やっちゃん

母性本能が男女を問わずあることはもう随分前から知っていた
いや、知ってたというより
感覚的に分かってたと言った方が正しいかもしれない

幼い頃、近所にやっちゃんというふたつ下の男の子がいた
その子の兄がボクと同じ年で3人でよく遊んだが
ボクと兄ちゃんが幼稚園に行くようになって
やっちゃんの遊び相手がなくなった
ちょうどその時分わが家に妹が生まれて
暇になったやっちゃんは赤ん坊を見に来くるようになり
それが毎日になった
ハマったんだと思う
うちに来たら真っ直ぐにベビーベッドに行き動かなかったらしい
それからやっちゃんは自分の両親にひとつおねだりをした
「妹が欲しい」と
強く思えば願いは叶うのか、ほどなく女の子が生まれ
赤ちゃんの名前はうちの妹と同じなった
もちろん、これもやっちゃんの推しで

ボク自身はあまり幼い子に関心がなく
走り回ったり体を使って遊ぶ方が好きな少年だったが
随分とあとになってから
つまりは、いい大人になってから子供の可愛さに気づかされた
前述の妹が出産のため3歳の息子を連れて里帰りをしていた時
ちょうどこちらも実家いて数日間ヘトヘトになるまで遊んだ
そしてボクの帰り際、玄関まで見送りに来たその子が突然大声で泣き出した
別れを拒んで足を踏み鳴らしながら

嬉しかった

自分には子供はいないが
ちょっとズルい体験をさせてもらった




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