防備録 第1期トランプ政権時の「関税を武器にした外交ディール」の結果・意味と影響
トランプの「関税を武器にした外交ディール」の意味と影響
トランプ前大統領の外交戦略は、「関税を交渉の武器」として使うものだった。彼の主張では、関税を用いることで貿易不均衡を是正し、アメリカ国内産業を守り、交渉相手国に譲歩を迫ることができるというものだった。しかし、この手法には一定の効果がある一方で、多くの課題や影響もある。
1. 第1期トランプ政権の関税政策の主な狙いと結果
① 貿易赤字の削減
中国やEU、日本との貿易赤字を減らし、国内製造業を強化することを狙った。
例:2018年の米中貿易戦争で、中国からの輸入品に最大25%の関税を課した。
② 交渉で優位に立つための圧力
**USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)**の交渉では、NAFTA(北米自由貿易協定)を「最悪の貿易協定」と批判し、関税をちらつかせて再交渉を実現。
EUに対しても自動車関税の引き上げを示唆し、貿易交渉を有利に進めた。
③ アメリカ製造業の保護
鉄鋼・アルミに対する関税(2018年) を発動し、国内生産を奨励。
特にラストベルト(Rust Belt)の労働者層へのアピールとして利用。
2. 関税を武器にした交渉の「意味」
効果があった点
① 短期的な圧力としては有効
USMCAの締結や一部の譲歩を引き出すことに成功。
中国との「第一段階の貿易合意」(2020年)は、トランプの圧力があったからこそ実現。
② 企業のリスク分散を促した
米中対立を受け、多くの企業が生産拠点を中国以外(ベトナム、インド、メキシコ)へ移す動きを加速。
一部の企業にとっては「中国依存からの脱却」が進むきっかけになった。
③ 政治的な支持を得た
「アメリカ第一主義(America First)」を掲げるトランプ支持層(特に製造業・農業従事者)には受けが良かった。
3. 主な課題と影響
① 経済的な打撃とコスト増
関税は最終的にアメリカの消費者が負担することになった。
例:中国からの輸入品に対する関税が上がった結果、アメリカ国内の価格が上昇し、企業や消費者の負担が増大。
農産物の関税報復措置により、アメリカの農家が大きな影響を受けた。
② 同盟国との関係悪化
カナダ、EU、日本などの伝統的な同盟国にも関税をかけたことで、アメリカへの不信感が増大。
特に日米自動車関税問題では、日本側が反発し、トランプの対日交渉は難航。
③ 長期的な効果は限定的
中国との貿易赤字は、結局大きくは減らなかった。
貿易戦争の結果、一時的には赤字減少したが、長期的にはアメリカ企業が中国市場でのシェアを失っただけ。
製造業の雇用は戻らなかった。
企業は生産をアメリカに戻すのではなく、コストの安い第三国(メキシコ、東南アジア)へ移した。
④ 世界経済の不安定化
貿易戦争の激化により、株式市場の変動や、投資の不確実性が高まった。
特に、米中貿易戦争はグローバルサプライチェーンに混乱をもたらし、多くの国が影響を受けた。