令和3年司法試験・選択科目(経済法)第1問 再現答案
選択科目(経済法)の第1問の再現答案です。ここまで上げた基本7法は分析会で取り上げられてたこともあり大コケはしていないだろうと思われますが、選択科目はひっそり事故っているかもしれません…
本文
第1 Y1ないしY13の担当者が本件会合により本件合意に至ったこと、Y1がY14及びY15が本件合意への参加を呼びかけ、Y14とY15の担当者がY1の呼びかけに応じる意思を表明したことという一連の行為について、独占禁止法(以下「法」)2条6項の不当な取引制限に当たり、Y1ないしY15は法3条後段に違反しないか。
第2 Y1ないしY15は、いずれも土木工事の施工等を業とする「事業者」(法2条1項)である。
第3 不当な取引制限の行為要件は、①「事業者」が「他の事業者」と②「共同して」、③「相互にその事業活動を拘束」すること(以下、相互拘束性)である。
1 ①について。「事業者」と「他の事業者」は相互に競争関係に立つ事業者であることを要するところ、Y1ないしY15は、X県という同一の需要者に対し、本件各工事に係る役務という「同種」の役務を供給することができるから、互いに「競争」関係(法2条4項1号)にあり、①を満たす。
2 ②について。「共同して」とは、複数事業者間に意思の連絡があれば認められる。そして、意思の連絡とは、本件のような入札談合では、複数の事業者間で取決めに基づく行動をとること互いに認識・認容して、これと歩調を合わせる意思があることをいう。
また、かかる意思連絡は拘束性を明示して合意することは必要なく、黙示の意思連絡でも足り、事前の連絡交渉の有無・連絡交渉の内容及び行動の外形的一致といった事実から判断される。
⑴ Y1ないしY13について。Y1ないしY13については、担当者が本件会合を開き、本件合意に至ることによって参加者が⑴~⑶の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識・認容し、これと歩調を合わせる意思が認められる。よって、Y1ないしY13の間に意思連絡が認められる。
⑵ Y15について。Y15の担当者は、Y1の担当者から本件合意の内容及び本件合意の参加者がY1ないしY14であることを伝え、本件合意への参加の呼びかけを受けたのに対して会社としてY1の呼びかけに応じる意思表明を行っている。かかる意思表明をもってY1、ひいては他の参加者との間でY15が本件合意の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識・認容し、これと歩調を合わせる意思が認められ、Y15との間でも意思連絡が認められる。
⑶ Y14について。Y14の担当者がY1の担当者から本件合意への参加の呼びかけを受け、会社としてY1の呼びかけに応じる意思表明を行った点ではY15と同様であるが、Y14は本件合意の参加者の性格な範囲を認識していない。しかし、多数の事業者が存在する談合においては、概括的認識をもって意思の連絡があると解すべきであり、本件においてY14はY1をはじめX件所在の有力な業者の多くが本件合意に参加することを認識していることからこのような概括的認識が認められる。また、実質的に考えても、本件合意は、各参加者がY1に対して受注希望工事を知らせ、Y1が入札者及び入札価格を決定して各参加者に入札価格を伝達するという形式をとっているから、取決めに基づく行動をとるにあたってはY1が本件合意の参加者であることを認識していれば問題ない。よって、Y14との間でも意思連絡が認められる。
⑷ 以上より、Y1ないしY15の間で意思連絡が認められ、「共同して」といえるため②を満たす。
3 ③について。相互拘束性は、意思の連絡により、当事者である各社の本来自由なはずの事業活動における意思決定が制約されて、事実上拘束されることをいう。一方で、拘束内容の共通性や目的の共通性は不要である。
本件において、本件合意の参加者のうちY1は本件合意に基づいて各参加者から受注希望工事等の連絡を受け、受注希望者の中から受注予定者や入札価格等を決定し、受注予定者や入札参加者に入札価格を伝えることになる。また、Y1以外の参加者も、Y1に受注希望工事等を連絡し、Y1から入札価格を伝えられた場合にはその価格で入札し受注予定者が受注できるよう協力する必要がある。そうすると、本来各事業者が自己の事業活動として自由になし得る、入札するか否かの選択及び入札価格の決定に係る意思決定が制約され、事実上拘束されているといえる。
なお、Y14は本件各工事の受注希望はないため入札希望工事の連絡をする余地はなかったこと、および本件合意についてはX県による追加工事の発注を見越して参加しており目的が異なるという事情があるが、上記の通り目的の共通性は不要であるほか、現にY1から依頼を受けた工事について技術評価点の予測値をY1に提供するとともにY1から伝えられた価格で入札していることから、相互拘束性が及んでいるといえる。
そうすると、Y15がY1の呼びかけに応じる意思表明を行った時点において、Y1ないしY15の間で相互拘束性が認められ、③を満たす。
第4 では、Y1ないしY15の一連の行為は、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という効果要件を満たすか。
1「一定の取引分野」とは市場を表し、共同行為が対象とする取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、需要者にとって代替性のある商品及び地理的範囲がないかも考えて、そこでの競争が行われる範囲として画定される。
本件合意の対象となっているのはX県が条件付一般競争入札の方法で発注する本件各工事についてであるから、市場はX県が条件付一般競争入札の方法で発注する本件各工事の入札市場(以下、「本件市場」)である。
2「競争を実質的に制限する」とは、本件のような入札談合の基本合意による場合、その当事者である事業者らが、その意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態(以下、「市場支配力」)をもたらすことをいう。
⑴ 本件において、Y15がY1の呼びかけに応じる意思表明を行った時点においても、本件市場においてはY1ないしY15以外の技術力が高くない数社がアウトサイダーとして存在し、総合評価落札方式を取る本件市場においては技術力が高くなくとも廉価な入札価格で入札することによりアウトサイダーが落札する可能性は否定できない。そうすると、アウトサイダーは牽制力を持ちうることから基本合意としての本件合意から直ちに市場支配力の形成が認められるとは評価できない。
⑵ もっとも、入札談合の実施状況からみて、対象工事の相当部分で基本合意に基づく個別調整が現に行われ、それらの公示で受注予定者が落札した場合には、基本合意が拘束力をもって有効に機能し、基本合意の成立について市場支配力の形成が認められるといえる。本件において、20件の本件各工事すべてについて本件合意に従って受注予定者の決定等がなされたと解されるところ、そのうち19件について本件合意に基づく調整の結果通り、Y1ないしY13が落札している。
そうすると、本件合意が拘束力をもって有効に機能し、本件合意の成立をもって市場支配力の形成が認められる。
⑶ よって、一連の行為につき効果要件を満たす。
第5 また、「公共の利益に反して」とは、法の究極の目的に反しない例外的場合を除く趣旨であるが、本件合意は受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るためになされており、需要者の利益に反しているといえる。よって、「公共の利益に反して」いる。
第6 そうすると、Y1ないしY15間の一連の行為は法2条6項の不当な取引制限に当たり、Y1ないしY15は法3条後段に違反するとも思える。
第7 もっとも、Y15については、本件各工事の入札公告前に、Y1に対して本件合意に参加しないことを明確に伝えている。ここで、本件における不当な取引制限の成立時期について、Y15がY1の呼びかけに応じる意思表明を行った時点ではなく、その後の本件市場での個別調整状況を踏まえて初めて効果要件を満たすことになることを鑑みると、Y15が上記のY1への不参加表明をもって本件合意から離脱したと評価できる場合、Y15は本件合意が市場支配力を形成する前に本件合意から離脱したことになり、不当な取引制限を行ったことにはならないといえる。そこで、Y15の上記行為をもって合意からの離脱が認められるかが問題となる。
1 合意から離脱したというためには、内心において離脱の意思を有しただけでなく、他の参加者からみて離脱者が合意から離脱したことを窺い知るに足る十分な事情を要する。
2 本件において、Y15は担当者により本件合意に参加する意思を撤回する旨の連絡を行い、Y1の担当者からの再度の呼びかけにたいしてもこれを拒否する姿勢を明確に示している。一方で、Y1以外の参加者に対しY15の離脱意思を明らかにする事情はない。しかしながら、本件においてY15の翻意が他の参加者に伝わらなかったのはY1の判断によるものであること、また実質的にみても、前述した本件合意の形式からすれば各参加者と直接のやり取りを行うY1が参加者の離脱を認識すれば合意からの離脱として必要にして十分と解されることから、本件において上記の十分な事情が認められる。
3 以上より、Y15は本件各工事の入札公告前に合意から離脱したといえ、本件合意が効果要件を満たす前に離脱していることからY15については不当な取引制限を行ったとは評価できない。
第8 以上より、Y1ないしY14間の行為について法2条6項の不当な取引制限に当たり、Y1ないしY14は法3条後段に違反する一方、Y15はこれに違反しない。 以上
所感
・周期的に今年は価格カルテルが出ると踏んでいたところ、入札談合が出てきたため焦りました。参加者の一部の「主張」を踏まえつつ論ずる、という問題形式は論点解析経済法で見たことがありましたが、答案への反映のさせ方に悩みました。
・Y14との関係での意思連絡の認定等は比較的安定して書けた一方、Y15にまつわる事情を不当な取引制限の論述のどの部分でどのように書くべきか悩ましかったです。競争の実質的制限が①Y15の合意時点で生ずるか、②その後の実施を踏まえて生ずるのか(その場合、②の時点で離脱しているY15は行為者に当たらないのではないか)という時的な問題として捉えましたが、あまり自信はありません…
・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ95%」という認識です。一番最初に書き上げた再現答案であることもあり、大きくズレているところはないと思います。
・(9月11日追記)出題趣旨(経済法は26-30頁)が出たので目を通してみました。第1問に関しては上記の通りY15に関する問題設定が適切であったか不安だったのですが、出題趣旨26頁には
Y15は、本件合意への参加に関するY1の呼び掛けにいったん応じたものの、入札公告前にY1に対して本件合意に参加しないことを明確に伝えたと主張しており、ここでは、いつの段階で違反が成立するのか、すなわち個別調整等を待たずとも基本合意により違反は成立するのか、また、基本合意により違反が成立すると考えるならば、本問においてY1に対する意思表示のみで離脱を認めることができるのかが問題となる。
と記載されていました。出題の趣旨としては、基本合意の成立時に(基本合意の成立のみをもって)違反が成立し、その後にY15の離脱が認められるかを論ずることを想定していたようです。よくあるパターンですね。
自分の答案はぐちゃぐちゃ書いてますが、結局のところ違反が成立する(基本合意につき競争の実質的制限の効果が認められる)のは個別調整後であり、その時点でY15が合意から離脱していたたのであればそもそも「Y15は違反していない」ことになるのではないかという問題提起・検討を行っているので少々出題の趣旨からはズレています… 個別調整の実施状況を踏まえた競争の実質的制限の認定に関しては東京高判平成20年9月26日(焼却炉談合事件)、最判平成24年2月20日(多摩談合新井組事件)を前提にしたので、善解されていることを祈ります。
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