床の間

学生のころ、バンドをやってる民族音楽にやたら詳しいヤツと仲良くなって
彼が行きつけだという『白サイ』って茶店で待ち合わせをした
アフリカの珍しい打楽器なんかが置いてある
そんなところを勝手にイメージしていたが
聞いていた場所にそれらしい店がなく
ケイタイもない時代でどーしようかと思ったらひとつ浮かんだ
同業者なら知ってるはずだと近くにあったフツーの喫茶店で聞くことに
入ろうとした自動ドアに大きく漢字二文字で
『潮騒』と書かれていて………
聞き間違いが多い、昔っからそうで
いや、これも「『白サイ』って変わった名前だな」と
一言確認していれば済んだ話で
人とのコミュニケーションの取り方が雑というか

健康診断で聴覚に問題があると言われたことは一度もないが
聞き違いをすることが人生の中で本当に多くて
小学校へ入ったくらいだったか
家に人が来て、なにか重い話だったようでボクは客間から追い出された
出されたら聞きたくなる
壁に耳ありを実行した
客は中年の女性で少し泣き声も交じって今思えば愚痴をこぼしてたんだろう
その中にひとつ気になるフレーズがあって
女の人が帰った後ボクはすぐに客間に入った
言い遅れましたが当時のうちの客間というのが和室で
広くはないが仏壇とその横に小さな床の間が
床の間も、知らない若い人も出てきたので簡単に説明させていただくと
和室の中で一段高くなってる
壺とか掛け軸なんかが飾ってある空間のことでして

で、その時のボクは床の間の前に立っていた
隅から隅までしっかりと見るが分からない
座ってみた
でも何も感じない
置いてあった花瓶を少しずらしてスペースを作り横になったが
これも変わりがない
7歳のボクの頭が「?」でパニックに
そこへ母親が入って来て
「あんた何やってるの、寝るところじゃないでしょ」と怒られて
ボクは疑問を親にぶつけた
「『床の間の幸せ』ってなに?」
母は噴出し「また盗み聞きッ」と笑うだけで

結局、晩ご飯が終わって一時間くらいしてからゆっくりと
『つかの間の幸せ』について話してくれた


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