忘備録 日本の消費税は「多重課税」なのか?
日本の消費税は「多重課税」なのか?仕組みを詳しく解説
消費税は、商品やサービスを購入するときにかかる税金ですが、その仕組みを詳しく見ると「多重課税ではないか?」という疑問が生じることがあります。たとえば、製品を作る過程で、原材料の仕入れ、生産、流通、販売の各段階で消費税がかかる ため、「何度も税金が課されているように見える」ことが理由のひとつです。
しかし、実際の制度を詳しく見ていくと、「多重課税」とは言い切れません。その理由を順番に説明していきます。
1. 消費税は「付加価値」に対して課税される
日本の消費税は、付加価値税(VAT:Value Added Tax) という仕組みを採用しています。これは、「商品の価格そのものではなく、各段階で付け加えられた価値(付加価値)」に対して税金がかかる仕組みです。
たとえば、製品の流通をシンプルにすると、次のようになります。
原材料 → メーカー
メーカー → 卸売業者
卸売業者 → 小売業者
小売業者 → 消費者(最終販売)
このそれぞれの取引で消費税が発生しますが、実際には「仕入れ税額控除」という制度があるため、企業が納める消費税は自分が付加した価値の部分だけになります。
2. 消費税の仕組みを具体的にみる
実際に、商品が消費者に届くまでの流れを例にして考えてみましょう。
ケース:100円の原材料が400円の商品になるまで
① メーカーが原材料を仕入れる
原材料費:100円
消費税(10%):10円
合計 110円で購入
メーカーは、この 10円の消費税を支払うが、あとで控除できる。
② メーカーが加工して卸売業者へ販売
販売価格:200円(付加価値 100円増加)
消費税(10%):20円
合計 220円で販売
仕入れ時に払った10円を控除し、納税するのは20円 − 10円 = 10円
③ 卸売業者が小売業者へ販売
販売価格:300円(付加価値 100円増加)
消費税(10%):30円
合計 330円で販売
仕入れ時に払った20円を控除し、納税するのは30円 − 20円 = 10円
④ 小売業者が消費者へ販売
販売価格:400円(付加価値 100円増加)
消費税(10%):40円
合計 440円で販売
仕入れ時に払った30円を控除し、納税するのは40円 − 30円 = 10円
最終的な税負担
メーカー:10円納税
卸売業者:10円納税
小売業者:10円納税
消費者が負担する税額(合計):40円
つまり、各企業は自分の付加価値の分だけ消費税を納めているため、最終的に消費税を負担するのは 消費者だけ という仕組みになっています。
3. 「多重課税」と言われる理由
それでも、「企業が何度も消費税を払っているように見える」ことから、多重課税のように思われることがあります。その理由はいくつかあります。
① 取引ごとに消費税が発生しているように見える
各企業が仕入れるたびに消費税を支払っているため、税金が何度もかかっているように思われます。しかし、実際には「仕入れ税額控除」によって、各企業は負担した消費税を相殺できます。
② 取引回数が多い商品ほど課税回数が多いように見える
たとえば、直接販売される商品と、流通業者を何社も経由する商品では、後者のほうが消費税を多く払っているように見えます。しかし、どちらも最終的な販売価格の 10% 分が消費税となるため、消費者が支払う額は変わりません。
③ 計算が複雑で実態が見えにくい
「仕入れ税額控除」というシステムがあるため、多重課税ではないものの、その計算が複雑で、企業にとっては事務負担が増えます。そのため、「税金を何度も払っている」という印象を持つ人も多くなります。
4. 「本当の多重課税」とはどう違うのか?
本当の多重課税とは、「税金そのものに、さらに税金がかかるケース」です。
多重課税の例
ガソリン税 + 消費税
ガソリンには「揮発油税(53.8円/L)」がかかり、その後に「消費税(10%)」が課される。
税金が課された金額を基準に、さらに税金がかかっているため、実際の負担はかなり増える。
酒税 + 消費税
お酒には「酒税」がかかった後、その価格に対して消費税がかかる。
これも、税金に税金がかかっている形になる。
消費税(付加価値税)は違う
消費税の場合は、企業間取引で税を支払っても、その分を控除できるため、「本当の意味での多重課税」ではありません。