消えた櫛
母の1日は櫛で髪を梳かすことで始まる。100回すくことにしているらし。お化粧もしないし、新しい服もいらないというのに。
つげの櫛をプレゼントした。入れ物からだすといぶしたいいにおいがする。厚み、クシ目を選び、初めから手に馴染んだ。一生ものだ、と思った。
2日後、 その櫛が見当たらない 。どうも昨日 誰かにあげてしまったようだ。
悲しかった。誰にあげたのも覚えていないのがなさけなかった。
櫛で二人で作るはずだった思い出も消えてしまった。
母には新しい思い出は要らないのだ。昔の話をゆっくり聞いてくれる人と、おいしいお菓子をゆっくり一緒にたべられればいいのだと思った。
櫛は 消えることが役目だったのかも。新しい 持ち主には 大事に使ってほしい。
あきらめて、うけいれたら肩のちからがぬけた。櫛のははこぼれていない。