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東北2泊3日紀行文①

   月日は百代の過客にして、12月半ば、はやくも高校2年の教室にはすでに受験戦争の硝煙の臭いが漂っている(主に理系の焦りによって)。
 高校に上がったら旅行に行きたいね~と友人(以降Kとします)と話していたものの、結局のところ旅行はおろか、遊びに行くときは東京の外に出ることすらなく、2年弱が経った。

 まずい。

 そろそろ本格的に受験勉強が始まってしまう。そうしたら旅行はおろか遊びにすら行けなくなってしまうのだ。監禁生活だ。恐怖の。”あれ”が始まると、もう何もできなくなることを、過去の受験で十二分に実感している。
 そういうわけで、わたしたち2人(とニコル*1)は「遊びに行くなら今しかない」と思い立ち、急遽東北、仙台と弘前に2泊3日の旅行へ出ることにした。ちなみに前後の日程は学校行事にはさまれている。無茶苦茶だ。
 2人とも文学が好きなので、目的地は金木の斜陽館。自由行動がなく寺社仏閣ばかりだった修学旅行の恨みを込めるがごとく(Kはたのしかったらしいが、わたしは造詣が深くなくさっぱりだった)予定を詰めまくった。
 そんなわけで、これは、最後の2泊3日の修学旅行に出たBUMPファンのログだ。
 
*1 
BUMP OF CHICKENのマスコットキャラクター。マフラーを巻いた白猫。
 

1日目(仙台)


 8時過ぎに東京駅に到着。遅刻癖2人なので、ホームに着いたのは出発10分前くらいだった。危ない。
 改札内にあったベックスコーヒーでカフェラテを買い(私のはなぜかホイップクリームを乗せ忘れられていた)、細かい計画を練ったり事前に予約していたホテル代などの清算をしたり朝食を取ったり(わたしはワッフル、Kは和牛駅弁)していたらあっという間に第一の目的地・仙台に着いた。
 あれ、思ったより寒くない。
 宮城は太平洋側のため、そこまで雪が降るわけではない。この日は東京も寒かったため、強い寒さのギャップを感じずに済んだ。
 にしてもわたしたちは雪国に備え厳戒態勢だったのに、現地人、薄着すぎる。長袖のシャツにちょっと軽く上着を羽織りましたよ~みたいな人を何人も目撃した。それはわたしたちが11月とかにやるやつ。
 やっぱり東北の人たち、頑丈かも。

ラーメン だし廊(昼食)


 ホテルに大荷物を預けさせてもらいラーメン屋に。旅行で一度はラーメンを食べようと心に決めていた。
 事前に目星はつけていたのだ、それが「だし廊」というホテルのすぐ側のお店。
 店名の通り海鮮でとる出汁スープが絶品で、百名店に選ばれているとか。わたしは貝だし塩、Kは鶏だし醤油ラーメンを注文した。
 これが仙台で食べる最初の食事だ。スープを一口飲み、うま……と感嘆し、黙々と食べ進め、ちょっと交換したりもする。
 もちろん鶏だし醤油も絶品だったが、なんといってもわたしの頼んだ貝だし塩は「後半になったらムール貝の味噌を溶かしてお食べください」とのこと。

ニコルの耳のあたりにムール貝がある

 もちろんこれが最高。
 焼いた味噌なのだろうか、溶かしたら貝の旨みがじわ〜っと広がってうまい。二度至福の味を楽しんだ。一緒に頼んだ肉ワンタンも最高だった。
 食べ終わってお外を見たら少し並んでいたから、いい感じのタイミングだったのだろう。
 

仙台城跡


 チェックインまではまだ時間があるので、かの有名な伊達政宗公の居城、仙台城跡へ。景色がよく、仙台を掌握した気になれるとかなんとかの口コミを聞き、ぜひ行ってみたいと思ったのだ。
   この時に乗った「仙台るーぷる」はその名の通り仙台市内の名所をループする観光客向けのバス。他にも土井晩翠にゆかりのある地を巡ったりするらしい。大正ロマンを彷彿とさせるお洒落でレトロな外装にKのテンションは上がった。仙台はいい感じのレトロなデザインが多くてうれしい。(このとき、隣にいた老夫婦のお2人が「ここに来るのは60年ぶりですね」と話していらっしゃって、激エモすぎるだろ……と思った)
 バスで数駅。降りたところからしばらく歩く。あとで行くか〜と思いつつお土産屋などを通り過ぎ、そうしたら大きく視界が開けた。
 どかんと伊達政宗の像が凛々しくそびえ立ち、それを中心として展望台のように広がっている。広い。奥の方から荒城の月が聴こえてくる。
 見晴らしのいい仙台城跡は市内を一望でき、向こうにでかい白い大仏があるのをみとめたりした。空が広い……。

今でも青が澄んでいる


 せっかくだし、ということで仙台城見聞館、青葉城資料展示館にも行った。
 わかるかなあ、というわたしの心配は杞憂だった。説明は分かりやすく、超重要そうなものがふんだんに展示されていて、知的好奇心をビシバシ刺激されながら楽しく見て回ることが出来た。(見聞館では書院造の違い棚のアレンジが展示されていて、「これ日本史でやったやつだ!」と進研ゼミさながらの反応をしてしまった)
 わたしの話で申し訳ないが、修学旅行でどこぞの何宗の宝物館なんかを見ても感動できないことに申し訳なさを覚えつつ虚無で出てきたのに、おもしろい。すごい。わたしにもこういう歴史的なものを楽しめる気持ちがあったんだ……! とそういう意味でもハッピーになった。
 中でもよかったのは、資料館で上映してあった映像だ。
 広瀬川を挟んで山の方に位置する仙台城。高台につくられ、五芒星をえがくように櫓が設置されている。それだけではない。川のさらに手前側に水を流し込んで、なんと水堀二重セット。つよい。城にいたるまでもグニャグニャと道が折れ曲がり、軍が疲弊したところを集中攻撃できるのだ。かしこい。
 しかも城下町は広く、家臣たちの住居もしっかりしていて、どうやら住む分には快適そうだった。ドラクエの最初の町みたいな感じだった。
 また、城下町の中に空いているスペースに、もうひとつ大きな建物を建築しようとして——建築するふりを見せて、未完のままにしておくことで、「将軍に盾突く気はありませんよ」という意思表示をしていたらしい。すごすぎる。城、奥が深い。
 日本史弱者のわたしでも理解できるほど、かみ砕いて伊達政宗公と仙台城のことをユーモラスに説明してくれていて、見終わった後はひとつかしこくなった気分だった。
 それと好きな豆知識。伊達政宗の隻眼というのは、幼少のときに病で目が飛び出してしまい、それがいやで家臣に目を切らせたのだという。ロックすぎるだろ。

 そして山を下りたら、なんと目の前でバスが発車した。次の便は20分後だったが、待つのも寒かったため、歩いてホテルまで戻ることにした。50分くらいかかるらしい。マジ?
 

立町小学校/土井晩翠先生の資料室


 そんなこんなで歩き、途中で魯迅の碑を読んだり、山道をヒイヒイ言いながら登ったりして、

漢文と中国語の基礎知識で読もうとする


「土井晩翠先生の母校 資料室が2階西館にあります。ご覧になりたい方は、1階職員室においでください」
と看板を掲げている小学校に遭遇した。
 顔を見合わせた。

気にならないわけがない



 入りたい。
   が、職員室を訪ねるために入ってしまったら、犯罪者なのではないか?

 校門には部外者の侵入を禁ずる文句があった。そりゃそうだ。どうすんだ、ジレンマすぎるだろ。
 そんなわけで、Kが小学校に電話をかけてくれた。(余談だが、わたしは電話が極度に苦手で、今回の旅で必要な電話はほぼすべてKにかけてもらっている)
 そして、無事に小学校侵入の許可を得たわたしたちは、「土井晩翠先生の資料室」に入らせてもらうことが出来た。

 先に断っておくが、わたしたちどちらも、取り立てて土井晩翠のファン、というわけではない。ただそこに見知った名前があり、なんか重要そうな感じの建物があったから入れるものは入っておこう精神で訪問したのだ。修学旅行だし。時間はあるし。
 親切な事務の方に案内していただき(突然の来訪者にも関わらず本当に親切に)、2階の奥まったところに位置する部屋に辿り着く。そして不埒な考えのわたしたちを圧倒した。
 土井晩翠はこの小学校の校歌をはじめ、たくさんの学校の校歌の作詞を手掛けていた。仙台から果ては満州や南米の学校まで。そしてそれらがカセットテープやCDや楽譜として、各地から形を持って寄贈されていたのだ。中には「楽譜がないので」と当時の校歌を覚えている人を呼び寄せ、歌ってもらい、譜面に起こした、というものもあった。
 なぜそんな詳細なことが分かるかというと、校歌を寄贈された方からの手紙まで綺麗にファイリングされていたからだ。
どうやら、土井晩翠先生の作詞された校歌を寄贈していただきたい、という旨を新聞に投稿したらしい。そして、いくつ集まったのだろうか、資料室には100をゆうに超える校歌が様々な形をもって展示されていた。
 資料室は、先生の手書きのメモなど、貴重な資料がたくさん置いてあった。
 土井晩翠ミリしらのわたしたちは、ただただその熱量と敬愛の念に圧倒され、すげえなあ、というなにかほくほくした感情と一緒に資料室を後にした。これから土井晩翠の文字を見るたびに、何かしらの、おれはしっているんだぜ、みたいな気持ちになるだろう。
 追記だが、廊下で行き交った小学生たちがにこやかに挨拶をしてくれて、とても嬉しくなったと同時に哀愁に襲われた。

 そして無事に徒歩旅を終え、道中ZUNDA ZUNDA CAFÉというずんだ系のスイーツの食べられるカフェに入ったり(わたしはずんだの類をあまり好きではないが、Kが食べたかったため。わたしはカフェモカをおいしくいただいた)、古着屋で1300円とかでいい感じのラルフローレンのシャツを買ったりして(Kを待たせた。ごめん)、ホテルに到着した。
 ただ息をついている余裕はない。夕飯の予約をしてあるからだ。
 最低限荷物をまとめ、ホテルを飛び出した。
 

牛たん 一福(夕食)


 ホテルから15分程度歩き、目的地の「一福」という店へ。
 有名店らしく、壁にはたくさんの著名人のサインが貼ってあった。世間知らずのわたしたちでも知っているような名前が沢山あった。わたしはエレカシとミッシェルを見つけて嬉しかった。
 味噌牛タン、塩牛タン、厚切りカルビ、煮込み……さっきまでカフェで一服していたとは思えないくらいの分量を食べ進めた。とにかく米が進む。わたしは事前に「牛タン食べるならテールスープも頼みな!」と父から推薦を受けていたので、テールスープ雑炊も食べた。美味しすぎる。ちょっとお高いだけある。ご飯おかわり。

 そんなこんなで食べまくり、2人合わせて4人前くらいは食べただろうか、充分満腹になったわたしたち。けれど、わたしがこの店を選んだ理由は、また別にあった。
 BUMP OF CHICKENのサインだ。
 店員さんに尋ねたところ、親切にも「1階にありますよ」と教えてくださった。どうやらよく聞かれるらしい。なんかうれしい。
 会計をKに任せ、1階をきょろきょろ見てみると……
 


 あった!!
 
 念願のBUMPのサインだ。これを見るためにここにした。最高。しかもsyrup16gとの共著(共著?)だ。最高すぎる。やばい。水色の風、聴いてます。まだみんなのサインが定まってなくて微笑ましい。升さんと増川さんのサインが似ててかわいい。チャマさん、字が読めん。藤原さん、もとおって書いてる? かわいい。
 そんなわけで、満足120%のもと、わたしたちはお店を後にした。けれど、目的地はまだもう1つあった。さっきよりも若干寒くなった街を通り抜け、白い息を吐きながらわたしたちはその場所へと急ぐ。

 クリスマスマーケットである。

 錦町公園で開催されていた。クリスマスマーケットというものに一度も行ったことがなかったので、これを機会に訪れてみたかったのだ。
 公園は盛況で、寒空のもと、色んな出店が列をなして所狭しと並んでいた。甘いものは別腹とばかりに良さそうなお店に並んで、無事にホットチョコレートとチュロスを購入。Kは吟味の末にかわいい置時計モチーフのスノードームを買っていた。

マグカップかわいい

 そして今日の宿泊先、アルモントホテル仙台にようやく10時頃到着。コンタクトの疲れも相まって瞼が重かったが、大浴場に行かずして寝るわけにはいかない。
 重い身体をなんとか引きずり、大浴場へ。最高。疲れた身体に染み渡る湯。明日も酷使するので脚をマッサージとかしておく。うっかりしたらそのまま寝そうだったが、何とか堪える。
 ここの大浴場、何がすごいかってシャンプーバーがある。クレンジングと洗顔料もすべてのパーテーションに備えつき。完璧すぎる。なんなら洗面台のところにはヘアケア用品までいくつか置いてあった。こんな贅沢があっていいのだろうか。

 ところで、この晩はちょうどふたご座流星群が良く見えるときだった。わたしも旅行前にその記事を見つけ、何としてでも見るぞ……と思っていたが、あいにくの曇天。外で粘ってもよかったものの、前日まで試験で疲れの溜まっていたわたしは限界で、到底外に出られるコンディションではなかった。まあどうせ外出ても見えないし……と言い訳をしながら、わたしはベッドに倒れ込んだ。せっかく双眼鏡も持ってきてたのにね。
 
 見えないもんは見えない。
(②に続く)

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