと思ったり思わなかったり。
【結論】
子供の添い寝に対して1名分の追加料金が請求されることは、ホテルのポリシーやコスト構造に基づいて正当化されることがあります。
ただし、ホテルによって異なるので予約時に確認すること、またその案内や利用規約を迷って滞在していただくことが大切です。
ホテルにまつわるちょっとした裏話のお届けでした。
次回はこんなトピックについて書いてみようと思います。
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