防備録 「グローバルサウス(Global South)」の動向

「グローバルサウス(Global South)」は、従来の「先進国(グローバルノース)」に対し、アジア、アフリカ、中南米、中東などの新興国・途上国を指す概念です。近年、経済成長や地政学的な存在感を増す一方で、債務問題や気候変動など複雑な課題に直面しています。以下、最新の動向と今後の課題を整理します。


1. グローバルサウスの最近の動向

(1) 多極化世界の台頭と「非同盟」の再定義

  • 米中対立のすき間を突く動き

    • インド、ブラジル、南アフリカなどが「米中いずれにも依存しない」戦略を強化。例:インドはロシア産原油を割安で輸入しつつ、米国と防衛協力も維持。

    • BRICS拡大(2023年8月):サウジアラビア、イラン、エジプトなど6カ国が新規加盟を申請。G7に対抗する経済ブロック形成を模索。

  • 地域協力の深化

    • アフリカ連合(AU)がG20に正式加盟(2023年9月)。「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」の本格始動で域内貿易拡大を推進。

(2) 資源ナショナリズムと経済自立

  • リチウム・レアアースの囲い込み

    • チリ(銅)、インドネシア(ニッケル)、ザンビア(コバルト)が資源輸出規制を強化し、自国での加工・付加価値化を推進。

    • 例:インドネシアは2023年、未加工ニッケルの輸出禁止を継続し、EVバッテリー産業育成を加速。

  • 脱ドル化の動き

    • BRICS諸国が「共通通貨」構想を議論。ブラジルと中国が人民元建て貿易決済を拡大(2023年3月合意)。

(3) 気候変動交渉での存在感増大

  • 「損失と被害基金」の設立(COP27):

    • 島しょ国やアフリカ諸国が先進国に気候変動の補償を要求。2023年COP28では運用ルールの具体化が焦点に。

  • 再生可能エネルギーへの投資加速

    • インドは2030年までに非化石燃料比率を50%に拡大、サウジアラビアは「NEOM」でグリーン水素生産を計画。


2. グローバルサウスが抱える課題

(1) 債務危機の深刻化

  • スリランカ・ガーナデフォルトの余波

    • 低所得国の対外債務残高は2023年時点で1.1兆ドル(世界銀行)。利上げで返済負担が急増。

    • 中国への債務(アンゴラの対中債務はGDPの約60%)が政治問題化し、債務再編が難航。

  • IMF・世界銀行改革の遅れ

    • 投票権比率の不均衡(例:アフリカ54カ国で総投票権の5%未満)が不満の火種に。

(2) 地政学的リスクの増大

  • ウクライナ戦争の副作用

    • 小麦・肥料価格高騰でエジプト、パキスタンなどが打撃。ロシアとの歴史的関係を維持する国(南アフリカ)は西側から批判。

  • 米中対立の「代理戦争化」

    • 太平洋島しょ国(ソロモン諸島など)で中国と米豪の影響力競争が激化。

(3) デジタル格差と技術依存

  • AI・半導体の遅れ

    • 先端技術の90%以上は米中欧が掌握。インドや東南アジアは「技術植民地化」リスクに直面。

    • 例:ナイジェリアのAIスタートアップはクラウドサービスをAWSに依存。

  • データガバナンスの未整備

    • 個人データ保護法を整備した国は一部(ブラジル、南アフリカ)に限られる。

(4) 気候変動の直撃

  • 異常気象の経済損失

    • パキスタン洪水(2022年)でGDPの10%が消失。アフリカの干ばつで食料危機が慢性化。

  • 適応資金の不足

    • 途上国が必要とする気候資金は年間2.4兆ドル(UNCTAD推計)だが、先進国の拠出は目標の10分の1。


3. 今後の展望と可能性

(1) 新しい国際秩序の形成

  • 「グローバルサウス連合」の台頭

    • BRICSやG77が結束すれば、国連やWTOでの発言力を拡大。例:気候変動交渉で先進国に排出削減目標の厳格化を迫る。

  • 非西洋主導の金融システム

    • 新開発銀行(NDB)やアジアインフラ投資銀行(AIIB)が世界銀行に対抗。

(2) 課題解決への道筋

  • 債務再編の多角化

    • 中国・民間債権者を巻き込んだ「共通枠組み」構築(G20提案)が急務。

  • 地域サプライチェーンの強化

    • 東南アジアのEVバッテリー生産網、インドの半導体製造拠点化がカギ。

  • 技術協力の推進

    • インドの「デジタル公共財(DPI)」モデル(Aadhaarなど)を途上国に展開。

(3) リスク要因

  • 内政不安の連鎖

    • パキスタン、ナイジェリアなどで政情不安が経済改革を阻害。

  • 大国の介入リスク

    • 中国の「一帯一路」債務トラップや米国の制裁が自立を妨げる可能性。


4. 具体的事例で見る方向性

  • インド

    • 「中国+1」戦略の最大の受益国に。半導体製造奨励策で2027年までに国内生産を開始予定。

    • 課題:雇用創出なき成長、都市と農村の格差拡大。

  • ブラジル

    • ルラ政権が「アマゾン保護」で欧州から資金獲得を目指す一方、中国との大豆・鉄鉱石貿易を拡大。

  • ベトナム

    • サムスンやインテルの工場誘致で「東南アジアの製造ハブ」化が進展。ただし、電力不足がボトルネックに。

いいなと思ったら応援しよう!