週1回2時間の使い方
子供達の習い事、土・日・祝、朝から日が沈むまで練習なんてことも今だに聞くことがあります。
私たちラグビースクールでは、幼児~4年生は日曜日の2時間のみと練習時間が決まっています。
(5.6年生は土日も)
その短時間で、子供達に何を学んでもらえるか。
必要なのはコーチングの計画性と練習時間のマネジメントだと思います。
先日、コーチ間で共有した資料をnoteにてまとめてみました。
ゲーム(プレー)モデルの作成
本来指導要綱のようなコーチングのガイドラインがあることが望ましいと思いますが、残念ながらスクール世代のラグビーに明確なものはありません。
そこで、「プレーモデル」というものをおすすめします。
記事にも書いてあるように簡単にいうと、家を立てる設計図のようなものです。
家を建てる材料が、子供達自身やラグビースクールの環境、時間、背景、目標などになります。
どんな家を建てたいでしょうか。それによって、練習内容、練習時間も変わってきます。
コンタクト練習ばかりの太い柱を作っても、それだけではラグビーはできません。パスやサインプレーのスキルを磨いても、創造性のない決まりきったものにしかなりません。
だからこそ、設計図が必要になります。
土台となる材料から、プレーモデルを作っていきます。
先日ある方からお伺いして、3年生、4年生のプレーモデルに近いものを考えてみました。(ATのみですが)
ご参考までに。
4年生
「アタックから外まで展開してゲイン、ボールリサイクルからもう片方のユニットが展開してゲイン、これの継続」
3年生
「ラック形成からアタックラインの形成とアタックの展開」
ここからが大事なのですが、ゲームモデルは試合のモデルです。
ゲームモデルの比率と練習内容の比率が同じであることが望ましいと言われています。
試合中、コンタクトを30分も続けることはないし、走り続けることもありません。
すべてはゲームと同じ比率で練習を組み立てることが大切です。
そのために必要なのが、もうご存じのように、
『ゲーム中心の練習』です。笑
ゲームモデルについて
プレー原則
本来は大きなモデルの下に、プレー原則として
アタック
ディフェンス
ポジティブトランジション(ターンオーバーなど守備から攻撃へ)
ネガティブトランジション(ミスから相手ボール)
の4つの局面からモデルを作成していきますが、小学生はアタックから始めて、出来るようになったらディフェンスをやればいいのでは、と思います。
「プレー原則」ですが、プレーモデルを遂行するための約束事を作ります。
ここで大事なのが、「これってティーチングではないか。」と思うと思います。
サッカーやラグビー、バスケのように、断続的な判断と意思決定が求められるスポーツの場合、速い判断を無意識まで落とし込むには、子供達のスキルと時間が求められてしまいます。
その上ゲームではこれが出来ないと、モデル遂行もできません。
子供達がゲームで経験したことのない状況を判断するのには時間がかかります。それを極力なくして経験済みの状況を増やすことで、子供達の判断を無意識化、素早く効率的な状況解決に導くことに繋がり、他のプレーに集中ができるという仕組みです。
チームのゲームモデルに適応し、そのゲームモデルに基づいたプレー原則を理解した上で、それに沿ったプレーを適切に選択、判断できる選手は、チームの戦術的理解があるいい選手になります。
また、チームは明確なゲームモデルが全選手に浸透し脳内に同じ地図を持ち、全ての選手がそのゲームモデルによるプレーが適切に行えるチームを目指します。
プレー原則(事例)
4年 プレーモデル
「アタックから外まで展開してゲイン、ボールリサイクルからもう片方のユニットが展開してゲイン、これの継続」
4年 プレー原則
・ハーフから出たボールは必ずウイングまで回す(ゲインしなくても)
・コンタクトが起きた際には、キャリアーは必ずラック、オーバー2名
・もう片方のユニットはラインメイクをしておく。
自ずと練習内容も精査されていきますね。
プレー原則から外れた練習は後回しかやらなくていいわけです。(例えば、ここではハンマーはやらなくていいことになります。)
現在もプレーしている方やご自身の現役時代を考えていただけると、判断基準があること、逆に判断しなくていいこと、があると楽だということがすごくわかると思います。
3年 プレーモデル
「ラック形成からアタックラインの形成とアタックの展開」
3年 プレー原則
・コンタクトが起きたらラック
・ラックからのファーストレシーバーは外へパスする(縦に突っ込まない)
教えることがシンプルなので、ティーチングの時間が減りあとは短いドリルと実戦になります。
すごく難しい設定に感じますが、1週間でできるわけではありません。
1年かけて積み上げていきます。
戦略(ゲームモデル)の浸透は時間をかけて行います。一回の練習でたくさんのことを伝えると頭がパンクします。
1つ教わったら、ドリルで少しやってみて、実戦。
出来るようになったら、次のことをやる。という、繰り返しです。
「イメージは言葉よりも優れ、見せるということは話すことよりも優れ、行き過ぎた教示は何もしないよりも悪い」インナーゲームより
戦術的ピリオダイゼーション
戦術=「ゲームモデル」「プレー原則」です。
チームとしての意思決定なので、フィジカル同様一朝一石ではなく、積み上げて習得していきます。
ピリオダイゼーション=ベストコンディションを引き出すためのスケジュールです。
通常のピリオダイゼーションは、体力的な負荷を一週間で消化→超回復していくサイクル(モルフォサイクル)なのですが、ここに戦略を組み込みます。
まして、小学生では少しずつ組み込まないと、なかなか吸収できません。
一度に教えることは、頭の中が過負荷になってしまいます。
しかも、練習は週1回2時間と限られています。
ここで、体力的、戦略的なピリオダイゼーションを取り入れて、効率的に学習していくことをねらいます。
ピリオダイゼーションの指標ですが、
戦術的には
「習得すべきプレー原則の量」
「集中しなければいけない時間の長さ」
「インテンシティー(密度)の高い練習量」
フィジカル面では
「パワー=ストレングス」
「スピード」
「フィットネス=持久力」
です。
これを、バランスよく取り入れていきます。
プロチーム、学生は1週間でサイクルを作るということも覚えておいてください。
ラグビーの戦術的ピリオダイゼーション
「要素還元主義と構造主義」
構造主義
=1つの要素が他のすべての要素との関係において相互依存的に決定される
要素は構造を離れた独立性を持たない
要素還元主義
=構成している要素をバラバラに分解してそれを再度組み合わせる(還元する)
理科の実験でも、一度分解されたものが勝手には元に戻らないように、1つ1つのドリルの積み重ねが必ずしも実際のゲームにおいて転移するわけではないのです。
しかも、練習を組み合わせることができず、1つ1つをこなしていくため、タイムコストがかかります。
構造主義の練習は、いわゆるセットパックなので、1つの練習でフィットネス、パススキル、コンタクト、判断能力など複数の技術を「繰り返しのない繰り返し」から学ぶことができます。
一方、要素還元主義では試合で起こりうる要素を切り取るため、一見細かいプレーを教えることが出来そうです。
しかし同じドリルを続けてしまうため、学習者のゲーム転移が行われません。
(日本人は様々なスポーツにおいて世界一練習における技術がうまいと言われています。
ex.バレーのトス、サッカーのリフティング、ラグビーのパスなど)
セットパックと反対にすべてを単品で購入するようなもので、非効率的です。
しかしながら、導入時や細かい省察を行う場合に短時間のドリルは学習者のモチベーションによっては有効だと思います。
ドリルを導入する際の注意事項ですが、実施時間です。
ゲームモデルでお伝えしたように、実際のゲームに則した時間配分にすると、せいぜい7分~休憩(コーチング)を挟んだ15分が望ましいと思います。
研究においても、人間の集中力は15分周期でサイクルするので、それ以上の同じ練習は非効率です。
ここに普段の練習2時間の効率化のヒントがあると考えます。
時間の効率化、運動(ゲーム)転移の観点から、構造主義と要素還元主義のメソッドに基づいて練習を組み立てることは大切なことだと思います。
「構造主義に基づく、戦略的ピリオダイゼーションに配慮した練習メニューの事例」
大切なのは、時間のマネジメントと体力的、戦術的ピリオダイゼーションが適正かどうか、ゲームモデルに則した練習になっているか、です。
アップメニューですが、World Rugbyがとてもいいトレーニングを作成しているので、参考にしてみてください。
1 phase 30分
アップ(15分)
→アップメニューは、急な激しい運動でけがをしないために行うものです。筋トレや走り込みで体に過負荷を与えないようにします。
低学年の場合は、可動域や柔軟性を考慮した運動操作を目的としてトレーニングを組み込んでいます。
タッチフット(7分×2セット)
ここでは、ハーフをつけたタッチフットで、7人制のラグビーの構造も学びます。
また、タッチしたプレーヤーとタッチされたプレーヤーは、ボールが離れたあとお互いにバーピージャンプをおこなってから、ゲームに参加します。これにより、実際のラック形成に近いフィットネスを養うことができます。
セット間の休憩は、コーチが介入せず、チームトークを子供達に促し、ゲーム理解とチームトークを養います。
ねらい
・戦ピリ「ボール停滞時のサポート」
・フィットネス
・ラインメイクとパススキル
・コール
Phase 2 45分
ドリル① 15分
・デモンストレーション2分
・ドリル7分
・アドバイス 2分
・ドリル 4分
3人1組
20mをジョグ(1回目)
キャリアーがダウン、フォロー(2人目)がピック&パス、フォロー(3人目)が走り込んでキャッチ、ダウン→ピック&パス(後ろからのコールで右か左に)→キャッチの繰り返し。
2回目からはダッシュ。
・ラック時のフォローのシステム理解
・下にあるボールハンドリング
・走り込んでのボールキャッチ
・短距離スプリント
・後ろからのコールと状況判断
ゲーム① 30分
オフロードタッチ
・ルール説明 2分
・ゲーム 7分
・コーチング(シンクロ) 3分
・ゲーム 7分
・コーチング(フリーズ) 5分・
タッチフット
タッチされたらダウン、ボールは手から離して置くか、近くにプレーヤーがいれば寝ながらパスして良い
ハーフからのパスアウトでインプレー
フリーマン1名をおく
・コール(ハーフ、フォロワー)
・コンタクト想定のダウンのイメージトレーニング
・近距離、長距離へのパス&キャッチ
・メイクライン
・バックステップ、ストップ、スプリント
外に回す意識を持つために、必ずパスアウトから2パス縛りにする。
あるいは、大外のプレーヤーはダブルタッチ(2回タッチ)
ここで、コーチングとチームトークの使い方です。
ゲーム中の修正は、シンクロコーチング。
ゲームの集中を止めずに、パフォーマンスをアップさせる。
振り返りは、フリーズコーチング。
チームトークは、コーチがあまり介入せず、選手だけで修正を促す時、戦術的な負荷が少ないときに有効。
Phase 3 45分
ドリル② コンタクト 15分
・ボールを持って、コンタクトからダウン
・ダウンプレーヤーをまたいでスイープ
ゲーム 20分
ブレイクダウンタッチ
7分ハーフ
ハーフタイムと終わったあとコーチング
以上を導入として1ヶ月継続します。
この間に、戦ピリ、フィジカルの負荷に耐えられるようになり、次の1ヶ月サイクルをまたデザインしていきます。
1年後にゲームモデルを遂行出来るよう練習を組み立てます。
今後は、ブレイクダウンタッチにタックルを入れたり、実際のラグビーにしたり、プレー時間や強度、スピードに負荷をかけることでパフォーマンスの向上をねらいます。
戦ピリでは、パワートライや逆サイドに運べなければターンオーバーなど、タスクを作ることで、1つ1つプレー原則をクリアしていきます。
以上、読んでいただきありがとうございました。
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