僕の怒っている顔が笑ってるように見えるのは、僕が本当に幸せだからだろうねー
小学3年生のA君は本が大好き。読み始めたら没頭してしまって、少し声をかけたくらいでは動き出せない。だから、何をするにもみんなより遅れてしまう。
大人から見ても、なかなか指示が通らないため、早くしてよー、となりがちである。
口数は多くはないが、話し出すと声が必要以上に大きい。忘れ物も多く、感情の表現もうまくない。
ある日、4人用のテーブルで数人の3年生が宿題をしていた。そのグループにA君が入ろうとしたところ、そこに座っていた子どもたちが一斉に他のテーブルに移動しはじめた。
A君はそういうことに少し鈍感なところがあるので、何も気にせずにまたみんなが移動した先のテーブルに一緒に座ろうとする。
するとまた、他の子どもたちは元のテーブルに戻ろうとする。
「なんかおかしいんじゃないの?
今いるところに座ってください。」
と声をかけると、まあ、空気を読んで何人かはA君と同じテーブルについた。
後でA君を呼んで
「イヤな気持ちはせんかったん?」と訊くと、
「僕、怒ってる顔をしたら、笑っているように見えるんだよね。」
という。確かに、彼が怒ると周りの子はみんな笑いだす。
「ちょっと怒った顔してみて」
と言うと
目を見開いて、口をへの字にして、手を挙げてこちらに向けて力をこめ、ブルブルしながら
「んーーー!」
とやる。
うん、確かに怒っているようには見えない。
「そうだなあ。そのポーズはやめようか。ほいで、んーー、じゃなくて、ことばで、ぼく、今いやな気持ちだったよ、って言う方が伝わると思うよ」
と言うと何回か練習していた。
まあ、そんなにうまくいかないだろうけど、傷つく回数が減ったらなー、なんて考えていたが、彼はもっとポジティブだった。
会話の途中で彼が言ったことばがとても印象に残っている。
「僕の怒っている顔が笑ってるように見えるのは、僕が本当に幸せだからだろうねー。」