オプティミスト

「子供のころしゃべるのが苦手で引っ込み思案ってのもあったけど
それより口が回らなくて、そう早口言葉なんか特に
でもある時思いついた言えなかったら書けばいいじゃんって
夏休みの自由研究に早口言葉を100個それぞれ10回ずつ書き
『早口言葉克服法』ってタイトルで出したら先生に褒められて
それから人とも話せるようになってこの通り」

コロナの後、家の近くで見つけた定食屋の店主がこんな話をしてくれた
夫婦二人で始めた店で彼は40前後
奥さんの方は若くてまだ20代だと思う、ちょっとヤンキーが入ってて
「昔レディースやってた、オレなんか今でもジェントルメンだけど」と
ひとりで大うけしている
この人、店を始める前はお笑い芸人で
それにしても今どきこんな話で笑いを取ろうなんて
まあそこは置くとして
お店はとにかくボリュームがあって安い
900円の唐揚げ定食なんかびっくりするほどの山盛で
次行った時「食べられないから少し減らして」って言ったら
代わりに100円まけてくれた
本当にやっていけるのか心配になるくらいだ

芸人時代の話も聞いた
当時からつきあってた二人の間でもし別れるようなことがあったら
その時は必ず、彼女が大笑いするくらいの面白い別れ文句を
言わなきゃいけないっていう決め事があって
芸人としての仕事もなく先の見通しなんか全然立たない中で
終わりにしようと全身全霊で考えた
「でもね、出てこないんだよなー
オレほどのセンスがあっても
それで仕方ないから芸人の方を辞めてふたりでこの店始めたってわけ」

帰り際、いつも通りの「ごちそうさま」って言葉が
やけにしっくりハマった気がして

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