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東方神仏分離伝【シナリオ】(小説形式なのでパパパッと読めます)


八雲紫?


ナレーション(八雲紫)


 ――幻想郷。それは人間界ではないどこかに、いくつにも存在する世界…… 人間たちはそこを極楽の様とも、天上の様とも夢想しているわ。
 そして実際の幻想郷はというと…… そこは人間、妖怪、幽霊、神仏、精霊などが共に仲良く暮らしている、そう、それはまさに理想郷……
 ……フフフ、そうよね。そんなに簡単に理想郷が存在してくれたら苦労しないわ。……そこはどこぞの世界と変わらず、人だろうと妖怪だろうと神仏だろうと、互いの存在をかけて争い、ときに集い、また争う…… そう、まるで聖書かおとぎ話みたいにね。

 ――とまあそんな感じで、あまたに存在する幻想郷たちは、人々の幻想、理想とは程遠いものとなってるわ。

 ――フフ、所詮は”幻想”ってことね。フフフ……❤

 
 すると彼女の前を、一人の男が横切った。まるで自宅にでもいるようなTシャツとGパン姿、そしてセンター別けの長髪。しかし、悠々とナレーションをしていた彼女もそしてその男も、どちらも互いを気にすることもなかった。

 そしてナレーション女は、自身の目の前に広がる膨大な数のなモニターのように浮き出た霊魂TVの中から、1つの幻想郷に目を向けた。

「あらあ、ちょっと面白そうなトコじゃない?ここ。久しぶりに立ち寄ってみようかしら~ん❤」

 女はそのモニタの中に吸い込まれるように、それとも逆に女がそのモニタを吸い込むように……そこから忽然と姿を消した。

ーーーOPーーー


『キミはボクに似ている』予定


ーーー博麗神社ーーー


 朝日に照らされていく石段。何百とあるそれを上ると、山門の両脇では、ナズーリン・村紗水蜜・雲居一輪・寅丸星からなる四天王像が通るものを様々なる表情で睨みつけている。更に行くと、その左奥には朱に輝く五重からなる塔が、そして右を見ると鳥居の奥に権現造の拝殿が堂々と構えている。

色んな所に八卦魔理沙

魔理沙
「霊夢う~遊びに来たずぇ!」

 遊びに来たと言えども、少し前と違いやたらと敷地と建造物が増えた博麗神社において、霊夢を探し出すのは至難の業だ。すると魔理沙は背後からいきなり声をかけられた。

さとり
「魔理沙! 貴女なにしてるの? ひょっとしてこの禍々しい気配は貴女のせい!?」

とりあえず貧乳 周りと比べるとまな板レベル

 急に魔理沙の背後に現れたさとりは、急いで地霊殿から登って来たのか、息が上がり少しコーフンした様子だ。

魔理沙
「は? まがまがしい気? 何言ってんださとり、博麗神社はこの通りいつも通り、今日もいい天気だずぇ!」

 朝日も登り、朱の五重塔はさらに輝いている。魔理沙が見渡す限り、禍々しい気とは無縁の風景だ。
 だが、魔理沙たちのいる境内の伽藍からは、禍々しくはないが威勢のいい気がぶつかり合い、その音が響いている。

萃香
「くらえ~! 龍酔閃!

桃太郎イメージ

霊夢
「フン! そんなもの…… 解脱菩提!

伝説の超神仏習合

 伽藍からは、霊夢と萃香が激しくぶつかり合う音と叫びが漏れてきている。

魔理沙
「霊夢に萃香! またそんなところで修行してるのかずぇ! 仕方ないな、技の実験がてら…… はぁああ!マスタースパーック!」

 魔理沙は帽子にくっ付けてある八卦炉を取ると、明後日の方向にマスタースパークを放った。するとそれは364㍍先、五重の塔の先っぽの相輪に当たり、マスタースパークは相輪で跳ね返されるように、真上に跳ね返り二つのボール状に分かれた。

さとり
「魔理沙! あなた何処にマスパ撃ってるの!? 博麗神社を破壊でもしたいの!?」

魔理沙
「まあ見とけってさとり…… ちょっと新技の練習だ。魔理沙さまは常に進化し続けるのずぇ!」
 
 魔理沙は八卦炉を元に戻し、両手を合わせ目をつむり「ストリング・マスタースパーク!」と叫んだ。

魔理沙
「この距離でもいけるか……? ダブル・マスターボール!

 魔理沙は遠く2つに分かれているマスパを、その両手で引き戻すような、操るような仕草をした。「よし!いけた!」と叫ぶ魔理沙の両手の動きと共に、戻ってきた2つのボール状のマスパは、伽藍の両脇からその中へと入って行った。そのすぐ後、2つの「ぎゃあ」と言う声が聞こえ、伽藍の中はおとなしくなった。

魔理沙
「へへへ……っこれが魔理沙さまの新技……『ストリング・マスタースパーク』『ダブル・マスターボール』だずぇ! まだマスパを2つに分裂させるのが自分では出来ないからあの相輪を使ったけど、マスパを操るのには成功したずぇ!」

さとり
「あきれた。まーた変な技作ったのね。あなた達はいつも修行したり技を磨くばかり。ここは幻想郷よ。そんなに鍛えてばかりでどうするの?」

魔理沙
「何言ってんだ! この間だって紅魔館と戦ったばっかりだろ! それに最近博麗神社と守矢神社は仲悪いし、向こうから何かしてくるかも――」

 その時、伽藍のでかい木のドアが開くと、霊夢がキレながら走って出てきた。マスパをくらったのかそれとも修行中だったせいなのか、衣装が乱れ胸がはだけている。

霊夢
「誰よオラァ! ま~たどこかの残党連中の嫌がらせかしらァ?」

萃香
「あ ほ く さ。 どうせ紫の差し金だぞ~」

 霊夢に遅れて伽藍から出てきた萃香は、眠そうな声をしているが、目付きはハッキリし、自慢の大太刀も背中の鞘には戻さずに、肩に担いでいる。

魔理沙
「紫のババア、未だに博麗神社の勢力を……神仏を分離したがってるようだな。ま、あいつの実力じゃ無理だろうけど」

さとり
「……はああ。小競り合いのうえに、神だの仏だの。全く、地上情勢はいつ来ても複雑怪奇ね」

 悟りは呆れたような表情をするが、その眼光は鋭い。なんとなく地上に来た感を出している彼女だが、もちろんそんなわけはなく、増長する博麗神社の視察に来ているのである。

魔理沙
「つーか、ま、二人を攻撃したのは俺だけどな」 

霊夢
「ってアンタかい! 一体何しに来たのよこの遊び人!」

魔理沙
「え? ヒマだから遊びに来たのと、霊夢に新技を見てほしかったんだずぇ!」

霊夢
「だからっていきなり私達にぶつけるとは、おふざけも大概にしないと、乳もいで萃香以下の貧乳にするわよ!」

萃香
「でも魔理沙、前に言ってた技が完成したみたいだな~。2つに分けて操るなんて、カッコい~ぞ~!」

魔理沙
「だろ~? 魔理沙さまの技は全て強さとカッコ良さを兼ね備えてるからな! あっそうだ! もう一つ技が出来たんだけど見――」

さとり
「――あんたたち!!!」

 さとりはいきなり叫ぶ。

さとり
「あのねえ! このおかしな気配を、禍々しい気を感じないの!? こんな嫌な気配、この幻想郷始まって以来――」

 その時霊夢が間髪入れず反論した。

霊夢
「あ~ら地底人さん? あたしはこの仏道を取り入れた過去最強のスーパー博麗神社の、さらには修験道まで取り入れたハイパー巫女なのよ? 確かに変な気配は感じるけど、だからってそんなにギャーギャー騒ぐことじゃないわ」

 霊夢は余裕そうに錫杖をドンと下ろした。

魔理沙
「……いや~霊夢、和とか仏とかの気配にあんまり聡くない俺でも、確かに何かヤバそうなのを感じてきたずぇ?」

萃香
「霊夢ぅ~。わたしも変な気配を感じるぞ~? まずいんじゃないのかぁ~?」

霊夢
「うっさいわね! あ~もうハイハイわかりました! じゃあパパパッと片づけてくるから待ってなさい!」

 霊夢は余裕そうに錫杖を担いで闊歩していく。

さとり
「だっ…… 待ちなさいこの爆乳巫女! この気配、 いくら何でも貴女1人じゃ対処できるかわからないわ! 偶然とはいえ折角、4人もここに揃ってるんだから、皆で気配のする現場まで行くのよ…… 流石に4人もいれば、どんなものだって滅することが出来る筈よ!」

霊夢
「……あ~めんどくさいわねマジで! でも確かにみんなで行った方が確実ね。じゃあそれでいこうじゃないのよ?」

 というわけで、一同は気配の方へ向かうのであった。さとりのサードアイは、博麗神社の豪華絢爛な拝殿の裏、縦に割れた114.514mの山の麓を指し示していた。

レクイエムフォードリームかかってそう

萃香
「なんだ…… なんだこれ! すごい負のパワーを感じるし…… な、なんかすごく……クサいぞ!」

 謎のゴーグル、ヴァンホーテンのクォクォア、カミキリムシ、伸縮性のあるボクサー型の…… 石、ソファー、デカい鎌、まずそうなビール、割れた後くっつけられた❤型のクッキー……
 そこには、おおよそこの世のものとは思えない、かつ意味の解らない、更にはそこにいる全員がかつて感じたことのない、禍々しい臭さとおぞましい臭いが漂っていた。

さとり
「こんなおかしなモノ…… 幻想郷にあっちゃならないわ! そもそもこういうモノのが入ってこないように守るのが霊夢、あなたの役割でしょ! 何やってるのよ!」

 さとりがキレていると、霊夢は冷静にこれらの遺物に近づき、堂々と錫杖を水平に構えた。

霊夢
「……やはりね。このくっさい遺物たちは、この幻想郷に入ってきたんじゃなく、いきなり発生した、と言うのが正しいようだわ。入ってきたならあたしがその時点で気づくはずだからね……」

 霊夢はそのはだけた胸のまま、自信満々に核心をついたような笑みで語った。

魔理沙
「発生した? どういう事だずぇ? ここは博麗神社の敷地なのに、そんなもんがいきなり発生するなんて……」

霊夢
「……そうねえ。う~ん…… まあ、一番ありえそうなのは、紫が瞬間移動させる能力を使ってこの遺物を置いた、とかかしら?」

魔理沙
「……そうか! 紫のスキマ能力なら汚いものでも一瞬で移動させられるし、あいつの妖力なら博麗神社を包む結界も突破できるずぇ!」

 魔理沙がそう言うと、突然空間に縦割れが現れ、その中から3人がごろごろ転がり出てきた。


「みんな久しぶり~。うわあ、これはとんでもないものが置かれてるねえ。紫しゃまのせいだと思うから先に謝っとくね」


「何を言うんですか橙! いくら日ごろ博麗神社の勢力を何とか削ろうとしている紫さまでも、こんなおぞましいもの置いたりするもんですか!」


「そうよ! 私の目的は、調子こいて増長し拡大を続ける博麗神社の健全化と神仏分離よ! いくらなんだってこんなコト……」

 言いながら紫はプンスカと霊夢の周りを歩き周り、博麗神社の境内から514㍍ほど行ったところにある、デカデカと正面に朱い鳥居が建ち、突貫工事で博麗神社の拝殿の一つとなっている紅魔館を指さした。


「紅魔館…… みんな死んでしまったわ。……そりゃ戦いをしかけたのは紅魔館の連中だったわ。だからってあんた達は、紅魔館の連中を一人残らず……」

霊夢
「……しょうがないでしょ。私だって紅魔館とは戦わず協力関係でも築ければと思ってたけど、あの状況じゃ、どうしても戦わざるを得なかったし、ましてやこちらは、全員殺すつもりなんてなかった。……お互い必死に戦いあった結果、こうなった、ってことなのだけれどね」

 霊夢は悲しいような虚しいような何とも言えぬ目で元、紅魔館の方を見つめた。そして錫杖を地面にドンとブッ
刺し、両手を合わせ梵語を唱えた。

霊夢
「こうしてちゃんと、私たちは紅魔館の死んでいった連中を拝み祀ってるのよ」

魔理沙
「ま、祀ってるたって俺が見たら仏式だか神式だかわからん感じになってるけどな」


「それよそれ! あんたのとこは節操がないのよ! 今からでも遅くないわ! とりあえず仏道か神道かはっきりなさい!」

霊夢
「あんたね。……遅いのよ。博麗神社はもう完全に仏道と神道が融合してるの。あと修験道山岳信仰とかもね。見たらわかるでしょ? 大体もう仏道の主たる勢力はみんな滅んだじゃないの。ブーブーいたってしょうがないわよ?」

萃香
「そうだそうだ。それに仏道は博麗神社が吸収した方が、幻想郷の安定のためにもなるんじゃないか~?」

霊夢
「そうよ。ガチの神道は守矢神社にやらせとけばいいの。紫、あんたは月の勢力が攻めたときにでも備えときなさい?」

 霊夢は腕を組んでその上に胸を載せ、若干偉そうに言う。
八雲紫と博麗霊夢。彼女たちは「幻想郷の治安を守る」という立場で若干被ってはいるが、この世界では明確に霊夢の方が立場も実力も上なのだ。


「ギギギ…… この爆乳独裁強欲巫女め…… 胸の大きさなら私が上なんだから……!」

霊夢
「歳も相当上のようねえ? ……あら紫、あなた何してるの?」


「何って…… 幻想郷最強にして最高の美貌とボディを誇る私として、このくっさい遺物を調べないと…… これは? お菓子か何かかしら?」

 紫は鼻をつまみながら、置かれた遺物の一つ『よっちゃん烏賊』と書かれた物を手に取ろうとした。……が、霊夢が錫杖でそれを阻止した。

霊夢
「紫、いくらあんたでも、それに直接触れるのはまずいわ。……それにしても食い意地はってるのね。そんなおぞましいお菓子食べようとするなんて」


「食べるわけないでしょ! ちょっと調べようと思ったのよ! ……でもまあ、これは直接触れたりせず、もっとちゃんと封じてから調べた方がいいわね……」

 そういうと紫は「四十結界!」と唱え、遺物の周りに四重の結界を貼った。そして霊夢は「夢想封印!」と唱えた。霊夢のはだけた胸の下で黄色く五芒星が光るとともに、遺物たちはバリアのようなもので包まれる。


「このキッタない汚物たちが何なのかわからないけど、とりあえずはこれでいいと思うわ。色々調べて何かわかり次第、また対処しましょ」

 等と紫が言うか言わないかくらいのタイミングで、なぜかアリスが走ってやってきた。

ハンガリーっぽい(適当)

アリス
「魔理沙~!それに霊夢たち!こんなに集まってどうしたの?」  
 
 アリスは無邪気に魔理沙に正面から抱き着く。デカい胸と胸がぶつかって邪魔じゃないのか? みたいな顔で橙と萃香は目を合わせた。

霊夢
「あんた達ほんとに仲いいわね。でも一応ここは神社の敷地の中なんだから、あんまりイキすぎた行為はダメよ。キスくらいならいいけど」


「イイわけないでしょっ!」

 なんだつまんないとボヤキながら、次の瞬間アリスはテヘヘと霊夢の胸を下からまさぐった。

霊夢
「こらアリス! あんたデカい胸がありゃ揉む魔法でもかかってんの?!? 自分のだってデッカイんだから自分のでも揉んでなさい!」

アリス
「もう霊夢ったら冷たいんだからあ!」

 プンスカしながらアリスは周りを見渡す。 

アリス
「……あら? この臭く茶色くてなんかヤバそうなのは何なの? しかもこんなにいっぱい」


「アリス…… 貴女まさか今気づいたの? 全く天然なんだか、胸しか見てないのかしら……」

 なんてやり取りしている隙を見て、アリスは油断している霊夢の胸を後ろから揉みだした。霊夢は大声で涙を流しながら笑っている。

アリス
「だってわたし、こういう和とか東洋な気配とかよくわかんないもの。魔法とかならよくわかるんだけど…… あ、何かしらこれ? TDN石みたいよ?」
 
 アリスは、黒い光と匂いに包まれたホモビやレズビの横にあった、ハンドボール大の石をひょいと持ち上げた。

霊夢
「あ、アリス! 駄目よそれに触れては……」

 アリスに胸を揉まれていたせいで霊夢は一瞬気が緩んでいた。その隙に、和の結界があまり効かないアリスは紫の結界を何も無いように通り抜け、臭い遺物を軽々と手に取ってしまった。
 そしてその瞬間、黒い霧か影のようなものが彼女を包み、持っていた石はひび割れている部分から鈍く青黒い光を漏らし、そしてその瞬間、彼女の断末魔が博麗神社に響き渡った。

アリス
「え、な、何!? き、きゃああああああああああああああああああああ!!!
な、何かが私に入ってくる……! 飲み込まれちゃう!浸食されちゃう……! だ、誰か…… た、助、け……」
 
 瞬間、霊夢は九字を唱えたのち『剛馬封印』と叫び地面に手をついた。すると腹の五芒星が再び光り、同時にアリスを包むように地面にも五芒星が現れた。すると段々と、アリスを包んでいた青黒い光は消えていく。しかしだがそこには、何かが憑依したような、それとも何かと融合したようなアリスが立っていた。

初代リスペクト

 霊夢の封印技も、紫の四重結界も効果があったのかなかったのか、そこに立つのは間違いなくアリスだと分かる女だった。しかし、伝わる雰囲気はいつもと違い、どこか暗く、ピリピリとしている。
 アリスは、遺物のそう闇、ともいえる力を取り込んでしまったのである。

アリス
「ふふふ……」

 アリスは小さく、漏れるように笑った。

霊夢
「な、どうしたのよのアリス…… もしかして、私たちがわからないの!?」

アリス
「知ってるわよ…… 頼もしい仲間……」
「そして今は……」

 アリスはゆらりと身体を揺らした後、ギロリと睨むと超スピード♂で萃香を攻撃した。ふいに攻撃された萃香だが、背中の大太刀『伊吹丸 』を素早く抜き、
鬼酔閃!」と叫び、アリスの大鎌をその大太刀で受け止めた。激しい金属音と共に萃香がのけぞった瞬間、アリスは瞬時に背後に移動し萃香を大鎌で容赦なく斬りつけ、萃香はその場に気絶したように倒れた。 
 アリスは次に、なにが起こったかわからず呆然としているさとりを石で殴り付けた。さとりはグゥという声にならないうめき声を出した後、夥しいの血を流しながらフラフラと歩きだした。

さとり
「やはり博麗神社とその勢力は尋常じゃない…… いずれは私たちの地霊殿までも……」
「姉さんたちに、皆に…… この危機を伝えないと……!」

 かつての様々な戦いで、地霊殿メンバーも死んでしまったものが数人いる。さとりは、地底を守るためにも、妹を守るためにも、血を流し這いつくばりながらもその場を後にしていった。

 一方たどころ、さとりや萃香などを軽くボコるアリスを見つつ、霊夢と魔理沙はアリスへの対策を練っていた。
 
霊夢
「アリス…… 闇の力か怨念か何かに飲み込まれたわね…… 全く、すぐそういうのに飲み込まれるんだから……」

魔理沙
「体質なんだろな…… すぐ操られたり暴走したり…… 不安定なやつだずぇ!」

霊夢
「……まあ、あまり悠長に分析してる暇はないわ。いくわよ、魔理沙!」

魔理沙
「おう! 俺達二人でやれば! いくずぇ!」

 萃香とさとりを倒したアリスは、次の標的だとばかりに、少し離れた霊夢と魔理沙の方を向いた。そして瞬時に彼女たちの方に駆けていく。

霊夢
「今、ね……! アリス、元に戻るのよ…… 剛魔降臨!

魔理沙
「アリス、荒療治はいつもの事だずぇ…… ウィッチングブラスター!

 大技を繰り出す二人。しかしそれらは無意識に、アリスが死なぬよう手加減されていた。
 爆炎と閃光に包まれるアリス。が、それが薄れていくと、地面に伏し、まるでパワーを溜めているような彼女が姿を現した。

瞬発力すごそう

 アリス
「………………」

 アリスはゆっくりしゃがみ込むと、霊夢と魔理沙が次の技を出す瞬間に背後へと回り、二人の無防備な背中を立て続けに鎌で殴り吹っ飛ばした。
 だが、霊夢も魔理沙もそんな不意打ちでやられてしまうほどヤワではない。イテテとつぶやくと、ゆくっりとだが起き上がった。
 
 一方、陰で隠れて見ている紫たちは始終驚いている。


「霊夢と魔理沙のコンビが……!? ううん、藍! 橙! とりあえずここは退散よ!」

 紫はスキマを使い、他の二人と共にスキマの能力で瞬間移動し退散した。誰も立っているものが居なくなったのを察したアリスは、段々と動きを止め、力を使い果たしたかのように動かなくなった。

霊夢
「アリスの動きが止まったわ。エネルギー切れかしら……? こ、これでアリスが元に戻ってくれればいいんだけど……」

魔理沙
「なんちゅー速さだと強さだよ…… いてててて、クソ、傷は深いずぇ…… アリス、どうか元に戻ってくれよ……」

 背後から殴られ斬られ吹っ飛ばされた二人は、ロクに動けない状態でそう願ったが、直立したアリスはゆっくりと宙に浮きはじめた。そして3.64㍍ほど登ると、ぐるりと周りを見渡す。そして、何かに気付いたかのように動きを止めた。

闇アリス
「これは…… 幽香ね…… ふふふ……!」

 闇アリスは壊れたような、ただ楽しみを見つけたような笑みを浮かべたまま、そしてそれ以外には興味を失ったように、まだ息のある数名を放置し、太陽の畑、風見幽香のいる場所へと少しずつ速度を上げながら飛び去って行った。

霊夢
「アリス…… ゆ、幽香がいる方へ向かったのかしら? ところでま、魔理沙…… 大丈夫……?」

魔理沙
「そっちこそ大丈夫かずぇ?…… ま、これくらい、いつもの、こ、こと……」

そういうと、霊夢と魔理沙は気を失った。

ーーー白玉楼ーーー



 現時点の幻想郷にはいくつもの勢力が存在する。

  • まず、紅魔館も吸収し色々な仏教っぽい勢力をも吸収した『博麗神社』

  • 博麗神社に存在意義を奪われつつも、幻想郷の秩序と安寧を願う?『八雲家』

  • 以前に地上との戦いで戦力が半減してしまったが、いまだ地底世界をつかさどる『地霊殿』

  • 幻想郷で死んだ者の霊魂をむさぼり、その完全なる消滅を担う『白玉楼』

  • 純神道的な勢力をまとめ上げた『守矢神社』

  • 月に追放されたものの、いつか地上へ戻る日を待っている『永遠亭』

八雲紫
「う~ん、どうしようかしら?」 
 さて、スキマの能力で瞬間移動する八雲紫。その移動先は白玉楼。中華と和が折衷したような荘厳な建物には半霊がグルグルと周りを取り巻くいている。だが、それはセキュリテと言うよりTDN亡霊の群れで、部屋に入ってしまえばどうと言うことは無い。
 そして、紫は唐突に声をかけた。

八雲紫
「――こんにちわ、半人半霊さん。幽々子は何処かしら?」

妖夢
「……え、……わっ! ゆ、紫!? な。何ですかいきなり現れて! 幽々子さまは今、お食事の後のお昼寝の最中です!」

八雲紫
「そ、ありがとさんね♪」

 そう言って紫がスキマに乗って白玉楼のもっと内部に飛んでいこうとすると、妖夢は刀を当然のように抜き、紫に斬りかかった。

妖夢
「まて~! 八雲紫、かくご~!」

 二刀で斬りかかる妖夢を、紫はマントで弾いて軽くあしらった。攻撃を流された妖夢は、そのまま石段にドカンとぶつかった。そして八雲紫は、博麗神社ほどではないが豪華絢爛の白玉楼の中にスウッと入ってゆき、丁度眠りから覚めた幽々子のもとに降り立った。

伏羲 女媧

幽々子
「……あら~? 紫……? 変な格好ね。それに自分からここに来るなんて、珍しいわね~。どうかしたのかしら~?」

八雲紫
「――幽々子? 貴女、死を操れるわよね? ほかの世界ではだいたい皆そうだったけど。アナタもその力を持っているなら、アナタにするのもありね……」

幽々子
「……私にする? 何を私にするの? 宴会の主催かしら? それとも――」

 幽々子は鉄扇を仰ぎ、胡蝶を大量に召喚した。そして間髪入れず、大量の胡蝶が八雲紫を包む。

幽々子
「今すぐあなたを宴会のメインディシュにしてあげようかしら~?」

 幽々子は寝起きで気分が悪いようだ。
 そして八雲紫は胡蝶をマントであしらう。

八雲紫
「強さとしては、貴女でもいいんだけど…… イチイチ半身半霊さんがついてきそうで面倒そうだし…… ま、今のところは保留にするわ。……フフフ。じゃあねん❤」

 そう言って八雲紫はスキマの能力で消えて行った。機嫌の悪さが治ってきた幽々子と、八雲紫にあしらわれ自爆していた妖夢は目を合わせる。

 幽々子
「あらあら~。紫ったら雰囲気変わったわね~?」

妖夢
「そもそも何の用で来たんですかね……」 

ーーー永遠亭ーーー


 八雲紫は次の目標へ進んだ。お次は『永遠亭』。なんとこの竹林に包まれた茅葺の大屋敷は、月にあるのだ。もちろん八雲紫は、スキマの能力で月まで一瞬で移動する。

てい
「あ~またヤマタノオロチに負けたー! うどんげのせいだからねー!」

優曇華院
「ていがちゃんと回復役に徹しないからです! もう!次は私がエビナ丸を使いますからね!」

てい
「え~やだよ。私ボエモンの方がいいー!」

 永遠亭の広い内部は多くが病院施設となっており、診察設備だけでなく入院設備、更には病院と同じくらい大きな研究機関まである。その中の一角、診察室横の待合室では、なぜか二人のうさぎがTVゲームをしている。

えーりん
「こらあ、二人共。誰も患者が来ないからってゲームばかりするんじゃないわよ?」

てい
「え~だってヒマだよ~」

優曇華
「そうですよ~。やっぱり患者さんがいないとつまんないです。それにしても、まだ輝夜様は生き返れないんですか?」

えーりん
「まだよ。言い伝えに『千年経てば生き返る』ってあるんだから、きっとその通りなんでしょう」

てい
「でも、もう輝夜様が死んじゃってから931年くらい経ってない? 誤差で生き返るかも!?」

えーりん
「まだ893年よ。それにしても……」

 えーりんは飾られた輝夜や綿月豊姫、藤原妹紅らの遺影を見、そして窓の外に蒼く輝く地球に目をやった。

えーりん
「……私たちがあそこに帰れるのは、いつになるのかしらねえ……」

 えーりんは諦めたような、それとも懐かしんでいるような目で言う。

てい
「それで、えーりんさまー、人を生き返らせるっていう『蓬莱の薬』はー? まだできないのー?」

優曇華
「そうです! もしそれが完成すれば、みなさんを生き返らせ、地球に攻め込むことも……」

えーりん
「ううん……やっぱりダメね。あと一つ何か、何か要素が足りないみたい……」

 えーりんは悔しそうに地球から目を逸らした。その時、何者かが足早にえーりんのもとに駆け付けてきた。

綿月依姫
「――永琳様! 何やら永遠亭内外に怪しき気が!」

 長く美しい紫の髪に壮麗な鞘の日本刀を右手もつ綿月依姫。えーりんの下にひざまずく彼女は、左目には眼帯を付けている。

えーりん
「怪しい気? 私には何も……」

 その時、八雲紫が彼女たちの目の前に現れた。この世界の紫と違い、妙な装いをしていても、彼女たち顔つきは一気に変わり、張り詰めた空気が八雲紫を迎えた。

優曇華
「え、ま、まさか……」

てい
「やくも……紫!?」

 八雲紫はフフと笑うと、えーりんに近づく。えーりんは驚いているのかそれとも警戒しているのか、八雲紫を凝視し声も出さない。だがそんなことは気にせず、八雲紫は周りをちらと見渡す。

八雲紫
「この世界の永遠亭は、やっぱり他と大きく違うみたいねえ…… そもそもなんで月にあるのかしら?」

 八雲紫は周りを見渡しながら言う。しかし、紫の言葉はえーりん達には、ほとんど耳に入らない。

えーりん
「や、八雲、紫…… 810年ぶりね? 一体、何のご用かしら……? 何百年もの間に、ファッションセンスは壊れたみたいだけど……」

 えーりんは明らかに敵意を見せ、八雲紫を睨みつける。

八雲紫
「あら、そうなのお? 随分しばらくみたいねえ。お久しぶり。八意永琳さん? フフフ……❤」

 飄々としている八雲紫に、えーりんは指を突きつけ大声になる。

えーりん
「……八雲紫! 何の用でここに来たのかしら!? 私達はあなた達を許さないし、いつかその恨みは返すわ! それはそう…… 今でもいいのよ!」

 えーりんがそう言うと、ていと優曇華は戦闘態勢をとる。

八雲紫
「あら、この世界の貴女たちはすごく好戦的なのねえ。しかも、地球との間でいっぱい戦ったのかしら? あちこちに遺影がいっぱいよ。イエーイ! なんてね♡」

 その言葉に、いよいよえーりんは怒りをあらわにし声を荒らげた。

「……ふ、ふざけるのも大概にしなさい! ……931年前、突然侵攻してきて、かつ統率のとれたあなた達の前に、散発的に挑んだ私たちは甲斐もなく敗れた……! そして私たちを攻めた軍の参謀、黒幕はあなただったわ!」
  
 えーりんは胸元を握りしめる。

えーりん  
「……そして私たちは月へと逃げ…… あなたたちへの恨みの日々を生き抜いたわ。でも何十年、何百年たっても、私たちに地球側のような戦いのノウハウは手に入らなかった。だから私たちは個々の能力を、薬の力すらも使って高めた……」

 えーりんは胸元から薬包紙を取り出した。そして、ていも優曇華も目を赤くし戦闘態勢に入った。だが、依姫は違った。

依姫
「永琳様! それにていに優曇華! お待ちください!」

 依姫は居合の姿勢で、怒りかつ落ち着き払った声を響かせる。

依姫
「八雲紫はかなりの強敵のハズ! 例え全員でかかっても倒せるかどうか……! それに、仮に紫を殺せたとしても、それで地球に戻れるというわけではありません!」

 依姫は徐々に押し殺したような声になる。

依姫
「八雲紫の死、それを理由に地球側から攻められる可能性もあります! 何卒! 早まったことは……!」

 押し殺した感情と声。言い終わる頃には、依姫の頬に涙が伝っていた。

えーりん
「……く、そ、そうね。ヘタなことをして地球側を刺激するのは逆効果…… 私としたことが、頭に血が上っていたわ……」

 えーりんは悔しそうな、そして早まりそうになった自分が歯がゆいような表情で、持っていた薬包紙を落とした。

八雲紫

「あ~らあら随分恨まれてるのねこの世界のアタシったら! それにアナタたち、どうも地球側とは絶対相容れないみたいね~♪」

 八雲紫は悔しさで地を見るしかない二人と、それでも臨戦態勢の二人を見渡した。

八雲紫
「フフフ❤ アナタ達なら私が何もしなくても、いつか自分達で勝手にやるでしょうね。それに水を差すことはしないわ。 ……じゃあねアナタ達、がんばってね~❤」

 そう言うと、八雲紫はスキマの瞬間移動でその場から完全に姿を消した。
 八雲紫の消失、そしてその後の誰も口を開けない空気。悔しさで、皆黙ることしかできない。それをゆっくりと、依姫が破った。

依姫
「八雲、紫…… 姉の、皆の仇…… そんなあの女が一体、何の為に此処に……?」

えーりん
「……それに、妙なことも口走っていたわ。この世界がどうとか――」

 えーりんはその視線の先を、窓の外で蒼く輝く地球に移した。そして、諦めと羨望の入り混じったような表情で続ける。

えーりん 
「――よくわからないけど…… やっぱり、地球では相も変わらず、何度も戦いが起こっているようね……」

依姫
「そうでしょうな。……全く、愚かしいことです。地球の者たちで勝手に争い、勝手に、消えていくのですから……」

 依姫は憐れむような顔をした後、目をつむり、いつもの真摯な眼差しで輝く地球を見た。しかしその目には、涙のような粒も浮かんでいる。

依姫
「……放っておけば、争いばかりしている地球側はきっと崩壊し我々にも勝機が回ってくるでしょう。きっと、いつかは……」

 依姫は目頭を指でさっとなぞった。その時振り払われた涙をまるで受け取ったかのように、えーりんの、輝く地球を見る目からは一筋の涙が伝った。 

えーりん 
「……そして、私たちが戻ったころの地球には、もしかして、誰もいなかったりしてね……」 


ーーー二人の八雲紫ーーー


 八雲紫は月を後にする。そして次に向かったのは、地球の、竹林の中の少し開けた場所にある、木組み・土壁・石場建てでいかにもという日本家屋だった。小さい庭や柿の木などはあれども、あの豪華絢爛な白玉楼や博麗神社と比べるのもおかしいが、それらと違い何とも質素で、まるで竹林の中に隠れているようないでたちだ。
 八雲紫はスキマから出、当然のように屋敷の中、藍と橙がくつろいでいる場所へいきなり降り立った。

 
「ゆゆゆ紫さま? 守矢神社の視察に出かけたのでは!? お、お早いお戻りで!」


「紫しゃま~。藍しゃまってば紫しゃまの部屋に置いてあった煎餅をバリバリ食べてるんだよ~。盗み食いの藍がますますひどくなってるね~」

 
「こ、これは紫さまに無駄な肉をつけさせぬために…… あれ?」

 藍も橙も気づいた。目の前にいる八雲紫は、自分たちの知っている八雲紫と何か違う。まず体系も服装も、何もかもが違う。

 
「紫さま、何というかその…… 痩せられました? 数時間見ない間にまあ……」


「ていうか服装もヘンだよ。背もなんかいつもより高いし。ホントに紫しゃまなの?」

 
「こら橙! 紫さまになんてことを…… スキマから出てこられた以上、紫さま以外ありえないでしょう!?」

八雲紫
「ふふふ…… やっぱり貴女達でも、私は”八雲紫”に見えるのねえ?」

 橙と藍が「?」顔でボーゼンと口を開け、藍に至っては煎餅を胸の谷間にボロボロこぼす中、彼女たちの前に縦割れが現れ、どっこいしょという感じで紫が出てきた。


「守矢神社め…… 博麗神社を何とかしろというのに内輪もめばかり…… ん?」

 紫は呆気にとられる橙と藍を見、そしてゆっくりと横に目をやった。そこには、自分と瓜二つの女がなんか普通に立っていた。


「え…… 何? あなた…… わたし?」

 紫が意味不明なことを言い呆気にとられ、屋敷全体が「???」な雰囲気に包まれる中、”八雲紫”はクスクスと、そして段々と大笑いをかました。

八雲紫
「アハハハハハ! そんなに驚くこともないでしょう? 私も八雲紫よ?」

 そう言うと八雲紫はスキマを発動し、その上に座ってみせた。

八雲紫
「……ま、こんなご時世よ。八雲紫が二人ってのも悪くないんじゃない?」


「……い、いやいやいや! 私が二人いてたまるもんですか! どうせ博麗の差し金か何かでしょ! やりやがったわねあの強欲大阿闍梨め!」

※わかりづらいので、いくつもの世界をめぐる方をの紫を“八雲紫”、この世界の紫を“”と表記します。  

八雲紫
「落ち着きなさい。貴女も八雲紫でしょう? 私は、要するに別の幻想郷から来たの。スキマの能力でね」


「別の幻想郷から来た!? 何を言ってるのかしら!? 幻想郷は一つ、それを統べる八雲紫も一人、当たり前でしょうが!」

八雲紫
「そんな当たり前は知らないけど。あなたと私、同じスキマ妖怪の八雲紫なのよ? もう少し歓迎してくれたっていいんじゃないかしらぁん?」


「な~にが同じスキマ妖怪よ! 詳細はわからないけど、どうせ博麗神社か白玉楼あたりの陰謀か何かでしょ!?」

八雲紫
「あらあら。どうにも信用してもらえないみたいね。悲しいわぁ~ん★」

そっくりな二人のやり取りを呆然と見つめる藍と橙。しかし二人の会話はかみ合わない。見かねた橙は二人に割って入った。


「二人とも…… とりあえず座ったら? なんかもう見てらんないよ」

 
「そうですねえ…… 私達としては、二人でずっといられてもその、どちらに従えばいいのかわからないですし、何というかまあ、困るのですが……」

八雲紫
「二人ともこう言ってることだし、とりあえず仲よくしてくれないものかしらねえ? お近づきのしるしと言ったらなんだけど、何か相談に乗ってあげてもいいわよぉ~ん。同じ八雲紫同士ね★」


「相談に乗るたってあなた…… 急にそんなこと言われても……」

八雲紫
「そうねえ、ここでずっと突っ立ってるのもアレだし、ちょっと別の場所で話すのはどうかしら?」

 そう言うと急に出てきた方の八雲紫はスキマを開き、もう一人の紫と藍と橙に「入って、どうぞ」と促した。

 藍と橙は弾かれ入ることができなかったが、二人の紫は入ることができた。

まあこんな感じの不思議空間で
ルギア爆誕すき

八雲紫
「ようこそ~ん、私の空間へ★ ここに貴女が入れたという事は、貴女は間違いなく八雲紫だという事になるわ。そして逆説的に、私も八雲紫という事ね★」


「そんな…… スキマの中にこんな空間を作ったって事!? ほ、ホンモノ…… というのもおかしいけれど、確かにあなたもスキマ妖怪のようね……」

八雲紫
「そうよ。お互いに確認できたみたいね。オ~ホッホ★」


「そして…… こんな空間を作るなんて…… どうやらアナタ、タダモノじゃあないみたいね……」

八雲紫
「少しは信用してもらえたのかしら? よかったわ、オ~ホッホ★」

 高笑いする八雲紫を前に、この世界の紫はにやりと笑うと、ハッと思い出したように切り出した。


「そういえば! 博麗神社の裏に現れた例のアレ、ひょっとして貴女の仕業かしら?」

八雲紫
「隠してもしょうがないから言うわ。あれを置いたのは確かに私よ」


「やっぱりね…… あれはいったい何で、どういうつもりで置いたのかしら?」 

八雲紫
「あれは別の世界…… 幻想郷とは違う特殊な世界で手に入れたものよ。あれには人を暴走させたり、潜在能力や潜在意識を解放させる力があるの。だから、争いばかりしてるこの幻想郷の、その最先端に位置する博麗神社の裏にアレを置いたら、この世界の争いが、戦いがどうなるのか見てみたかったのよ~ん★」


「な、なる程…… あれにはそんな力があったのね……」

 紫はやっと納得いったような表情で、腕を組み椅子にどんと座った。そしてそのどでかい胸はぶるんとはねた。

八雲紫
「そうよ。そして今言ったけど、アレには人の潜在能力と潜在意識を解放させる力があるわ。だから今、その対象に相応しい人材を探してるのよね。眠ってる力と意識を解放して、この世界でイイ感じに暴れて、イイ感じにこの争いの時代を何とかしてくれそうな人をね……」

 八雲紫は物悲しそうな、遠くを見るような目でそういった。そしてこの世界の紫は、八雲紫の目的を測りかねていた。


「……どういうことかしら? この幻想郷の争いを終わらせたいのかしら? それとも争いを激化させたいのかしら?」

八雲紫
「……まあ、どちらでもないわ。私はただ、”観察”したいのよ。さっき言ったことをやって、皆はどう動くのか、この世界はどうなるのか、ね……」

 遠い目をする八雲紫に、この世界の紫はにやりと笑い切り出した。


「そういう事なら適任がいるわ……! 彼女なら博麗神社とその周りの奴らをぶっ潰…… 手痛い目に合わせてくれるわよ!」

八雲紫
「別に私は特定の勢力に肩入れしたり加担する意思はないけど…… まあいいわ。あなたの目的と私の目先の目的、どうやら一致しそうだしね…… それに、あなたの相談に乗るって約束だったものね。いいわよん、あなたの作戦を聞かせてもらえるかしら?」


「ウフフ…… それは……」

 他に誰もいないのに、この世界の紫は八雲紫の耳元でひそひそと話し始めた。八雲紫は、終始腕を組みその上に胸を乗せて、眉間にしわ寄せ聞いていた。

 一方藍と橙。八雲紫が二人現れた事には驚いたが、だからといってどうすればいいんだと、二人でトランプで遊んでいた。するとそこに縦割れが現れ、中から二人の八雲紫が出てきた。


「あ、どうも…… その、紫さま、お二人とも。お話はまとまったので?」


「二人の雰囲気を見るに、とりあえず何とかなったみたいだね~」

 藍と橙がそういうと、この世界の紫は扇子をひろげ満足そうに笑いだした。


「オ~ホッホ! こっちの八雲紫さんは、私たちに協力してくれるそうよ。これで博麗神社を、そして争いばかりのこの世界を何とか出来るかもしれないわね。オ~ホッホ!」

八雲紫
「とりあえず、”彼女”の説得だけど…… それはどうするの?」


「それは私がやるわ。任せといて。彼女ならきっと協力してくれるわ…… フフフ!」

 明らかに何かを企む、この世界の紫。しかし紫が何かを企むのはいつもの事なので、藍も橙もまたかよ…… みたいな、仕方なさそうな呆れた顔をしたのだった。


ーーー幽香VS闇アリスーーー


 ここは見渡すばかりの広大なヒマワリ畑、その名も『太陽の畑』。その中にこの世界の紫はスキマの能力で現れた。するとその少し先の畑の角から、太陽の光で白に輝く日傘、風に揺れるヒマワリと同じリズムで髪を揺らし、優雅にしてしとやかに歩く風見幽香が現れた。

かわいい おっぱいでかい

幽香
「あら、紫……? 珍しいわね。それも、式も連れずに、わざわざ一人で来るなんて。何の用なのかしら?」 


「用というか、頼み事というか…… まあ、いつもの事じゃない?」
 
幽香
「そうね、大体察しはつくわ…… 大きな戦いがあるから、参戦してくれって事でしょう?」 

 警戒も無く親しげに、かつ少し悲しそうに話す幽香の言葉は、この世界の紫と幽香の関係を表しているだろう。だが幽香は紅茶を入れながらその背中を少し殺気立て、そして悲しそうに続けた。

幽香
「……私はもう、戦いに参加するのは、ご免被りたいのだけれど……」

 そう言って幽香はテーブルに紅茶を置くと、親しき中にも睨みありと言う感じで紫を上目に見据えた。


「あら、お紅茶ね、頂くわ。さて…… どうもあまり歓迎されてないみたいだけど、いつもみたいな戦いの誘いじゃないわよ。ただちょっと、来てほしい場所があるだけなの」

幽香
「私に来てほしい場所? いったい――」

 幽香の言葉はそこで止まった。なぜなら、激しく、猛烈で、だが覚えのある気配が近づいて来るのを、この世界の紫紫も、そして風見幽香も感じていた。


「ひょっとして…… アリスがアレの力を!? クッ! 結界を張ったというのに……」

 この世界の紫は幽香から少しずつ離れつつ、聞こえないように呟いた。
 そして激しい気配の正体は、やはり先ほど遺物の力を得て暴走したアリスであった。向日葵畑のすぐ上を、蒼いオーラを纏い飛んでくる。

幽香
「あれは!? ……どんどんこっちに…… まさか…… アリス? アリスなの!?」

 超スピード♂で飛んでくるアリスを呆然と見つめる幽香。その横でこの世界の紫はそっとスキマの中に姿を隠す。
 そしてアリスは、動揺する幽香のそばにゆっくりと降り立った。

闇アリス
「あはは。うふふふふ…… こんにちわ、幽香。今日もいい天気ね。あなたが大切にするヒマワリ畑が映える、いい日差しだわ。そして……」

 闇アリスは、その右手の大鎌を振りかざし、幽香へと向かっていった。

闇アリス
「アナタを倒すにはいいロケーションね!」

 闇アリスは大鎌を躊躇なく幽香に振りかざすが、幽香は右手の、閉じた傘でそれを受け止めた。そしてそのまま言う。

幽香
「アリス…… いつもとその違う姿、この闘争心に満ちた気迫…… どこで壊れたのか、力を得たのか知らないけど……」
 
 傘で受け止める幽香。大鎌でぐいぐいと押していく闇アリス。しかし、幽香は目を見開き、それを払いのけてみせる。

幽香
「貴女のことだから、また何かに操られたか取り入られたんでしょうね…… なら……」

 幽香は目付きを変え、真剣な眼差しとなる。

「私が…… 貴女の目を覚まさせてあげるわ!」

 幽香の覇気に一瞬ひるんだ闇アリスに向けて、彼女は傘の先からマスタースパークを放った。それは間違いなく直撃し、闇アリスは衝撃で数㍍後ろへ戻され、激しい土埃と爆煙に包まれた。

幽香
「アリス…… いったい何が貴女をそんなことに…… でも、それを考える暇をくれそうにはないわね……」

 段々と煙は薄れ、そこから姿を現した闇アリス。しかしその身体には傷一つなく、マスパを受け止めた大鎌から煙が上がるだけであった。

幽香
「あらあら…… まさか、マスパを喰らって傷一つないなんて、強くなったものね、アリス……。 出来ればこんな形でなく、元の貴女にこれを言いたかったけど……」

 幽香がそういうと、闇アリスは聞こえているのかいないのか、そもそも聞いているのかいないのか…… 優しく、にっこりと笑って続けた。

闇アリス
「――さっきも言ったけど、あなたには一度も勝てなかったわね、幽香。そしてそんな私にも、あなたは優しく接してくれた。もっと強く、大好きな人を守れるようになりなさいと。だから……」

 闇アリスは狂気じみた笑顔を見せる。

闇アリス
「大好きなあなたを…… この手で倒してあげるわ!」

 大鎌はさらに大きさを増し、蒼とも黒ともいえないスパークを纏うと、闇アリスはそれを思い切り幽香めがけて振りかざした。幽香はこれも傘で、今度は両手で受け止める。先程より大きな衝撃。その波紋は周りの向日葵を揺らした。闇アリスはぐいぐいと大鎌で押し切ろうとする。

幽香
「あらあら…… アリスってば、とんでもないパワーね。けど……」

 隙だらけの闇アリスを、幽香は右足で思い切り蹴飛ばした。闇アリスは放物線を描き思い切り地面に叩きつけられる。

幽香
「……私のスピード、そして体術、忘れたわけじゃないわよね? さあ、いつでも、どこからでも、その乱れた力で攻撃してみなさい!」

 そう言うと幽香は全身の力を抜いたように、自然体な姿勢で構えることもしなくなった。そして、かかってこいと言わんばかりに顎をクイっとあげた。

闇アリス
「……ちょ、ちょっと隙を突いたくらいで…… 舐めないでよ!」

 そして闇アリスは大鎌で斬りかかるが、幽香はそれを華麗に避け、まるで向日葵が風に揺れるような、無駄のない柔軟さで避けてみせた。そしてその華麗な体術を、拳で、膝で、掌でと闇アリスに叩きつけ続けた。闇アリスはこれはまずいと、蹴られ吹っ飛ばされると同時にそのまま11.45㍍ほど後退した。そして幽香は、そんな闇アリスをひと睨みした後、少し納得したように大きく瞬きをした。

幽香
「……貴女、何かの力でパワーアップしているみたいだけど、どうもその力が貴女自身にあまり馴染んでいないみたいね ……そんなものじゃ、私には勝てないわよ、アリス?」

 幽香が少し余裕を見せそう言うと、闇アリスは下を向き、ふふふ、ふふふと笑い始めた。

闇アリス
「――ふふふ。流石の強さ、そして速さだわ、幽香。でも――」

 すると次の瞬間、彼女は14㍍は離れていた幽香の背後に、瞬時、そう本当に”瞬時”に移動した。

闇アリス
「――本当の速さと言うものを見せてあげるわ!」

幽香
「――な、一瞬でこの距離を?!」

 闇アリスの振り下ろす鎌を、幽香はすんでのところで傘で受け止める。そして先程と同時に蹴りを繰り出したが、闇アリスはそれを避けるのではなく、風が切れるような音を出してそこから”消えて”しまった。

幽香
「――な、そんな…… き、消えた……?」

闇アリス
「――ここよ」

 幽香は空を見上げた。11.4㍍はあろうかという上空では、太陽に重なり、マントをはためかせふふふと笑う闇アリスがいた。

闇アリス
「――幽香。貴女がどんなに素早く、そして優雅に動けても、こうやって瞬間移動してしまえば当たりっこないわねぇ?」

幽香
「……テレポート、瞬間移動かの類かしら? ……厄介ね」

闇アリス
「ふふふ…… 幽香。わたしに貴女の体術を当ててみなさい? そして避けてみなさい? わたしの攻撃を……」

 言い終わらないうちに、闇アリスはまた幽香の背後に移動したかと思うと同時に回り込ませた左肘で幽香の腹に重い一撃をくらわせた。移動と同時での攻撃に幽香は反応できず、苦痛の表情とともにその身体は地を転がった。

幽香
「……ガハッ! や、やってくれるわねアリス……」

 闇アリス
「ふふふ…… 幽香。貴女は素早く動いているけど、私はまさに”瞬間”に動いているのよ。……ふふふ。貴女に勝ち目なんか――」

幽香
「――それなら」

 幽香はそう言って立ち上がると、腹を押さえ少し顔を歪ませながら闇アリスを見据えた。そして、目をつむり深呼吸すると、今まで肌身離さなかった傘を、その地に、自らの畑にゆっくりと突き立てた。

闇アリス
「……あら? 幽香ってば、まさか貴女、一番の武器のその傘なしで戦う気かしら? ……ふふふ、残念。もう諦めちゃったのかしら……?」

幽香
「……どうかしらねえ」

 そう言うと幽香は、両手を広げぶらりと下げながら、闇アリスの方に、ゆっくり、ゆっくりと歩きだした。まるで、攻撃してみろと言わんばかりの顔で。

闇アリス
「……ふふ、何のつもりか知らないけど…… まあ、傘がなくなった分身軽で動きやすくなったってとこかしら? ふふふ、意味があればいいけど、まあ――」

 その声と共に闇アリスは、風を切る音を残しその場から消え、そして秒数える間もなく幽香のそばに瞬間移動していた。それも、その大鎌でまさに幽香に斬りかかろうという格好で。

闇アリス
「――避ける暇なん――え!?」

 大鎌は幽香の右の肘と膝で挟むように止められていた。そしてそのまま幽香の右の裏拳は闇アリスの胸をとらえる。
 え?という少し間抜けな顔を晒しながら、わずかの間宙に放物線を描く闇アリス。だが地を削りながらも、受け身を取りすぐに立ち上がった。

闇アリス
「――な、なんで…… 完全に捉えてたのに……」

幽香
「それは…… 気配よ。精神を研ぎ澄ませ、それに反応すればいいだけのこと」

 驚く闇アリスに、幽香は振り向くこともなく語る。

幽香
「確かにあなたは瞬間移動しているわ。でもそれは空間を無視し移動するような、例えば紫のようなものではない…… そう、要は信じられない、本当に信じられない超スピード♂で、“瞬間的に”動いたものね。それなら、移動、そして攻撃の気配を捉えれば対処できるわ……」

闇アリス
「……そ、そんなことが……」

 闇アリスは信じられるかと言う顔で、力を込めるようにその身体を沈める。

闇アリス
「一回止めたくらいで余裕ぶって! 気配がわかるから何よ!? そんなもの、更に速く、そして何度もやればいいだけのこと! あなたの反応も何も意味をなさない程にね!」

 蹴り、殴り、大鎌…… あらゆる攻撃をあらゆる角度で闇アリスは繰り出した。だがそれは全て、避けられ、受けとめられ、そして幽香の拳や肘、膝といったカウンターで返される。そして一段と強いカウンターが当たると、上から落ちる速度も加味して、闇アリスは半分ほど地面に、馬鹿みたいに頭から埋まってしまう。

幽香
「――あらあら、可愛らしいお姿だコト……」

闇アリス
「……ガハッ! ば、バカな…… で、でもいつかは、いつかは当たる筈!」

幽香
「無駄よ。もうやめなさい、アリス。また今みたいなおマヌケな姿をさらすことになるわよ? それとも、あなたが力尽きるまで、同じことを繰り返す気かしら?」

闇アリス
「フ、フン! 先に力尽きるのはあなたよ!」

 身体の土をはらうと、闇アリスは再び瞬間移動攻撃を繰り返しはじめた。しかし何度やっても結果は同じ。しかもアリスはその速度と攻撃特化の性質上、移動と攻撃の間は防御姿勢を取ることができない。そうして幽香のカウンターを何度もくらっていくうちアリスは、その服も、そして腕も顔も傷ついていった。だが、その攻撃スピードはどういうわけか、わずかだが段々と、段々と上がっていった。それに比例して幽香の息は上がっていく。

闇アリス
「ふふ、ふふふ…… やっぱり先に力尽きるのはあなたみたいね、幽香! 息がどんどん上がってるわよ!?」

幽香
「これは…… これは勘違いじゃないわね。貴女は疲れないどころか、その力と速度は少しずつだけど増していってる。しかも、どんどん傷ついているにも関わらず……」

 それまで真顔でいた幽香も、険しい表情になっていく。幽香は気づいたのだ。闇アリスは疲れも知らず、ダメージを受けてもなを段々と、段々とパワーとスピードを上げていることに。そして闇アリスは、傷ついた顔で狂気じみた笑みを浮かべていく。

闇アリス
「ふふ、ふふふ…… あなたも気づいたんでしょう? どうやら私、この体に慣れてきたみたい。パワーもスピードも上がっていくのを感じるわ…… さあ! 今にあなたが力尽きるか、私の速さが上回るわ! 覚悟はいい!?」

幽香
「さ、流石に不味いわね…… こうなったら仕方ないわ…… アレを、アレを使うしか…… しかしアレを彼女に当てるためには……」

闇アリス
「ふふふ…… 何をブツクサ言ってるのかしら? もしかして、霊夢のとこのお経だったりして?」

幽香
「お経…… 私は霊夢みたいにお経みたいな技で相手を動けなくしたりは出来ない…… ……! そ、そうよ!」

 何かに気付いたような幽香は、次の瞬間スゥっと上空へ、14㍍ほどの高さへと昇っていった。
 
幽香
「泥臭いやり方だけど…… 要は物理的にアリスを動けなくすれば…… もう、これくらいしか思いつかない……!」

闇アリス
「ふふ、ふふふ、ふふふ…… 何をする気か知らないけど…… 行くわよ!」

 風を切り、瞬間移動からの攻撃を何度も何度も繰り出すアリス。一方幽香はアリスの攻撃を避けるばかりで、お得意のカウンターを繰り出さない。

闇アリス
「ふふふ! どうしたの? 避けてばかりじゃどうにもならないわよ!」

 どんどんと瞬間移動攻撃を繰り出すアリス。そして少しずつだが確実に、速さも力も増していく。
 しかし幽香は終始目をつむり、激しい攻撃を華麗に避けていた。が、アリスが真下から攻撃してきた瞬間に目を見開くと

幽香
「ここよ! ……フンッ!」

闇アリス
「!? ……ウッ!」

 幽香はそれまでになかった、力のこもった強いカウンターで蹴りを入れ、闇アリスを真下に突き落とした。すさまじいスピードで地に落ちた闇アリスは、地中に1㍍ほどめり込み、動けなくなった。

闇アリス
「がはっ! ……ふふふ、でもこんなもの!」

 身体から波動のようなものを何度も発し、周りの地面を無理矢理拡げ崩していく闇アリス。そして左手で地表を掴み、さあ出ようとした時、ふいに上空から幽香の声がした。

幽香
「――やっぱりまたおマヌケな姿をさらしたわね!」

闇アリス
「――ハッ! その傘……!」

 言いながらアリスが声の方を見上げると、上空の幽香が畑に置いてきたはずの傘を持っているのが見えた。瞬間、そこからビームのようなものが発せられ、苦しそうな声と共にアリスは再び地面深くに押し戻されてしまう。

幽香
「――また動けなくなったわね? ……さあ、今からは遠慮せず、自分のおマヌケな姿を楽しみ続けなさい!」

闇アリス
「……な、何よ今のは…… レーザー……? ハッ! そうかマスタースパークね!」

 そう。幽香はマスタースパークを放っている。それも24㌢ほどしかない、細いまっすぐのレーザーのようなものを。2発目のそれはそれは闇アリスの胸に直撃すると、彼女をさらに地中深くにめり込ませた。

闇アリス
「……ふ、ふふふ。これがさっき言ってたとっておきかしら? 少し驚いたけど、今の私には、こんなものほぼダメージはないわ!」

 闇アリスはそう言うが、彼女は地中2.525㍍近くはめり込み身動きは取れない状態。少しシュールである。

幽香
「……”アレ”を発動するのには少し時間がかかるわ。アリス、その間あなたに攻撃されるわけにはいかない…… ずっと貴女はそのおマヌケな姿のままいてちょうだいね ……さあ、そのためのマスタースパーク!」

 幽香は何発も、それも19.19回を超えるほど、細いレーザーのよなマスタースパークを闇アリスにくらわせた。もう5.14㍍は地面にめり込んだ闇アリス。身動きは取れないが、あまりダメージは見られない。

闇アリス
「……ふふふ。こんなセコいのがあなたのとっておきとはね。私を地面に埋めてしまおうって作戦かしら? ……勿論、そう上手くはいかないけど!」

 アリスがそう言っている間に、幽香はさらに上空、19.19㍍程に舞い上がり、そして地中深くめり込む闇アリスを見据えた。

幽香
「これで最後ね…… 私自身、全ての力を使い切るわ。間に合えば、だけれど……」

 幽香は右手に持った閉じた傘を天にかざす。と、それはゆっくりと開いていった。まるで、花が咲くかのように。

幽香
「――太陽よ! 私に、そして私の子、向日葵たちに力を!」

 すると、真上にかざされた傘はパアッと太陽の光を受けたかのように光り始めた。幽香は傘をゆっくり下ろすと、それを眼下で必死に土の中であがくアリスに向けた。そして、もう1つの太陽かのような明るさとなった傘は段々と、螺旋の、虹色の光を帯び、少しずつ回転し始める。

幽香
「私の愛する向日葵たちよ…… その生命、いま少しだけ借りるわよ……」

 幽香がそう言うと、太陽の畑中の向日葵から、幽香に向かって光の粒が舞い上がる。するとそれは傘に吸収されていき、傘を取り巻く虹色の光はどんどん大きさと眩しさを増していく。

闇アリス
「……!? な、 何をするつもりかしら…… クッ! なかなか動けないわね……」

 闇アリスは身体からドクンドクンと波動を発し、周りの地面を拡げ壊し崩していくが、流石に深すぎるのか手間取っており、まだ自由に動けないでいる。

幽香
「……よかった。間に合いそうね……」

 向日葵たちからエネルギーを受け取り続け、真上の太陽を超えるかというほどまぶしく、そして激しく光る傘。そして向日葵たちから来る光の粒のようなエネルギーが止まると、まばゆい光とエネルギーを凝縮するように、そしてその中にとどめるように、その傘は螺旋の光に取り巻かれたままゆっくりと閉じていった。

闇アリス
「……クッ! このっ! ……よ、よしこれで…… え!?」

 周りの地面を拡げ吹っ飛ばしまくり、ようやく動けるようになった闇アリス。だが上空を見上げると、幽香の傘、その先端が明らかに光り始めていた。

幽香
「……くらいなさい。そして、戻りなさい、アリス…… これで終わりよ…… ファイナル・マスタースパーク!

 幽香の叫びの直後、傘の先からまばゆい閃光が走ると、5.14㍍ほどの太さを持つ、虹色の渦を巻いた光が放たれた。苦痛に歪む幽香の顔、バリバリという雷のような轟音。それが地面に激しくぶつかる時には、闇アリスはその中に包まれ、完全に見えなくなってしまった。
 響き続けるバリバリという音、大きく砕け拡がっていく大地とそのすさまじい音。その轟音のさなか、闇アリスの悲鳴も響き続けたが、次第に小さくなりそして、段々と聞こえなくなった。
 しばらく後、傘の先からの光がついえると、そこから出ていた光の束は花が咲くようにフワアッと広がり、そして一呼吸置いたかと思うと蕾のように閉じて、ゆっくりと光の粒となり消えていった。
 後に残ったのは、向日葵畑すらも巻き込み、直径36㍍はあろうかと言うクレーター。そしてそこには、先ほどの姿ともかつての姿とも違う姿で、気を失い、そして大きく傷つき倒れ、動くことのないアリスがいた。
 そして技を出した幽香自身は、強すぎる技の反動で力尽き、うなだれるような形で宙に浮いていたが、小さく「やったわ」とつぶやくと、少しの笑みと共に、地面にはたりと落ちていった。

 しばらく、静寂が訪れた。最大の技を受けた闇アリス、最大の技で力尽きた幽香。しかし、先に起き上ったのは……
 アリスであった。鎌もなくなり、元のスチームパンクな姿ではなくやたらマントがはためく姿となった彼女は、傷ついた身体でよろよろと歩き出した。

アリス
「わ、私は何を……? なんで幽香の畑に? こ、この服は……? か、身体が…… と、とりあえず、魔理沙たちのところに戻らなきゃ……」

 傷つき歩くのもやっと、更には幽香の技の衝撃と心を取り戻した反動で混乱しているアリスは、近くに倒れる幽香にも気づかず、日も傾く中、博麗神社の方へとよろよろ歩いていく。
 そしてその十数秒後、幽香もゆっくりと立ち上がった。そしてまだうつろな目で、夕日を背によろよろと歩いていくアリスを見る。

幽香
「アリス…… よかった。姿は少し違うけど、心は元に戻ったようね……」

 幽香はほっとしたような、優しい目でアリスを見た。そしてゆっくりと周りを見渡す。

幽香
「そ、それにしてもとんでもない被害ね…… ひ、向日葵畑は滅茶苦茶で穴だらけ、そして私はまだ、わ、技の反動で立つのがやっと……」

 言うなればアリスのせいで畑は破壊され、幽香もたつのがやっとな状況であるわけだが、その顔には憎悪や怒りはない。が――

幽香
「あのアリス…… い、一体誰が何のために、彼女をあんなことに……」

 幽香の胸に一抹の疑問が残る。

幽香
「でも…… 兎に角この場は、アリスを元に戻すことができたのなら……」

 言ったのち幽香は膝をつくと、ゆっくりと、満足したような顔で、再びその場にはたりと倒れ、眠るように気を失った。

 そして、その数㍍上にいきなり縦割れが現れる。中に宇宙のようなものを覗かせるそこから出てきたのは、この世界の紫であった。


「幽香…… いつも最前線で戦ってもらって申し訳ないわね。お礼といってはなんだけど、あなたの潜在意識と潜在能力を解放して、回復させてあげるわよ……」

 言いながら紫はゆっくりと、倒れ意識のない幽香を抱き上げ、スキマの中に入っていった。

ーーー大瓢箪ーーー


 一方、博麗神社の裏、件の遺物たちの後ろに広がる森の中、夕日と共に意識を取り戻したものがいた。

萃香
「ふう…… アリスの攻撃は、背中の瓢箪で何とか気絶だけで済んだけど……」

 闇アリスの攻撃で気絶していた萃香はゆっくり起き上がった。まだダメージが残るようだが、萃香は背中の、闇アリスの攻撃で大きく傷付いたクソデカ瓢箪をドンとおくと、蓋を開け中身をがぶがぶ飲み始めた。

萃香
「クソデカ瓢箪があって助かったな~! 酒でダメージ回復だ!」

 萃香はクソデカ瓢箪の中身の大半を飲み終わると、口から神酒を霧のように霊夢と魔理沙にぶっかけた。

萃香
「ウイ~。これで霊夢と魔理沙もじきに目を覚ますだろ。なんたって守矢神社特製の神酒だからな~」
 そう言うと、萃香は口をゆすぎクソデカ瓢箪を枕にその場に寝ころがった。そして少し薄れてきた夕日を浴びながら、竹林の中でグースカ寝てしまったのだった。
 そして、霊夢と魔理沙は萃香がぶっかけた神酒のおかげで体力が回復し、日が暮れた頃には両者とも眠りから覚めるように起き上がった。

霊夢
「……あら? 私たち……」

魔理沙
「暴走したアリスの攻撃で、うかつにも二人ともやられたみたいだな。……あれ? 萃香はどこ行った?」

霊夢
「先に博麗神社に帰ったんじゃないかしら? よく覚えてないけど、萃香の傷は浅そうだったし」

魔理沙
「そうか。それに萃香には回復の神酒もあるしな」

霊夢
「さとりや紫たちもいないみたいだし、帰ってビールでも飲みたいわね!」

魔理沙
「そうだな~。よし! 俺達も帰ろうずぇ!」

 そうして、二人は萃香が林の中でグースカ寝ているのには気付かず、博麗神社に意気揚々と帰っていった。萃香が目を覚ました頃には夕日に染まっていた空は、その頃には深い蒼が広がる、夕暮れ直前の空となっていた。

ーーー闇幽香ーーー


 そして一方この世界の紫。幽香を胸に抱き、博麗神社の、遺物たちの上空にワープした彼女は、考え込むようにそこに留まっていた。いつの間にやら日はほぼ沈み、夕とも夜とも言えぬ、深い蒼い色の空が広がっていた。紫は博麗神社の方に去っていく霊夢と魔理沙を見つけたが、今はそんなことには構っていられないと、目線を眼下に広がる遺物に戻した。


「――そもそもこれらは、私じゃなくてあの”八雲紫”が用意したもの…… 詳細がわからないから、ちょっと心配だけど……」 

 紫は胸に抱く風見幽香にでも誰に語り掛けるでもなく、一人で話し始めた。もちろん風見幽香は気絶しているが。


「まあ…… アリスの結果を考えれば…… 彼女がよこしたこれは本物ね……」

 そして紫は、胸の中に抱いていた風見幽香を、自らの膝の上に座らせるようにして、意識のないその顔を下に向けた。


「……聞こえないし、見えもしないでしょうけど、幽香。この場にある臭い遺物たちの…… その負のエネルギーは、いまから貴女に注ぎ込まれるわ。でも、とんでもなく強く意志の強い貴女なら、アリスみたいに中途半端でなく、うまく受け入れられるハズね……」

 すると紫はスキマを使い、幽香を遺物たちの中心に置き、自分はすぐまた上空に戻った。すると遺物たちから黒いような茶色くもある靄のようなものが這い出、幽香を包み込んでしまう。


「これで貴女は、この幻想郷でも最上の力を得るわ…… まあ、もともとあなたはこの幻想郷で最強だと思うけど。それにしても――」

 気絶した幽香の身体にはどんどんと、遺物から出た茶黒い靄のようなものが入っていく。だが彼女は目を覚ますことなく、それを受け入れるしかない状態である。そんな幽香を尻目に、紫はまた独り言のように呟きはじめる。


「――それにしても、幽香の潜在意識や潜在能力が解放されるって聞いたけど、一体どうなるのかしら? 今まで通り、私の仲間でいて、言うことを聞いてくれるわよね……?」

 紫は若干心配そうにそう言った後、幽香からまばゆい緑の光が発せられるとすかさず、スキマの能力で幽香をその中に取り込み、結界の外へ移動した。すると、直前までそこで幽香を包んでいた茶黒い靄は、ゆっくりと引いていった。


「この禍々しい霧みたいのを摂取し過ぎると、その分暴走じみたことになるってさっきのアリスが証明していたものね…… これぐらいかしら? 量を間違えていなければいいんだけど……」
  
 紫がそういうと、彼女の腕と胸の中には、少し見た目は変わったが、アリスのように大きくそれを変えることなく、一見ではっきりと”風見幽香”だと分かる女が、気を失ったまま倒れていた。


「……あら? いつまで寝てる気かしら? えい!」

 紫は、腰に差していた扇子で幽香をペチンと叩いた。

幽香
「……う、わ、私は……」

ちゃんと傘に見える見える……?

 幽香はゆっくりと立ち上がった。
 確かに彼女は風見幽香であろう。だがやはり姿は少し変わっていた。いつもの短髪は長髪に、そしてスカートだったものはロングパンツとブーツに変わっている。胸元にはリボンでなく黒いスカーフ。そして、何故か最初から破れていたりやたらと胸が出ている半袖のブラウスと、これまた傷つき破れたようなチェックのベストが上半身を包んでいる。そのように少し見た目は変わっているが、アリスとの戦いでついた傷はすっかり消えており、そして彼女の横に転がる、彼女最大の武器だった傘は和傘のようなものに変わり、しかも持手一つに対し両側に何かが描かれた布傘がついている、まるで双頭の槍の様なものになっていた。


「……いい姿よ、幽香。気絶していたせいで抵抗しなかったからか、それともあなたに適性があったのか、うまく遺物の力で潜在意識と潜在能力が引き出されたんじゃないかしら? いつも以上のすさまじい力を感じるわ」

 紫がちょっとうれしそうに喋っていると、幽香は瞬時に紫のもとに移動し、傘を喉元に突き立てていた。

幽香
「……紫、これはなんだ? 貴様の仕業か?」


「ちょちょちょちょっと、幽香、私は紫よ!? どうしたっていうの!?」

幽香
「そんなことはわかっている。紫、質問に答えろ。でないと、貴様をこの場で叩きのめす」

 幽香がそう言っている間に、紫の身体はスキマの中に入っていった。


「せ、潜在意識と能力が解放されて大分荒っぽくなっちゃったようね…… ここは一旦、お暇させてもらうわよ……」

 言いながら紫は完全にスキマとともに姿を消した。残された幽香は

幽香
「フン! まあこれが誰の仕業でもどうでもいい!」

 と目をつむり大きな声で喋った後、自分の姿や傘を改めてよく見る。

幽香
「な、なんだ……? 髪が伸びているじゃないか。しかも何だこのズボンとブーツは…… まあ、畑作業はしやすいか……」

 闇アリスの時と違い、闇幽香はいたって冷静のようだ。彼女は自身の変化をよく分析する。

幽香
「……なぜブラウスは半袖で、しかも所々破れている……? 半袖じゃあ農作業がしにくいぞ」

 色々自分の身体を物色する幽香。そして、一番目立つ部分に彼女は気を荒げる。

幽香
「というか何だこのバカでかい胸は……! 邪魔だし真下は見えないしで農作業がしずらいじゃないか―― くそ!」

 イラッとして何となくその辺の、由緒ありそうな巨木をブン殴る幽香。ハッとして自分のやったことを見ると、そこにあるのは1㍍もの大穴をあけられた巨木と、散らばる木片だった。

幽香
「こ、これは…… 今私がやったのか?」

 意図せずとはいえ、植物を吹っ飛ばしてしまった自分のパワーと見境なさに、幽香は戸惑う。

幽香
「……! なんだこれは! 集中してみれば、自分に更なる力が眠っているのを感じる…… しかし何故……?」
 
 幽香はわからなかった。なぜ自分は姿が変わり、しかも奥に潜むようなすさまじいパワーを手に入れたのかを。
 だが同時に彼女は感じていた。次第に湧き上がる、破壊、を望む衝動を…… しかし彼女はそれに抗おうとした。

幽香
「な、何だこの感情と衝動は……!? ど、どういうことだ…… 誰の仕業だ…… と、とにかく私はこんなものに振り回されんぞ……!」

 闇幽香は自分を落ち着かせるため、よろめきながら、彼女のバスト程はありそうな太さの、霊験あらたかそうな樹を掴み自分の頭を何度も叩きつけ、ついにはへし折ってしまう。

幽香
「……く、と、とりあえずこのおかしな状態を何とか…… 月の連中がはもういない…… 治してくれそうなのは…… 霊夢か……」

 闇幽香はなんとか、戦いと破壊の衝動を抑えた。そしてよろよろとだが、博麗神社の表、霊夢たちがいるであろう方へ歩いて行った。
 そしてそれを、小さな穴から観察しているものがいた。


「ちょっと! 最初は大丈夫だと思ってたけど、あの幽香、アリスみたいに暴れだすんじゃないでしょうね!? あの強い彼女が暴走したら、この幻想郷がどうなるか分かったもんじゃないわよ! それに止める手立てだって……」

 ”八雲紫”のスキマの中の空間で、この世界の紫は”八雲紫”の前でうろたえた。

八雲紫
「まあまあ。あの風見幽香はそこまで我を失っていないし、それにいずれ博麗神社の勢力とぶつかるわ。……見てみたいじゃない? 彼女の力でこの幻想郷がどう変わるか、それとも何も変わらないのか?」


「……く! 確かに今の幽香なら博麗神社をぶっ潰してくれるかもしれないわ…… それに止めさせようにも私たちにそんな力はない…… とりあえずは注視するしかなさそうね!」

八雲紫
「そうよ。焦らず行きましょ? オ~ホホホ★」

 そしてよろめく幽香の近くでは、伊吹萃香が熟睡していた。
 彼女は、そのその夢の中で、かつてこの幻想郷で起こった戦いを見ていた。萃香にとって因縁深い、自身が隻眼になることになった『地獄の鬼退治』の夢である。
 地獄のはずれ。かつてそこには鬼の街があり、鬼たちが住んでいた。しかし地上を、明るい世界を欲した彼女たち鬼は地上進出をもくろみ、地上で妖怪たちと小競り合いを起こすようになっていった。そんな鬼たちを鎮めようと、八雲紫の主導で行われた『地獄の鬼退治』は、いつの間にか大きく、どうしようもない泥沼の戦いとなっていた。そんな中のある日、萃香は鬼の小隊の一員として、幽香のヒマワリ畑を攻めていた。プリズムリバー三姉妹を倒すことに成功した萃香達鬼の小隊であったが、小隊長である星熊勇儀は、激闘の末に風見幽香に敗れ死んでしまった。怒りに燃えた萃香は幽香に挑んだが全く歯が立たず、マスタースパークで片目を貫かれ戦闘不能になってしまった――。

萃香
「――ッハ!? な、なんだ今のは……?」

 悪夢を見た萃香は突然目を覚ました。しかし周りには誰もおらず、記憶もおぼろげだ。

「ここは!? なんで私は…… あそっか! 怪我を治そうと神酒を飲んで寝ちまったんだ! ……よし! 怪我は治ってるな! ……まあこの右目は治らないけど」

 なんて独り言を言いながら萃香は森を歩く。

萃香
「……幽香は強いよなあ。機会があればまた戦ってみたいけど…… それはまた何か大きな戦いが起きた時なのかなあ。あいつは紫に頼まれるとすぐ参戦するもんなあ。断りづらい性格なんだ。きっと、地獄の鬼退治の時も……」

 悪夢をふるい去るため、萃香は独り言を言い続けながら歩いた。そして森を出た萃香は、苦しみ、必死に衝動を抑えようとする幽香に唐突に遭遇した。

幽香
「……!? す、萃香……?」

萃香
「!? ゆ、幽香……! どうしてこんなところに……?」

 かつて友であり上官だった勇儀を殺され、自らも幽香のマスパにより右目を貫かれた萃香。しかし今ではもう、彼女を怨む心はなく、気の置ける知り合いとして接していた。それは幽香の方もそうだったが……

萃香
「ゆ、幽香、何だどうしたんだ? なんかいつもと服とか違うぞ…… それになんか苦しそうだぞ……?」

 幽香は返事をしない。唐突に萃香の姿を見た幽香もまた、かつての戦いがフラッシュバックした。

幽香
「――い、いや! 私は戦いたくなどなかった! しかし皆が戦い、私も戦うしか…… そして…… この手で…… 私は幾人もの命を…… が、ぐ……」

 幽香は両手で顔を覆い、苦しみつつ天を仰いだ。そこには、夜を照らす満月が輝いている。

「――月…… そうだあの時も…… 妹紅、豊姫、輝夜…… 私が、こ、殺したんだ……」

 様々な戦いの記憶が苦しむ幽香を襲う。
 彼女はもう、耐えられなかった。

幽香
「あ、あああ……」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

萃香
「ゆ、幽香……!? どうしたんだ!? なんだなんだ!?」

 叫び苦しんだ幽香。必死に耐えていた彼女の心は、ふとしたきっかけでその衝動に、力に、闇に飲まれてしまった。しばらくすると、ぼんやりと黒と緑の光を発しながら、ぶらりと立った姿のまま、彼女は動かなくなった。

萃香
「ゆ、幽香……!? おい! おいってば!」

 萃香は幽香に呼びかけるが、動かない彼女から返答はない。

萃香
「な、なんだよ…… 色々とおかしいぞ…… そ、そうだ! 霊夢のところに行こう! 霊夢なら何とか……」

 萃香は霊夢の元へ走り出す。何度も後ろを顧み、動かない幽香をしり目に気にかけるが、彼女は一向にそこから動かない。

「幽香…… なんだかわからんけど、きっと霊夢が何とかしてくれるからな……」

 萃香が走り去ると、幽香は目が覚めたように、ゆっくりと顔をあげた。落ち着き、前を見据えたその目は真っ赤になっている。

幽香
「……なんだ、この透き通るような、よどみない気持ちは……」 

「そうだ…… 私は迷っていた。この幻想郷の平穏の為とはいえ、数多の命を手にかけることを……」
「だが――。何も迷うことは無かったのだ。私がいようといまいと、皆は戦い、そしてどうしようもなく、その命は消えていった……」

「だが、何と言おうと…… 私が殺した罪も記憶も消えない。死んだ者は戻らない――」

 決意したように、幽香は低く落ち着いた声でつぶやき始める。

「――幾度となく起こる戦い! 容赦なく散っていく命! 無意味な神仏――」

 そして幽香は傘を握りしめた後、両手を前に掲げる。

「――私が背負う! 戦いの苦しみ、幾度の悲しみがこれからも続くよりは――」

「――私が皆を葬る! この無意味な争いを終わらせ、皆を苦しみから救う!」

「悲しみを繰り返すこの世界を! 幻想郷を! 私が――
私が、滅ぼす!」

 スキマの奥では、八雲紫が紫にワインを注ぎながら笑みをこぼし、ワインを注がれながらの紫はアタフタと困惑していた。

ーーーVS闇幽香ーーー


 博麗神社の末社と化した紅魔館の中、その広間では、傷ついたアリスが五芒星の結界の中で光に包まれていた。その傷は段々と回復していく。そしてその横では、霊夢が真剣な顔で観音経を唱えている。

霊夢
「――或被悪人逐 堕落金剛山 念彼観音力 不能損一毛……」

魔理沙
「霊夢! アリスはもう治りそうかずぇ!?」

霊夢
「フン。当たり前でしょ。確かにアリスのダメージはひどいもんだったけど、天才たる私の経文なら時間さえあればこのくらいのダメージなら全快するわ! そろそろアリスも全快する頃じゃないかしら?」

 霊夢の言う通り、アリスは眠りから覚めるように、目をうつろに開けゆっくりと起き上がった。

アリス
「あ、霊夢…… いつもありがとね、そして……」

ピッコロさんみたい

 アリスはいつもの姿……とは少し違う姿になっている。闇抜けした影響だろうか、彼女の性質だろうか…… が、傷は全快し、精神も安定を取り戻して見える。そして霊夢は誇らしそうに胸を張っている。

アリス
「……ご、ごめんなさい! 霊夢に魔理沙……! 萃香はここにいないみたいだけど……」

 アリスは申し訳なさそうに両手をつき下を向く。暴走していたとはいえ、霊夢に魔理沙、萃香に酷いことをしたのを悔いているのだ。

魔理沙
「何言ってんだアリス! あんな姿になって、そりゃ驚いたけど、どう見てもあれはあのくっさい遺物のせいだ。気にすんなって!」

霊夢
「まったく。不用意にあんな得体のしれないモノに触れるからよ。全くアリスったら、前の大戦の時も敵に操られてたわよね…… まあ今回は許すけど、次やったら承知しないわよ?」

アリス
「……うん! 私はもう…… 何にも飲み込まれたり支配されたりしないわ!」

霊夢
「……まあ、この子いつも最後には同じ様なこと言ってる気がするけど」

 気の弱いアリスは、色々な戦いの中で何度か敵側に操られることがあった。だがアリスは杖を強く握りしめ、確固たる決意をあらわにした。

アリス
「あれ、いつもと服が違ってるわ…… まあいいわ。これはこれで動きやすそうだし」

魔理沙
「よっしゃ! あとはさっきのキッタナイ遺物をぶっ壊して終わりだずえ!」
 
闇幽香
「――終わらせるのは私の仕事だ!」

おっぱい

 闇幽香は目に映らぬほどの速度で霊夢たちの前に現れ、同時にアリスを蹴飛ばし、霊夢が作った五芒星の中に入った。

闇幽香
「……? これは霊夢が作った五芒星か。フフ、なんだか気が溢れてくるじゃないか……」

 突然現れた闇幽香に驚く霊夢と魔理沙は、とりあえず臨戦態勢を取る。

霊夢
「ゆ、幽香!? 何よこんなところに……! それに、何かいつもと違くない?」

魔理沙
「つーかアリスをブッ飛ばしやがって! どういうつもりだよ幽香!」

 闇幽香は不敵に笑うと、持っている双頭の傘を魔理沙に突き付けた。そして渦を巻く緑の光が傘の先に現れる。

アリス
「れ、霊夢! 魔理沙! 今の幽香は、さっき私がおかしな力に包まれて暴走してた時と似た気配を感じるわ! それにこの姿! きっと普通じゃないわ!」

 闇幽香に吹っ飛ばされ、紅魔館の面々が描かれた曼荼羅にメリ込んでいるアリスは迫真の表情で警告する。

闇幽香
「フフ…… そう。先刻の私は、異様なパワーを得ていたアリスの、どんなに力を得ていたとはいえ、アリスたった一人に対し究極技を出し、挙句相打ちになってしまった……」

 そう言うと闇幽香はゆっくりと目を閉じ、そして爆発的な緑のオーラと共に目をカっと見開いた。

闇幽香
「だが私はこの力と、そして決意を手にした!」

「いつも争い、悲しみがただ続き、命が散っていくこの幻想郷……」

「争いの度に悲しみが生まれるなら! 残された者が苦しむなら!」

 演説のようなノリの闇幽香。魔理沙は圧巻されたような様子ではえ~顔を晒していたが、霊夢はハッとした様子で、静かに印を結び経文を唱える。

闇幽香
「誰もいなくならない! 誰も悲しまない! 誰も苦しまない幻想郷を作り出す!」

霊夢
「――オン・マニパドメー・フン!」

 霊夢は小さくそう唱えしたり顔になる。

闇幽香
「――そう! 幻想郷は、私の手によって、今より滅ぼされる! 何度も繰り返す憎悪と悲しみを! 私が滅ぼしそしてなくしてみせよう!」

 闇幽香の壮大な決意は、聞いていた皆をたまげさせる。

アリス
「ゆ、幽香……? 一体何を言ってるの!? さっき私と戦ったときは、いつもの気高いあなただったじゃない!」

魔理沙
「……なんか幽香、ヤバいこと言ってるけど…… き、きっとアリスみたいにあの遺物のせいでおかしくなってんだずぇな!?」

闇幽香
「――フン! ではまず霊夢、貴様らからだな!」

 そういって闇幽香が霊夢の五芒星から出ようとすると、彼女は金縛りのように、そこから動けなくなった。

闇幽香
「何?! 五芒星から出られない…… そうか、霊夢め……」

 霊夢の胸の下、腹の上部には、うっすらと五芒星が黄色く光り始めている。そして、印を結んだ彼女の手から出る黄色い光もまた、地面伝いに闇幽香が入った五芒星と繋がっている。

霊夢
「馬鹿ね! わざわざ五芒星の中に入るなんて! 五芒星の結界があれば色んなことができるのよ?」
 
 そう言うと、霊夢は両手でさらに激しく印を結び叫ぶ。 

霊夢
「くらいなさい! 夢想封印!

 その叫びとともに、闇幽香は立体化し光の壁のようになった五芒星の中に閉じ込められてしまった。

霊夢 
「……幽香、アンタもパワーアップして、その上なんだか気も変になってるみたいだけど――」

 霊夢の腹の五芒星がより強く光る。

霊夢
「――この金縛りが解けるかしら!? 天才霊夢様のね!!」

 得意げの見本みたいな顔の霊夢とは対照的に、闇幽香はあきれ顔をしている。

闇幽香
「……ハッ! なにがこんなもの!」

 金縛りをくらっているはずの闇幽香は傘を地面に突き立てた。すると彼女を囲む光の壁と五芒星は一瞬で消えてしまった。

霊夢
「ウッソでしょあんた! どんなパワーよ!!」

 霊夢がたまげていると、闇幽香は傘で霊夢に突きかかる。

闇幽香
「貴様なんざ、技を出すほどでもない!」

 闇幽香の突きを、凄まじい衝撃と金属音と共に霊夢は錫杖の先でなんとか受け止めた。

霊夢
「あ、あらあら…… こりゃあとんでもない力ね。これじゃ印を結ぶ暇も、技を出す暇も与えてくれなさそうだわ…… でも……」

 ギリギリな感じで闇幽香の突きを止め続けている霊夢は、素早く魔理沙に目配せをする。魔理沙はわかってるぜと言う顔で、八卦廊を光らせた。

魔理沙
「ガラ空きだずぇ幽香! くらえマスタースパーク!

 魔理沙は幽香の背中めがけてマスパを撃った。だが闇幽香は霊夢を蹴飛ばし、素早く振り返ると太極模様が描かれた方の傘を開き、魔理沙の放ったマスパを受け止める。するとマスパは、傘の太極模様の中に吸い込まれるように消えてしまった。

闇幽香
「ハハ、気を付けるんだな! この傘は特定の技は吸収するようだ!」

 そして闇幽香は傘を閉じ、その先を魔理沙に向けた。よく見ると、傘の先端、石突きの先には八卦廊が描かれている。

闇幽香
「お返しだ! マスタースパーク!

 傘の先から放たれたそれは、驚き油断している魔理沙めがけて放たれた。ロクに防御もできない魔理沙は、それをまともにくらってしまう。

魔理沙
「うわああああああああああああ!??」

 魔理沙はまともにお返しのマスパを受けた。……と思われたが、霊夢の作った結界がなんとか魔理沙を守っていた。

霊夢
「おっそろしいわね…… 吸収するわ、すぐに打ち返すわ…… どうもあの遺物たちの力と、うまいこと融合したみたいね……」

魔理沙
「まさに悪魔の力を手に入れたのか……? それにしても、助かったぜ霊夢!」

 そこで、壁にメリ込んでいたアリスがやっと出てきた。

アリス
「……いいえ、幽香は、私と違って、遺物の力に飲み込まれてなんかいないわ……」

 アリスは拳をぎゅっと握りしめる。

「いつも操られてる私だからわかるの。あの幽香は私みたいに遺物に乗っ取られてるんじゃなくて、遺物それ自体はあくまできっかけであって、糸が切れたように、本来の力が解放されたのよ!」

魔理沙
「つまり…… どういうことだってのずぇ?」

霊夢
「ん~と要するに…… 結局、元から強い幽香がタガが外れてもっと強くなたってコト!?」

アリス
「きっとそういうことよ…… 幽香は力も精神も強い、この幻想郷で最強とも呼ばれる存在。ただ操られたり、暴走するような存在とは思えないわ!」 

霊夢
「そして…… 元から最強で、さらに力を解放した幽香なら――」

闇幽香
「――幻想郷を滅ぼすことも可能だ!」

 闇幽香の傘から、一瞬でマスパのような特大の閃光が放たれ、見せしめの様に紅魔館の中央階段を破壊した。

アリス
「やっぱり…… マスパの速度も威力も以前とはケタ違いよ………」 

魔理沙
「くそ! こっちもマスタース…… あっ八卦廊が!」
 
 魔理沙は帽子にくっついている八卦廊を取り外すが、手が滑って八卦廊くんはコロコロと転がっていく。

霊夢 
「と、とりあえず結界を……」

 と言うと霊夢の腹の五芒星が光るが、すぐに消えてしまう。

霊夢 
「げっ! 一気に使いすぎてチャクラが尽きたわ! 結界が張れない!」

 結構なピンチに、三人はどうも連携が取れずにいる。

闇幽香
「――ハハハ! 三人とも何をワチャワチャとやっているのだ! そのまま消えてしまえー!」

 そして幽香の傘から、特大の太いマスパが放たれる。それは並んだ三人を十分に包む大きさで――

???
「――と思っていたのかな?」

 だがそこに、瓢箪を担いだ萃香が闇幽香のもとに立ち塞がった!

萃香
「瓢箪よ、すいこめー!」

 萃香がカラの瓢箪の先を迫りくるマスパに向けると、なんと太いマスパは瓢箪の中に吸い込まれてしまった。そして萃香は蓋をポンと閉める。

萃香
「いしし。この瓢箪はエネルギーも吸い込んだり、放出したりできるんだぞ~」

闇幽香
「――クッ! 三人四人とワラワラと!」

 闇幽香はあきれたように傘を下した。

魔理沙
「――萃香! 無事だったんだな! よかったずぇ!」

霊夢 
「そういえばあの時、萃香のこと忘れて魔理沙と二人だけで帰っちゃったわね……」

萃香
「――鬼の萃香さまは強いからな! 酒を飲んだら全快したぞお!」

 そして萃香は闇幽香の方を向く。

萃香
「……それにしても幽香あ、さっきから見てたら、随分暴れてるみたいだなあ!」

 萃香は自分の足元に、刀の柄で陰陽模様を描く。

萃香
「かつての戦いで、私はお前に全く歯が立たなかったなあ。でも私は、霊夢たちと修行を続け強くなったんだぞ。その成果をくらえー! 
天照龍閃(あまてらすりゅうのひらめき)!

闇幽香
「……」

 萃香の渾身の技。それは大刀を肩に構えてからの超速の抜刀術。決まればひとたまりもない…… のだが、闇幽香はそれを、よけるでもなく正面から傘で受け止め跳ね返す。

萃香
「そ! そんなあ! 陰陽の力さえ使った抜刀術だぞ……!」

闇幽香
「そんな猪突猛進の技がこの私に通じるものか!」

魔理沙
「――そうなのか。じゃあ不意打ちはどうずぇマスタースパーク!

 魔理沙はさっき落とした八卦廊を拾うと、萃香の技が弾かれたのとほぼ同時に、闇幽香の真横からマスパを打った。

闇幽香
「くそ! ……等と、上手くいくと思っていたのか!?」

 闇幽香は傘で萃香を吹っ飛ばした後、返す刀で傘の先を魔理沙へ向けた。そして傘の先端からは魔理沙のマスパより緑がかった光が出てくる。

闇幽香
「ハハハ! マスタースパークの力比べと行こうか!」

 闇幽香の傘から出た緑の光は、螺旋をおびながら段々と魔理沙のマスパを圧していく。

魔理沙
「そんな! く、くそ! こうなったら…… 八卦充填装!
 
 魔理沙の魔女服の胸の下には八卦模様があるが、その中にはエネルギーが、魔理沙の気が封じられている。それを順に放出しマスパのエネルギーに加えていくのが、八卦充填装と言う技である。すべて加えれば、今の魔理沙のマスパなら3倍にはなるエネルギーだ。

魔理沙
「40㌫…… 50㌫…… 60㌫…… 70㌫……」

 六つの八卦はひとつずつ、段々と青白く光っていき、その分マスパのパワーと大きさは増していく。だが、闇幽香のマスパとはずっと拮抗したままである。

魔理沙
「75㌫…… くそ! 90㌫…… く、決まりだあ! 100㌫!」

 フルパワーで少しの間押し返す魔理沙。だが闇幽香はフンと笑い右手に力を込める。すると闇幽香のマスパの威力は一気に上がり、魔理沙のマスパを押し返すどころか飲み込みそう程のな大きさになった。

霊夢
「チャクラは少し回復したわ…… 間に合うか、そもそも通用するか…… ノウマク サンマンダ バザラダン カン……」

 言いながら霊夢は素早く印を結び、そしてマントラを小さく素早く唱えた後、両手の親指と人差し指で作った三角の中に魔理沙を捉える。

霊夢
「最大よ! 観音砲!

闇幽香
「また横から不意打ちか! 同じ手は食わんわ!」 

 闇幽香は霊夢に、左手から波動のようなものを出した。衝撃で霊夢の胸がつぶれる程の波動が彼女を突き抜けた後、霊夢は体勢が崩れ技が不発になってしまった。

霊夢
「ゲホ…… ま、マズイわ! 魔理沙!」

魔理沙
「くそ…… このままじゃ……」

 魔理沙は必死に幽香のマスパを抑えるが、マスパのぶつかり合いは魔理沙がドンドンと圧されていく。更には魔理沙のマスパは、じりじりとパワーが落ちている。

魔理沙
「あああ…… も、もう魔力が……」

闇幽香
「なかなか良かったが、所詮私を超えることはできかったな! ……終わりだ。ハアッ!」

 闇幽香は決まりとばかりにパワーを込めた。

アリス
「―――アルスター・コーンウォール!!!」 

 魔理沙たちの背後で、アリスは叫びと共に両手まっすぐ前に向けている。そして両手の先がぼんやり光ると、闇幽香のマスパが魔理沙を襲う寸前に、まるでストーンヘンジのような光る石の壁たちが魔理沙を包んだ。

魔理沙
「あ、アリスか……? 危なかったのずぇ…… ありがとなー!」

アリス
「魔理沙、多分この技もしばらくしか持たないわ! 早く!」

魔理沙
「言われなくても、逃げるのずぇ―!」

 魔理沙は後ろにいたアリスの方に逃げようと走り出すと、闇幽香は彼女たちを睨みつつ笑みを浮かべると同時に

闇幽香
「しばらくも持つものか! 何度も何度もうっとおしい奴らめ! ハァー!」

 叫びと共にさらに威力を増したマスパにアリス、が作った壁は脆くも崩れる。そしてそのままマスパは魔理沙とアリスに向かっていった。

闇幽香
「あれこれやってくれたが残念だったな! 二人同時に葬ってやる!」

萃香
「――ハアー!」

 萃香は不意に闇幽香の背後から突きかかった。決まるかと思われたが、闇幽香は後ろを向いたままで、傘の石付きで突きを受けとめた。

闇幽香
「ム…… 戦いにのめり込み過ぎて、気配に気づかなかったか!」

 受け止めた萃香を瞬時に傘で吹っ飛ばす闇幽香。しかし傘を使ったため、幽香のマスパは止まってしまった。
 そしてこれを好機と、4人は並び立ち闇幽香に対峙する。

闇幽香
「ほう…… 4人揃って戦えば、私に傷の一つでも追わせられるのかな?」

魔理沙
「傷で済むもんか! 4人でマスパを打てば、幽香、お前のマスパだって軽く押し返すのずぇ!」

 しかし魔理沙の発言に、他の3人はズッコケる。

アリス
「魔理沙、この中でマスパが打てるのはあなただけでしょ!」

魔理沙
「あ…… ま、……まあ、みんなで似たようなビーム技出せば……」

萃香
「多分レーザーだろうとビームだろうと、魔理沙以外打てないゾ~」

霊夢
「そうよ! 魔理沙のアホ! ……そもそも、この4人じゃ特性が違いすぎて、戦ってもばらばらで足並みそろわず各個撃破されるだけだわ!」

魔理沙
「……じゃ、じゃあどうするのずぇ!」

闇幽香
「そうだどうするつもりだ…… そして私はいつまで貴様らのバカなやり取りを聞いていればいいんだ……」

 闇幽香はイラついて床に傘をドンと突く。

霊夢
「……フッ。簡単よ。時間をくれればいいの。そうすればこのスーパー天才巫女の私が、ぶったまげるような作戦と統率であなたを倒してあげるわ! この3人と共にね! オ~ホッホ!」

 虚栄か本当に策があるのか、霊夢は高笑いして闇幽香に提案してみせた。

闇幽香
「フン、デカチチペテン師で名高い貴様の言うことだ、どうせハッタリだろう……」

霊夢
「オ~ホホホ! ウソかマコトかは実際やってみないとわからないのよ!? それに隠し玉として、とっておきの4人連携技があるのよ。それは貴女の、あのファイナルマスタースパークすら上回るわ!」

闇幽香
「ほう……?」

 闇幽香は少し興味を示す。

霊夢
「それには夜が明けるまで、あと9.31時間はめて待ってほしいわ。そのかわり、戦う場所は貴女の向日葵畑でいいわよ?」

闇幽香
「……ハハハ。まあ、それくらいなら待ってもいいだろう。ただし今言ったのが嘘なら貴様らは消し炭だがな」 

霊夢
「かまわないわよ~!」

闇幽香
「そして…… 貴様らは作戦を立てるのだろうが…… 別に私にそれを大人しく待つ道理はない。時間まで、私は自由にさせてもらうぞ……」

 霊夢は少しドキッとした。

霊夢
「じ、自由にってなによ?」

闇幽香
「心配するな…… 貴様らに何かするわけではない ……さて、善は急げだ。早速私は失礼する」

霊夢
「ちょっとー! 忘れないでよ幽香! 集合は明日の8:10に向日葵畑よ!」

 その声を無視したのか聞こえてないのか、闇幽香は傘に乗ると、凄まじい風音と共に一瞬でいなくなってしまい、気配もきれいさっぱりなくなった。残されたのは、霊夢以外の呆然とする3人と、月に照らされ派手にぶっ壊された紅魔館の広間だった。

 早速霊夢たちは作戦会議に入った。それは色々と運要素に賭け要素の多いものであったが、他に手はないと、霊夢以外の3人も同意した。そしてその作戦会議中も、皆は悪い予感をずっと感じていた。

アリス
「幽香…… 彼女は今この時何をしているのかしら……」

霊夢
「去っていく前のあのセリフからして、どこかで朝まで寝ていようって感じじゃなかったわね。となると……」

魔理沙
「やっぱり…… 私たち以外の奴らを襲ってるんじゃ……」

萃香
「そうかもなー。でもだからって私たちにはどうしようもないぞー」

霊夢
「そうね。せめて…… 幽々子とかと闘って、負けるか相打ちになってくれればいいんだけど。そうなれば色々手間も省けるし一石二鳥よ~オホホ!」

魔理沙
「いいなそれ! 守矢神社の奴らも倒してくんないかな!」

霊夢
「う~ん、守矢神社まで倒すと、この幻想郷のパワーバランスがガバガバでどえらいことになりそうだけど…… まあ、純神道的な守矢の信者がこの博麗神社に帰依してくれるかもしれないわね? そうなったら面白そうね~」

萃香
「お~、ここがもっとデカくなるチャンスかあ!」

アリス
「あ、あなたたち…… いくら戦乱の世だからって……」

 アリスは普通にドン引きした。しかし、この幻想郷は戦乱の世。やられる前にやろうと言う霊夢たちのノリはある意味しょうがないのであり、アリスも反論するようなことはあまりしないのだ。

霊夢
「――ま、そんなに上手くいくワケないわよね。明日、幽香と戦うまでに、なにが起こってるのか……」

 魔理沙
「まあとにかく、さっき決めた作戦があれば、もし明日に幽香が万全の状態でも勝てるはずだずぇ!」

霊夢
「――そうね。あーだこーだ心配するより、明日に備えて今は寝ましょう! 幽香と約束した時間まであと8.10時間あるわ。これだけあればしっかり今日のダメージも回復できるはずよ!」

魔理沙・萃香
「おー! 寝るぞー!」

 巫女の霊夢はともかく、萃香も魔理沙もバカスカ壊された紅魔館の伽藍の中でグーグーと寝始めた。不安でなかなか眠れないアリスはそっと魔理沙に近づくと、そっと胸の中に潜り込み、その暖かさと柔らかさの中でアリスは顔をを赤らめた。
 そしてアリスは、魔理沙の胸の下、八卦模様に手をやった。先ほどの戦闘で溜めていたエネルギーがカラになってしまった魔理沙の八卦だが、アリスがそこに手をかざすと、たちまち八卦は満タンの黄色に戻った。

「魔理沙…… 私の魔力、きっと役に立ててね……」


ーーー白玉楼2ーーー



 一方その頃、闇幽香はと言うと

幽々子
「――あら~。幽香じゃない。気配も感じさせず、妖夢ちゃんの哨戒にもひっかからずイキナリここに来るなんて…… 見た目もいつもと違うし、ちょっと驚いたわぁ~」

闇幽香
「――西行寺、幽々子。タイマンで戦うにはもってこいの相手だ。ともに幻想郷最強と呼ばれる身らしい。生死を尽くそうじゃないか……」

幽々子
「あらあら~。のっけからそんな臨戦態勢なんて…… こんなの久しぶりで、興奮してきたわあ~」

闇幽香
「ハハハ。話が早くていい。では…… いくぞ!」

幽々子
「あらあら。そんなに焦ってると…… そのバカでかくなった胸ごと食べちゃうわよ~?」

ーーー地底ーーー


闇幽香

「地底に来るのは初めてか…… まったく、太陽も当たらぬ、辛気臭いところだ……」

さとり
「!? か、風見幽香!?」

パルスィ
「……え、誰⁉」

お燐
「なんだかまずい気配ですね……」

闇幽香
「ハハハ、揃いもそろってパッとしない奴等め…… あと何人いるか知らんが、貴様らとこの地底ごと消してやる――」


ーーースキマーーー

 

 ――縦割れたスキマの中では、紫が状況を危惧していた。


「ちょっと…… あの幽香、強くなり過ぎじゃないの!? このままだと彼女自身が言う通り、この幻想郷を滅ぼしかねないわよ!」

八雲紫
「まあまあ、焦らないのよ~ん★ まだ彼女がこの幻想郷を滅ぼすのか、滅ぼせるのかはわからないわ。それに私たち二人の強さではあの風見幽香をどうすることもできないでしょ? とりあえずは、静観することね~ん★」


「ギギギ…… 確かに私たちには、風見幽香を倒す力はない…… でも、幻想郷を滅ぼすと言った彼女は…… 皆殺しによって人々を救うと言った彼女は…… きっと私たちも殺そうとするわ!」

八雲紫
「まあまあ。この中にいれば、いくらあの風見幽香でも手出しできないわよ?」


「そうなの? すごいもんねえ…… ……いやいや、私だけこの中にいても、幻想郷の皆は、ここに入れない藍と橙は殺されてしまうのよ! 私は幻想郷を滅ぼしたいんじゃないわ! 秩序と平和を取り戻し、博麗神社とかの増長を何とかしたいだけよ!」

八雲紫
「そしてあなたは、幻想郷のトップとして君臨する……のかしら?」


「そりゃある程度の威光や威信は欲しいところだけど…… 別に幻想郷の王になろうとか、そんな気はないわよ! 要するに威厳ある存在としてこの幻想郷にいたいだけ!」 

八雲紫
「フフ、欲があるんだかないんだか、紙一重な人格してるのねえ。まあその性格が、この幻想郷が乱れる一因だったりして……?」


「な…… 貴女、私と同じ八雲紫のくせに、この幻想郷が乱れているのが私のせいだって言うつもり!? ムキー! 博麗の奴らみたいなこと言って! 訂正しなさい今の言葉!」

 この世界の紫はプンスカ怒り出した。”八雲紫”はこの幻想郷に来たばかりだが彼女は、どこも似たようなものだと、人間界ともさして変わらないものだと改めて思った。そしてそんな思いから、彼女の頭の中には、自身が”八雲紫”となる前の記憶がフラッシュバックしていった――


ーーー紫の過去ーーー


 ――かつて、「マエリベリー・ハーン」、通称メリーとよばれた女性がいた。怪異や超常を好む彼女は、相棒の宇佐見蓮子とともに、人間の世界から”幻想郷”を探していた。様々な文献や伝承を調べ、幻想郷に理想を膨らませながら、彼女たちはある日、ついに憧れの幻想郷に足を踏み入れることができた。
 だがそこは、様々な陣営と思想に分かれて戦い、欲と腐敗と思惑に満ちる、彼女たちの夢想した幻想郷とは程遠いものであった。そして蓮子は、思いもせぬうちに戦いに巻き込まれ、メリーに思いを託し死んでしまった。
「――幻想郷は、私たちの理想とは違ったわ…… でもきっと、蓮子、あなたがこの幻想郷を…… 私たちが…… 夢見た世界…… 理想郷のような、幻想郷、に、近づけて、ね……」
との言葉を残して。
 相棒の死、夢想とかけ離れた、争いに明け暮れる幻想郷……  それを見た彼女の精神は、次第に人間からかけ離れたものになっていった……
 そしてある日、運命の出会いを果たす。それが、八雲紫。自分と外見のよく似た彼女を見つけた際には、誰にやられたか、ほとんど死にかけの状態だった。
 だが、二人は目が合っただけで、互いの情報が流れ込むように瞬時にお互いを理解していた。そして八雲紫は言った。
「……あなたは…… 私に近い存在…… 幻想郷の平穏と均衡を望む者…… そして――」
「――私の力、いえ、私のすべてを託すにふさわしい存在……」 
 そう言ってメリーの手を握った八雲紫は、ついに息絶えた。が、その時不思議なことが起こった。メリーと八雲紫は、精神も身体も、融合、一つの存在になったのだ。
 そうして生まれたのが、スキマで”別の世界”まで行き来できるようになってしまった、”八雲紫”を名乗る彼女なのであった――

 ――”八雲紫”は別次元の幻想郷を行き来する能力を得た。だが一度別の世界に行くと、数か月から数年は元の世界に戻ることも、他の世界に行くこともできない、あまり自由な能力ではなかった。そして行った先で、彼女は滅びゆく、争いにくれる幻想郷をスキマの中からいくつも見てしまった。
 スキマの中、彼女は苦悩した。自分の中にある2つの遺志。それは蓮子の「幻想郷を理想郷にしたい」と言う遺志と、八雲紫の「幻想郷に平穏と均衡を」という、ある意味で相反する遺志。そして多くの幻想郷では、皆が争い滅ぼしあっていた。そのパラドックスが、何十年、いや百何年と彼女を悩ませた。 

 ――そして八雲紫はこの世界、少し妙な幻想郷に介入した。それはなぜか。
「いくつもの争いと戦乱を繰り返す幻想郷に、誰かが突出した力でもって統治すれば、勢力や戦力の均衡が崩れ、皆は戦いのばかばかしさに気付き、あるいは戦いも起こりづらくなるかもしれないのでは?」
という考えのもとであった。しかし八雲紫は誰かにパワーを与えるような力は持っていない。故に今回は、以前訪れた、幻想郷の様で少し違う『クッキー☆』の世界で手に入れた、呪われた呪物の力を使うことにした。

??
「へーここがスキマの中かあ。ああ八雲紫さん、俺は○○。怪しい者じゃないから、ダイジョブだって安心しろよ~」

 そして…… クッキー☆の世界に行った際、とんでもないものがついてきた。??と名乗るその男は、八雲紫しか入れないスキマの空間に平然と入ってきた。

八雲紫
「あ、貴方は誰!? 一体どうやってこの空間に……」

??
「う~ん、言うなれば俺は神みたいなもんだからさ。これくらい平気で存在を見通せるし、行き来できるわけよ。まあいいじゃん? 別に迷惑はかけないよ? いいっしょ、別に?」

 出て行けと言って出ていくとも思えず、力づくで出て行かせることもできるとは思えなかった。
 飄々として掴みどころのないこの謎の男。疲れ切っていた八雲紫の心は、この男をどこか受け入れてしまった。

 ――つまり、この世界の紫は気づいていないが、このスキマの中の空間にもう一人、自由に出入りできる男がいるのだ。

ーーー最終決戦ーーー


 そして翌朝。集合時間の10分前、8時には4人全員が割と元気そうに集合していた。

耳の独鈷がセクシー、エロイッ!

霊夢
「あら。アリスはともかく、萃香や魔理沙が10分前行動とは感心ね。朝弱いくせに」

魔理沙
「流石にこんな時に寝坊はしないのずぇ! それにしても霊夢! なんで俺たちはこの糞でかいクレーターの中心に集合したんだ? 幽香にはそこまで伝えてなかったと思うけど」

霊夢
「……フフフ。こういうのは最初から計略を巡らすものよ。まず第一段階の作戦。幽香はこの広大な向日葵畑集合と言われた結果、私たちがそのどこにいるかわからず探し回る。そして彼女、自分自身が吹っ飛ばしてしまった向日葵畑を見せて、彼女を動揺させる作戦よ」

萃香
「うおーさすが霊夢ぅ~! のっけから性格悪い作戦だ~!」

アリス
「……こんなの、あの幽香相手に意味があるかしら……」

闇幽香
「――ないだろうなあ!」

 闇幽香は登場とともに、傘を地面にズンと刺しその衝撃で4人を吹っ飛ばした。

闇幽香
「わざわざ見晴らしのいいこんなクレーターの中に皆を集めるとは、霊夢、貴様よほどの作戦があるらしいな……」

霊夢
「――そう、ここは私たち4人の連携がとりやすい、開けた場所だからよ! そして幽香、あんたはまず私の罠の第一段階にハマッてるわ!」

萃香
「流石霊夢だ~! さっき言ってた第一段階をさっそくなかったことにしてるぞ~!」

闇幽香
「……」

霊夢
「貴女は大いなる、闇っぽい力を得たわ! でもこんな朝日が輝くいい天気の中、その力を使えるかしら――」

 言われた瞬間に闇幽香は、はるか向こうの向日葵畑にマスパを放ち、特大のキノコ雲を作ってみせた。

闇幽香
「――別に、夜明けだからとか、日が出ているいないは力に関係ないが?」

霊夢
「そそそ、そうだろうと思ったわ!」

萃香
「霊夢う~。大丈夫なのかあ~?」

霊夢
「……フフフ。しかし私の目はごまかせないわよ? ……幽香、アナタ、ここに来る前に誰かと戦ったわね?」

 霊夢は闇幽香の衣服が昨日見た時より傷つき破れているのを見逃さなかった。昨晩、霊夢自身が言った通りの展開を期待して。

霊夢
「アナタは私たちとの戦いを待ちきれずに、誰かと戦い既にダメージを負っている。違うかしらぁ?」

 霊夢は計画通りな顔でドヤッてみせたが、闇幽香は淡々としている。

闇幽香
「……そうだな。白玉楼、彼女らはなかなか手強かった。こちらの技を食べるわ、蝶で残像を作り出すわ…… まあ、なかなか楽しめたがな」

霊夢
「ゆ、幽々子を倒してきたって言うの!?」

闇幽香
「その次は地底に行った…… 数は多かったが、小賢しい能力ばかりでチョコマカと可愛いものだったよ。心を読んだり無意識に動いたりな。まあだからと言って圧倒的な私の力の前では無意味だったが」

霊夢
「じゃあ、あんたその二つとも……」
 
闇幽香
「そうだな。その二つ、白玉楼と地霊殿はすでにない。そこにいた全員とその場所もろとも、私が全て消し去った」

アリス
「なんてことを……」

 アリスは消えゆき死んでいったものを思い、自然と手を合わせていた。が……

 霊夢
「オ~ホッホホ! やはり罠にハマッたわね風見幽香! 貴女が共倒れになってくれなかったのは残念だけど、それだけの戦いをして力が残っている筈が無いわ! 満身創痍の貴女と私たち、どちらが…… 上かしら?」

 霊夢がしたり顔をしていると、闇幽香はおもむろに胸元に手を突っ込み、いくつもの何かを宙に放り投げた。

魔理沙
「あれは…… 幽々子の三角頭巾に…… こいしとさとりのサードアイ、か……!?」

闇幽香
「ご名答だ」

 闇幽香はそう言うと、放り投げたそれら1つずつにレーザーのようなマスパを放ち、たちまち空中でそれらは消し炭になった。

闇幽香
「確かに手強かったが、後に引きずる程のダメージを負うほどではなかったな。戦利品もこの通りだ」

 闇幽香はフフンと笑う。 

萃香
「れいむ~。作戦全部失敗してないか~?」

霊夢
「それもまた作戦の内よ! よし、次の作戦!」

闇幽香
「ハハハ、次は何をやってくれるのかな?」

そういうと闇幽香は余裕そうに地面に降り立った。彼女が見せた一瞬の余裕。霊夢はそれを見逃さなかった。

霊夢
「――またハマッたわね! くらえ夢想封印!

 その掛け声とともに、闇幽香は赤土の地面からボゴンと出てきた、昨日のものとは比べ物にならない程の、縦にしたハイエースくらいの大きさはある五芒星の光の柱にとらわれた。

闇幽香
「くっ、またしても霊夢めえ……」

霊夢
「魔理沙! 萃香! 幽香を今のうちにボコるのよ!」

萃香&魔理沙
「応!」

萃香
「くらえ! 飛酔閃!

魔理沙
恋府! マスタースパーク!

両側から思い切り攻撃を受けた闇幽香は、煙に包まれた ……と思われたのもつかの間、そこには無傷の、傘を両側に開いた闇幽香が立っていた。

闇幽香
「忘れたか! この傘は特定の技を吸収するぞ!」

そういって闇幽香は傘を反転させ、八卦模様を萃香側に、対極模様を魔理沙側に向けた。

闇幽香
「互いの技でくたばりな!」
 萃香にマスタースパークが、魔理沙に飛酔閃が思い切りヒットする。

萃香&魔理沙
「ぎゃあああああああ!」

霊夢
「幽香! 油断したわね! 私の結界はまだ生きてるわよ!」
 そう言うと再び結界が地面から飛び出してきたが、闇幽香は上空にジャンプし軽々とよけてみせた。

闇幽香
「同じ技を何度も食らうか!」
 そう言うと闇幽香は傘を2つに分け、八卦模様が描かれた方を開くと、天高く、太陽向けて掲げた。

アリス
「マ、マズイわ…… あれはきっとファイナルマスタースパーク! 私たちを4人纏めて葬れるとんでもない技よ! 昨日の私はパワーアップしてたから何とか耐えられたけど…… 今の私じゃ耐えられない!」

霊夢
「ぐ…… 萃香と魔理沙はさっきの相打ちでダメージが…… でも私たちだけ逃げてもしょうがないわ!」

アリス
「そのことだけど…… じつは幽香のファイナルマスタースパーク、発動に結構な時間を有するの。だからその間に逃げるなり、出来るならば反撃できればいいのだけど……」

霊夢
「……戦いの場にこんな場所を選んだ私が馬鹿だったわ…… このただっぴろい大地には遮蔽物がほぼない。負傷した二人を連れて逃げるのは…… 全員共倒れになる危険性があるわ……」

アリス
「れ、霊夢、あなたまさか……」

霊夢
「ええ ……私が、幽香を倒すわ。アリスはサポートしてちょうだい!」

アリス
「無、無理よ! 私は戦ったからわかる…… 幽香のファイナルマスタースパークの威力は尋常じゃないし、しかも幽香自体もパワーアップしてるのよ!」

霊夢
「何言ってるの! ほっといたってどうせ私たちは殺される! イチかバチかに賭けるしかないわ! アリス、貴女だっていっしょよ!」

アリス
「……そうね。わかったわ…… もうこうするしかないのね!」

 すると、反射マスパをくらって倒れていた萃香がおもむろに起きだした。 

萃香
「いてて…… なんて威力だ」

アリス
「萃香!? 大丈夫なの!?」

萃香
「へっへ~。実さっきマスパをくらったときに、とっさに半分くらい瓢箪に吸収したんだ!」

霊夢
「悠長に語っている暇はないわ! 萃香! 貴女確か幻想郷中の妖力や霊力を集めることが出来たわよわね!?」

萃香
「え? 出来るけど……」

霊夢
「私が両手を挙げるから、そこに早急に幻想郷中の霊力と妖力を集めてちょうだい! 一刻も早く! 時間がないわ!」

萃香
「な、なんだかよくわからんけど分かったよ! ――幻想郷中の生きとし生けるものよ! 私たちに妖気とか霊気を分けてくれ!」

 それを見ていた闇幽香は鼻で笑っていた。

闇幽香
「愚かな! 私が太陽の畑からエネルギーを集めるのと、貴様らが幻想郷中からチマチマとエネルギーを集めるの、どちらが早いか言うまでもない!」

霊夢
「そんなもの! やってみないとわからないわよ!」

萃香
「そうだそうだ! ……あ! さっき瓢箪で幽香から吸収したパワーも加えとくぞ! こいつぁ百人力だな!」

闇幽香
「――フン、まあ今にわかるだろうがな! ――太陽よ! 向日葵たちよ、私に力を!」

 すると、前回よろしく、真上にかざされた傘はパアッと、太陽の光を受けたかのように光り始めた。幽香は傘をゆっくり下ろすと、すぐさま霊夢たち4人に向けた。

闇幽香
「私の愛する向日葵たちよ…… その生命、いま少しだけ借りるぞ……」

 闇幽香がそう言うと、太陽の畑中の向日葵から、闇幽香に向かって光の粒が舞い上がる。

アリス
「……く、や、やっぱり間に合わない……」

 その時不思議なことが起こった。
 向日葵からの光たちは、傘に吸収されず、そのまま宙ぶらりんに浮かんでしまったのだ。

闇幽香
「な…… バカな!? どういうことだ! 私の…… 最大の、最大の技が!」

 さすがの事態に動揺する闇幽香。しかし、冷静なアリスは気が付いていた。

アリス
「――わかったわ! 私にファイナルマスタースパークを撃った幽香と、今の闇をも取り込んだ幽香を、向日葵は別人と判断したのよ! これで幽香は太陽の、ヒマワリからのエネルギーを集めることはできない!」

霊夢
「よし! 萃香にアリス! 今のうちに幽香をボコボコにするのよ!」
 
 霊夢は両手を挙げ、萃香の力で集めた霊力と妖力で巨大な陰陽玉を、幽香に気付かれぬよう上空に作りながら言う。一応この巨大になった陰陽玉は、動転している幽香には気づかれていない。

闇幽香
「……ック! 傘で吸収できぬなら…… 私が、私自身がその力を自身が吸収してやる!」

 闇幽香は2つに分けた傘を腰に差すと、両手を広げ、両の掌で宙に浮いていた光を、エネルギーを無理やり吸収していく。

闇幽香
「ハアアアアアアアアアアア!」

アリス
「そ、そんな!」

霊夢
「ビビってる暇はないわ! ……でもこの大きさじゃまだ! もっとパワーを溜めないと幽香にはきっと効かない!」

闇幽香
「ハア…… ハア……」

 ヒマワリからの、太陽のエネルギーをすべて吸収し終えた幽香は、そのエネルギーが大きすぎるのか、はたまた光に満ちたエネルギーがまだ体と反発しているのか、とても苦しそうにしている。

霊夢
「よっしゃ! 幽香が勝手に消耗してるわよ! 今のうちにもっとパワーを!」

闇幽香
「ハァ、ハァ…… す、少し体が驚いただけだ! ええいしゃらくさい! このパワーで貴様ら纏めて吹っ飛ばしてやる!」

魔理沙
「そうはさせるか! マスターボール!

 いつの間にか復活した魔理沙が、そう唱えると青白いバレーボール大のエネルギー弾を闇幽香向けて投げつけた。
 ……が、それは目標から大きく外れ、彼方に飛んで行った。

闇幽香
「ハァ、ハァ…… ハ、ハハハ…… 素晴らしいコントロールだな!」

魔理沙
「……と油断させておいて…… ストリング・マスタースパーク!

 魔理沙は右手を動かし、飛んで行ったマスターボールを操ってみせた。操られたマスターボールは、大きく軌道を変え、闇幽香の背後から彼女に向かって飛んでいく。
 
魔理沙
「どうやら流石にこれは対処できないようだな…… そーれ! まともにくらっちまえ!」

 だが闇幽香は振り向くこともなく、左手で握りつぶすようにマスターボールをかき消してしまった。

闇幽香
「馬鹿め! こんなもの振り向くまでもない!」

魔理沙
「くそ! 何て奴だ……」

闇幽香
「ええいどいつもこいつも! このまま吹っ飛ばしてやる!」

 振り向いた闇幽香はそう言って左手から素早くエネルギーを放出した。

魔理沙
「な! なんて素早い…… うわあああああああああ!」

 あまりの素早さに、魔理沙はロクに防御も取れず幽香の攻撃をくらってしまった。そして悲鳴を上げた後、気を失ったように魔理沙は地面へと落ちて行った。

闇幽香
「フハハ…… まずは一人片づけたかな?」

霊夢
「魔理沙! きっと生きてなさいよ…… ……よし、こっちは準備万端ね!」 

 霊夢の巨大陰陽玉は11.45㍍にも達している。これなら闇幽香といえど、まともに食らえばひとたまりもない筈! 霊夢がそう思った矢先、魔理沙を吹っ飛ばした後、ふと上を向いた闇幽香は巨大陰陽玉に気付いてしまう。

闇幽香
「……!!! なんだアレは!? そうか、幻想郷中から集めた故、あれほどの大きさに……」

霊夢
「げ! 幽香にバレたわ! こうなったら大観音砲で巨大陰陽玉を押し出してやるわ!」

闇幽香
「馬鹿め! わざわざそんなものくらう奴があるか! 霊夢ごと、そのでかい球を吹っ飛ばしてやる!」

霊夢
大観音砲!

闇幽香
「マスタースパーク!」

 巨大陰陽玉は大観音砲に押され、闇幽香のマスタースパークがそれを受け止める。
 二つのエネルギーはぶつかり合う。どちらも信じられないパワーだが、押す力は闇幽香が一枚上手なのか、巨大陰陽玉は段々と押されていく。

 一方その頃、地面に堕ちた魔理沙は目を覚ました。

魔理沙
「いてて…… 幽香のヤツ、際限ない強さだずぇ……」

 言いながらゆっくりと、半分諦めたか吹っ切れたかような感じで魔理沙は起き上がった。そして宙を見上げる。

魔理沙
「あれは……? 霊夢が幽香と押し合ってるのか……? 俺はどうする? また後ろからの不意打ちで行くか、それとも真っ向霊夢に加勢するか…… くそ! どんなやり方でも結局防がれる気がするずぇ! ……ん? これは……?」

 魔理沙はふと気づいた。昨日カラになったはずの胸の下の八卦に、エネルギーが満タンに蓄えられているのを。そしてそのエネルギーからアリスの気を感じるのを。

魔理沙
「そうか、昨日寝てる間にでもアリスがエネルギーを溜めておいてくれたんだな! 恩に着るぜ…… ん?」

 魔理沙は気づいた。というか思い出した。先程、『マスターボール』を繰り出す直前、別の大技が初めて成功していたのを。

魔理沙
「そうだ! さっき『オペレーションダブル』に成功してたんだった! ええと…… あった! 幽香の真下の地面、その下だあ!」

 魔理沙は気づいた。オペレーションダブルに成功し、二つに分けたマスターボールの片方が、今まさにマスパを放って陰陽玉を押している闇幽香の真下の地面に埋まっているのを。 

魔理沙
「よし! このマスターボールの片割れをストリングマスタースパークで幽香にぶつけてやる!」

 ボコン! と幽香の下の地面が割れると、バレーボール大のマスターボールが飛び出し、魔理沙が操るそれは真っすぐ闇幽香に向かっていく。

魔理沙
「そして八卦充填装! エネルギーを全て全て一気に加えるずぇ…… ハアッ!」

 マスターボールは胸の下からのエネルギーを吸収し、2倍3倍、ついに闇幽香を丸々飲み込む大きさに膨らんでいく。

闇幽香
「ん…… なんだコレは! ぐわあああ!」 

 霊夢と巨大陰陽玉の押し合いをしていた闇幽香は、さすがに防御することが出来ずまともにくらってしまう。

霊夢
「やるじゃない魔理沙! 今よ! 大観音砲フルパワー!

 それまでは霊夢を押していた闇幽香だったが、魔理沙とアリスのエネルギーがこもった技をまともに食らった闇幽香は、じりじりと、段々と押されていく。

闇幽香
「く、くそ…… こんなもの…… こんな…… も…… の…… があああああああああああああ!!!!」

 押し切られ、陰陽玉に飲み込まれた闇幽香は、その中で段々と元の姿に戻っていった。そして、心もいつもの彼女に戻っていく。

闇幽香

(幻想郷のためを思って何度も戦い……幾人もをこの手にかけた…… 正義と思ってやったそれらの行為は…… 間違っていたのだろうか?)
(いや…… 今となっては、もはやどうでもいい。間違いなく言えるのは…… 私が手にかけたもの達と同様に、私にも死が訪れてようとしているという事ね……)

 暫く閃光と雷鳴に包まれた幽香は、それらが消えるとともに、元の姿で地面にぱたりと倒れた。

「幽香! 幽香ー!」

 息も絶え絶えの幽香のもとに、四人は集まった。そこにはもう、敵意は存在していなかった。

幽香
「……みんな、ごめんなさい…… 私はただ、争いばかりの幻想郷を終わりにしたかった…… でもそれは…… 間違っていたのね……」

魔理沙
「幽香! 死ぬんじゃない! 確かにあんたは色々なものを手にかけたけど…… 一度だって私利私欲に走ったことは無かったじゃないか! だからこれからも! 幻想郷のために、一緒に戦ってくれ!」

幽香
「魔理沙…… ありがとう。最後に看取られるのが、貴女達で、よかった、わ……」

 霊夢の胸の中で、幽香は安らかに目を閉じた。 

四人
「幽香あああああああああ!」


―――Go is god.ーーー




 魔理沙たちが叫ぶ中、スキマ空間の中、この世界の紫は複雑な顔で外の光景を見つめていた。


「幽香…… 元に戻ってよかったわ。そして…… 死ぬんじゃないわよ……」

八雲紫
「ウフフ、貴女にも情に深いところがあるのねえ…… そして今回の一連の騒動、私も学ばせてもらったわ。ウフフ★

GO
「――そうだねえ! でもまだこの世界、強い奴や勢力が残ってるよ。実験がてらにも、まだ楽しめるんじゃない?」

 男はそう言うと、小さく指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、博麗神社の裏の遺物たちは、一斉にその闇の全てを吐き出し、結界も何も関係なく、それらは、幻想郷中に散らばっていった――

GO
「やっぱり混沌こそ心理だね! すげぇ事が待ってんゾ〜」

やっと……平和が訪れたんやな(大嘘)

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