令和3年司法試験・刑事系第2問(刑事訴訟法)再現答案

刑訴法の再現答案です。

本文

第1 設問1
1 下線部①の差押えの適法性について
⑴ 下線部①の差押えは、Pらが裁判所から発布を受けた捜索差押許可状に基づき、その差押対象物である「名刺」と合致する、丙組の幹部丁の名刺1枚(以下、「本件名刺」)を差し押さえたものであるから、令状に基づく差押えとして当然に適法であるとも思える。
⑵ もっとも、差押えに当たっては目的物が「証拠物又は没収すべきものと思料するもの」であるか、即ち被疑事実との関連性(刑事訴訟法(以下法令名省略)222条1項、99条1項)があることを要するところ、甲が乙及び氏名不詳者と共謀の上で本件住居侵入強盗に及んだという被疑事実と本件名刺は被疑事実の関連性を欠いているとも考えられる。
 しかし、本件では「乙の背後には、警察と敵対し、捜査に一切協力しない指定暴力団である丙組がいて、乙は、その幹部に犯行で得た金の一部を貢いでいます」との甲の供述(以下、「本件供述1」)が存在する。本件供述1を踏まえると、本件名刺は乙と丁の関係性を推認させる証拠となり、乙に対して本件名刺を見せ丁との関係性につき尋ねること等を通じて、本件住居侵入強盗によって得た金を含めた金銭の流通過程など、事件の組織的背景を知ることにつながりえる。
 そうすると、本件名刺について被疑事実との関連性が認められる。
⑶ したがって、下線部①の差押えは適法である。
2 下線部②の差押えの適法性について
⑴ 下線部②の差押えも、裁判所から発布を受けた捜索差押許可状に基づき、その差押対象物である「電磁的記録媒体」に当たるUSBメモリ計2本を差し押さえたものである。また、本件では「H県I市内のAビル21号室をアジトとして」おり、「アジトには、…強盗のターゲットになる人の氏名と電話番号の入った名簿データが保存されているUSBメモリがあ」り、Vの氏名や電話番号も入っていると思われるとの甲の供述(以下、「本件供述2」)が存在することから、USBメモリ計2本と被疑事実との関連性が認められ、下線部②の差押えは令状に基づく差押えとして適法であるとも思える。
⑵ しかし、下線部②の差押えにおいてはUSBメモリの内容をその場で確認することなく差し押さえている。かかる包括的差押えが許されるのか問題となる。
ア 差押対象物と被疑事実との関連性が要求され、また219条1項により捜索・差押対象物の明示が要求される趣旨は、無差別的な捜索・差押えによる被処分者の財産権等の侵害を防止する点にある。そうすると、差押対象物と被疑事実の関連性を確認することなく包括的に差押えをすることは原則として許されない。
 しかし、差押えの実効性を確保すべき観点から、①対象物に被疑事実に関連する情報が記録されている蓋然性が認められ、②その場で被疑事実との関連性を確認するのが容易でなく、また被処分者等に記録内容の破壊、隠滅を図られるおそれがある場合には、例外的に内容を確認せずに差し押さえることが許される。
イ 前述した本件供述2を前提とすると、同室の捜索の結果発見されたUSBメモリ計2本の中にVを含めた名簿データが記録されている蓋然性は高い(①)。
 一方で、USBメモリの記録内容について乙が自ら破壊、隠滅を図ろうとした具体的な事情はなく、また乙はPらにUSBメモリのパスワードを「2222」であると告げており、これを利用してその場でUSBメモリの内容を確認することは容易であるとも思われる。
 しかしながら、本件では、「USBメモリは、パスワードが掛けられていて、一度でも間違えると初期化されてしまいます。パスワードは8桁の数字で、乙しか知りません」との甲の供述(以下、「本件供述3」)が存在し、乙の告げたパスワードは甲の本件供述3と矛盾する。そうすると、乙は誤ったパスワードをPらに告げることを通じてUSBメモリの記録内容の消去を図った可能性がある。また、仮に乙の告げたパスワードが真実であるとしても、その信用性についてその場で即座に判断することは困難である。よって、本件においてその場でUSBメモリの内容を確認し、被疑事実との関連性を確認するのが容易でない事情が認められる(②)。
ウ したがって、本件においてUSBメモリの内容をその場で確認することなく差し押さえることは例外的に許される。
⑶ 以上より、下線部②の差押えは適法である。
第2 設問2
1 小問1について
 本件メモ1につき伝聞法則(320条1項)が適用され、原則としてその証拠能力が否定されることにならないか。伝聞法則の趣旨及び伝聞証拠の判断基準が問題となる。
⑴ 伝聞法則の趣旨は、供述証拠には近く・記憶・叙述・表現の各過程において誤りが混入しやすいため、公判廷における反対尋問等で供述内容の信用性を担保する必要があるところ、このような信用性の吟味の機会のない伝聞証拠を証拠から排除することにより誤判を防止する点にある。
 そうすると、供述証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②その供述内容の真実性が要証事実との関係で問題となるものを指すと解する。
⑵ 本件メモ1は、公判廷外の乙の記載を内容とする証拠であることは明らかである(①)ところ、本件メモ1の記載内容の真実性が要証事実との関係で問題となるかを、Qの立証趣旨を踏まえて検討する。
ア まず、本件メモ1が甲乙間の本件住居侵入強盗に関する謀議の手段として用いられたことを立証趣旨とすることが考えられる。即ち、本件メモ1はVという名前や住所、生年月日、家庭の状況やS銀行への預金額、タンス預金の存在といった情報のほか、「催涙スプレー、ロープ、ガムテープ」等犯行に用いうる道具について箇条書きに記載されている。そして、本件では「乙から、Vさんに関する情報や犯行に使う道具などについて印字された紙を見せられ、その説明を受けました」という甲の供述(以下、「本件供述4」)が存在し、本件メモ1は本件供述4に出た紙と一致することが推認される。そうすると、本件供述4を踏まえ、乙が本件メモ1を甲に見せて本件住居侵入強盗を行うよう指示する謀議が行われたことを立証しうる。
 この場合、要証事実は謀議の手段たる本件メモ1の存在自体であり、その記載内容の真実性は問題とならないから伝聞証拠には当たらない。しかしながら、本件では公判廷において甲が本件供述4を含め乙の関与をうかがわせる事項を供述せず、更に本件供述4については供述調書が作成されなかったため同供述につき伝聞例外を適用することもできない。そうすると、以上の立証を行うことは困難と言える。
イ 次に、本件メモ1の作成者たる乙の意思・計画を立証趣旨とすることが考えられる。前述の通り、本件メモ1にはVに関する情報及び犯行に使う道具等が記載されているところ、本件住居侵入強盗は、催涙スプレー、ロープ及びガムテープを用いて、台所の食器棚から現金500万円を取り出して強奪するという態様・経過を辿っており本件メモ1の記載内容と客観的に一致している。そうすると、本件メモ1に記載された内容の意思・計画を乙が有しており、これを甲に伝える形で本件住居侵入強盗の共謀がなされたことを立証しうる。
 この場合、要証事実は本件メモ1に記載された内容の意思・計画を乙が有していたかであり、その記載内容の真実性が問題になる(②)。そうすると、本件メモ1は伝聞証拠に当たるとも思える。
ウ しかしながら、かかる証拠は記載者の精神状態の供述といえるところ、かかる供述については知覚・記憶の過程がなく叙述の正確性のみが問題となりその文書の記載状況から客観的に判定可能であること、および記載当時の心理状態を証明するための最良の証拠であり、必要性・重要性が高いことから、精神状態の供述については例外的に伝聞証拠に当たらないと解する。
⑶ 以上より、本件メモ1について記載当時の乙の意思・計画を立証趣旨とする場合、本件メモ1は伝聞証拠に当たらないことから、本件メモ1の証拠能力は認められる。
2 小問2
⑴ まず、本件メモ2は伝聞証拠に当たるか。1⑴の判断基準を踏まえて検討する。
 本件メモ2は公判廷外における甲の記載を内容とする証拠である(①)。また、小問1とは異なり、本件メモ2を作成した甲が自ら本件住居侵入強盗に及んでいる以上、記載当時の甲の意思等を立証趣旨としても甲乙間の本件住居侵入強盗に関する共謀を立証することにはならない。
 そうすると、本件メモ2の立証趣旨は、Vに関する情報や犯行に使う道具や犯行態様につき、「乙から指示された」という形の共謀の存在となる。この場合、要証事実は本件メモ2に記載された内容通りの共謀が存在したかであり、その記載内容の真実性が問題となる(②)。
 よって、本件メモ2は伝聞証拠に当たり、伝聞法則が適用され証拠能力は原則として否定される。
⑵ それでは、本件メモ2について伝聞例外は認められないか。本件において乙の弁護人が本件メモについて不同意としているから同意証拠(326条)としての伝聞例外が認められる余地はなく、321条1項3号の伝聞例外該当性が問題となる。
ア 供述不能要件について。「供述者が…公判準備又は公判期日において供述することができ」ないとされる各事由は、供述者が供述不能となり伝聞例外を認める必要性のある場合を例示列挙したものに過ぎず、これらに匹敵する事由により供述不能になった場合には、供述不能要件は認められる。
 本件では、甲乙間や甲と傍聴人間に遮蔽措置を講じるなど、甲の心理的圧迫を最小限にする形で甲の証人尋問が実施されているが、甲は乙との共謀に関する事項について「誰から何と言われようと証言しませんし、今後も絶対に証言することはありません」と述べ、一切の証言を拒絶している。そうすると、今後甲が証言する可能性はない。
 したがって、本件において供述不能要件が認められる。
イ 不可欠性について。「その供述が犯罪事実の証明に欠くことができないものであるとき」とは、その供述内容が犯罪事実の存否に関係ある事実に属する場合であって、その供述が事実の証明につき実質的に必要と認められるときに認められる。
 本件メモ2の記載内容は、前述の通り甲乙間の本件住居侵入強盗に関する共謀という、乙の本件住居侵入強盗に関する共謀共同正犯の犯罪事実の存否に関係ある事実に属するといえる。そして、本件メモ1や同内容のデータ等が発見されなかった本件では、本件メモ2の記載が甲乙間の共謀の証明につき実質的に必要と言える。
 したがって、本件において不可欠性が認められる。
ウ 絶対的特信事由について。「その供述が特に信用すべき情況の下にされたものである」か(321条1項3号但書)は、記載時の外部的付随的事情を中心に判断し、記載内容については補充的に用いるべきである。
 本件メモ2は、甲方の机の施錠された引き出し内から発見されたものであり、他者に内容物を見せることを想定していなかったと解されることから、本件メモ2につき虚偽が記載される可能性は低い。また、本件メモは甲使用の令和2年8月4日のページの部分に挟んであったところ、甲は本件住居侵入強盗に際して本件メモ2を利用した後にそのまま挟んでいたことが推認され、事後的に誤りを記載した可能性も低い。  
 また、本件メモ2はVに関する情報や犯行に使う道具、犯行態様が箇条書きで記載されており、「乙から指示されたこと」という部分を含め甲の主観や誤りが入るおそれは低い。更に、本件メモ2の記載のうち、「乙から指示されたこと」という部分やVに関する情報を除いた犯行の態様等については、本件住居侵入強盗において実際に行われており、本件メモ2を共謀の内容とみる限り実際に同内容の犯罪事実がなされたという意味での裏付けが認められる。
 以上の事情を総合すると、本件メモ2の記載は「特に信用すべき情況の下にされたもの」といえる。したがって、本件において絶対的特信事由が認められる。
エ 以上から、本件メモ2は321条1項3号の伝聞例外の要件を満たす。
⑶ したがって、本件メモ2の証拠能力は認められる。   以上

所感

・設問1は某予備校の論文模試で出た被疑事実の関連性を含む問題であり、ちゃんと復習しておけば良かったと後悔しました…。設問2は伝聞法則の中でも出題可能性が高いと踏んでいた犯行メモの問題でしたが、甲にかかわる具体的事情の評価に困りました。

・被疑事実の関連性については、問題提起→規範定立→当てはめという自分なりの型を確立していなかったため、具体的事情をベースに作文する羽目になりました。

・設問2の小問1では、想定される立証過程を複数挙げその実現性を論じました(本件メモ1を謀議の手段として立証することが考えられるが、謀議に用いたとする甲の証言が公判で得られないため立証が困難、など)が、設問において「立証過程を複数あげ…」などの誘導がなかったため蛇足だったかもしれません。

・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ80%」という認識です。設問2小問1・小問2に共通して、「立証趣旨」「推認過程」「要証事実」の文言の意味するところが判然としない記述だったと思います。

・(9月11日追記)出題趣旨(刑訴法は18-20頁)が出たので目を通してみました。設問1では、やはり被疑事実との関連性について判例(最判昭和51年11月18日)を踏まえつつもっと厚く一般論から論じるべきだったようです。設問2は出題趣旨に沿った論述が出来ていると思いますが、複数の立証過程という蛇足の結果後半の伝聞例外の検討が薄くなっている気がします。

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