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「乱れる」高峰秀子 成瀬巳喜男 監督

「乱れる」 1964年
成瀬巳喜男 監督 松山善三脚本
高峰秀子(森田礼子)
加山雄三(森田幸司)
三益愛子(森田しず)
草笛光子(森田久子)
白川由美(森田孝子)


戦後20年弱。
礼子は結婚して半年で夫が戦死、実家の酒屋も空襲で焼け、一人で切り盛りして酒屋をどうにか再建できた。ところが近くにできたスーパーの影響で客は減るばかり。自身も40真近で実家のために尽くしてきたこの10数年がこれでよかったのか迷いがある。
加山雄三演じる幸司は死んだ夫の弟、20代後半。大学を出た後も会社をすぐに辞めてしまい、実家も手伝わず酒とマージャンと女の荒んだ生活を繰り返している。実は礼子のことを密かに焦がれていた。
1960年代、東京オリンピック前後、戦争の傷跡はそれなりに残っているが景気の回復もすさまじく、戦後は終わったと言われ始めた時代だ。
酒屋をスーパーに立て直す計画の中で自分の居場所がなくなったと感じた礼子は実家のある東北に帰る決心をする。それを追って汽車に乗り込む幸司。揺れ動く礼子の気持ち、最終的に幸司を拒絶して、幸司は自棄になり泥酔して温泉の谷に落ちて死んでしまう。
若くて純な幸司を受け入れたい気持ちと拒絶する気持ちの間を揺れ動く礼子。こういった女心を高峰秀子は実にうまく表現する。どちらかにスッパリ決めてもらえればと思うが、絶えず揺れ動く。女心を扱い慣れていれば揺れ動くさまをそのまま受け入れればいいと思うが、若い幸司にそんな手管があるわけがない。拒絶されたと思って自棄になってしまったが、この手の拒絶は女性特有の駆け引きの一種、しかもそれを自分で意識しないままにやってのけるのが女性。幸司の短絡的な熱情だけでは先が見えてしまった部分もあるかもしれない。
女の揺れ動く感情の波に酔いしれながら、若い男の猪突猛進の熱情だけでは太刀打ちできないのを自分の経験を踏まえても深く納得。加山雄三はこの短絡的な男をうまく演じている。

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