店長

ゆったりとムーディーなBGMが流れ
両手を前に組んだ店員たちが深々と頭を下げて
エスカレーターからのお客様をお迎えする
バブル全盛期、老舗デパートの開店時の風景です
といっても百貨店という業態は今もそんなに変わってないようで
実はこの中にボクもいた
紳士服イージーオーダーという
もう、どこの店舗をさがしても存在しないような売り場に

メーカーから新卒で派遣されて
接客はもちろんお店の人に対しても気を使わなければならない立場で
いつもピリピリした、メンタル面でかなりハードな状況が続いていた
そんな中、ボクがやったディスプレーがちょっと話題になって
今だとなんてことない
マネキンにバラの花を一本持たせ
告白でもするように前に差し出しただけなんだけど
コレがお店のトップの耳にまで入った
当時のデパートの店長といえば大げさでなく
業者の人間に取っては『雲の上の存在』で

呼ばれて、ディスプレーの前で売り場の課長と話しているその人のところへ
恐る恐る近づいていった
社会に出て初めて経験する圧倒的な威圧感
身体はさほど大きくなかったが
きちっと固めたオールバック
黒縁のメガネの内にある細い目は
隙がなくこちらのことを全部見透かしているように思えた
それでもここはいかなきゃいけないと決めていたので
「売り場のことはいつも課長から厳しくご指導いただいております」と
その時考えられる精一杯の処世術でボクは対応した
すると
少し間をおいて店長が
「やるぅ、カッコいいッ」と、課長の肩を小突いた

ええッ、こんなノリだったの………


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