振られたい
高校生ぶりに人を好きになってドキドキしてモヤモヤした感情を味わった話。
去年、職場に中途で入職した先輩。
顔が可愛くて背が高くてドジで天然。
いつも男性人気が高いすごい魅力的な人。
気がついたら勝手に好きになっていた。
一度、何人かで飲みに行ったことがあるくらい。職場ではたまに話すくらい。
当然付き合えるとも思ってないから俺は振られたかった。
どうせならきちんと振られて俺の心を玉砕して欲しかった。
ちょっと仲良くなって、2人でご飯でも行くようになって、いけるんじゃないかって心浮ついて、勇気出して告白して、あっさり振られたかった。
が、それは叶わなかった。
3月
俺はその先輩と一つ上の先輩、同期と4人で飲みに行っていた。話の内容なんてほとんど覚えていなかったけど先輩と向かいの席に座って、同じ空間にいたという事実で満腹になっていた。
そこからは俺の中で好きが勝手に加速していた。(この距離感が丁度いいと、前に進むことを恐れていたのは事実だろう)
6月
LINEで仕事終わりラーメンに誘ってみた。
日にちを決めて、そこから2.3日LINEで他愛もない話を続けた。
前日の朝、通知が来た。
昨日彼氏ができました。ラーメンは他に人がいればいけます。と。
朝からいいボディをくらった。
情けなかったなー。動けなかった。
寝起きだからじゃない。というかそのメッセージで目は完全に覚めていたけど動けなかったなあ。
情けなくて惨めだった。振られることすらできなかったのだから。
それからは職場であっても気まずい気まずい(俺が勝手に)
苦しくて苦しくて。
これはなんか、なんていうか中学時代や高校時代、青春の真っ只中にいた俺が感じていた胸がギューっと締め付けられて苦しい感情。忘れかけていた感情。
あーこんなに苦しいんだった。
11月
意を結した。よし、振られよう。
LINEで仕事終わりに会いたいと伝える。
普段は職場のフロアが違うからほとんど会うことはないがその日はたまたま職場でバッタリ。相変わらず今日も可愛い。これから仕事終わりに会う予定の2人が17時ごろ会ってしまってまたまた気まずい。世間話を少し挟みながら、あとで。と伝える。
18時頃仕事が終わりそうとのこと。
18:07
退勤と同時に俺は先輩にメッセージを送った。既読はつかなかったので近くの公園で小学生がサッカーをしているのをぼんやり眺めた。そのままベンチに仰向けになって胸の高鳴りと嗚咽感を抑えながら平静を装う。何もせずに待った。
もしかしたらもう帰ってしまっているんじゃないか。
それならもうその方が気持ちが楽だ。いや告白して触れれないといけない。でも気まずい。仕事終わってないのか?LINE送る?いやきもいか?
脳みそのシワが増えた気がする。
18:47
先輩から退勤したとのLINE。安堵した。
会えるー!!!!!!!
職場まで行って近くの公園のような?人通りのないところへ2人で行く。相変わらず退勤後も可愛かった。
俺「先輩にはメリット1つもないけど俺のために俺が言いたいから聞いてください。」「彼氏いるのは知ってるけど、これから告白するので振ってください」
割とすぐに言えた。
高校の時付き合っていた彼女に告白した時はバス停で彼女が帰るバスを待ちながらなかなか告白できず、結果的に2本遅らせてもらって告白した。地元は田舎なので1本の間隔がかなり長く、結果1時間以上告白できずに中身のない話を緊張しながらダラダラ続けタイミングを見計らっていた。
しかし今回は、今まで数ヶ月に渡り何回も頭の中で告白して振られるシュミレーションをしていたので、割とすぐに告白できた。
俺「ずっと好きでした。付き合ってください。」
先輩「ありがとう。そんな嬉しいこと言ってくれて。ごめんなさい」
俺「ありがとうございます」
_____やっと、やっと振られた。
胸を撫で下ろす。
先輩は今彼氏といい感じですか?
んーいや、そうでもないよ。
そんな事俺に向かって言うなよ。俺がキツくなるだろう。嘘でもいいから幸せだよって最高の笑顔を見せて俺を立ち直らせないでくれ。
でも俺の終始自己中心的な考えで先輩を呼び出したし、ムダな仕事与えてしまったので何も言えないが。
先輩と別れを告げた。マスクを外し大きく深呼吸した。足取りは少しだけ軽い。
言い忘れたことを一つ思い出した。
これを聞いておかないと後悔すること。
電話をかけた。
繋がらなかった。
数分後折り返しの電話が鳴りすぐに取った。
俺「聞き忘れたことがありました。もし、先輩が彼氏と付き合う前に俺がもっと仲良くなってたら付き合ってたかもしれませんか?それとも、そもそも告白してても振ってましたか?」
こんなこと聞いたって、どっちの答えが出ても俺は傷付くだけだ。答える先輩もキツいだろうけど自己中心的な俺はもう聞くしかなかった。
先輩「んー、、、。付き合ってたかも」
俺「、、、、、、、、、。」
先輩「もしもし?」
俺「ありがとうございます!」
嬉しいより後悔が圧勝した。
後悔より情けなさがちょっと強かった。
そもそも振られている未来でも傷付けるし、アプローチしていれば付き合えていたかもしれない未来でも傷付けるシナリオだ。
電話を切って家の玄関の前まで着いた時、先輩から電話が来た。
先輩「さっきはごめん。傷ついちゃったかと思って。言おうか迷ったけど、言わない方が良かったと思うんだけど、、、でも君のこと良いなって思っていた時期もあったんだ」
俺「そんな心配までしてくれる先輩はやっぱり流石ですね。ありがとうございます!俺はやっとちゃんと傷付けて嬉しいんです。この気持ちを受け止めたいんです。先輩は何も気にしないでください。本当にありがとうございました!」
鍵を回して扉を開ける。ようやくタバコにありつけた。
やっと俺はこれで久しぶりの青春に幕を閉じたのだった_____
エレファントカシマシのEASY GOを聞いた。
これはドラマ「宮本から君へ」の主題歌。
OPで池松壮亮が涙を堪えて歯を食いしばり笑みを浮かべるのだ。
まさに俺は俺自身を宮本演じる池松壮亮さながら、色々な感情と共に笑顔を作ってタバコを吸った。
笑顔が昔から苦手な俺は真っ黒な冷蔵庫に反射して映る歪な笑顔さえ愛おしく思える。
完全にスッキリするもんでもないんだなと思った。やっぱり先のことを恐れて行動できなかった後悔もあるし情けなさも残るけど、でも胸が軽くなったのは確か。
ここまでよく頑張った俺を褒めてあげたい。
振られてよかった。
ありがとうございます。