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コロッケ

幼い頃から祖母の作るコロッケが好きだった。

ほんのり甘いホクホクのじゃがいも、サクサクの衣。
オタフクソースとケチャップを合わせた
特製『コロッケソース』をかける。
揚げたてのアツアツが美味しいのは言うまでもなく。
翌日にお弁当に入った冷えたコロッケも
なんとも思い出の味である。

コロッケとは手間のかかる家庭料理だ。

鍋でじゃがいもを蒸しているうちに、
フライパンでみじん切りの玉ねぎとにんじんを炒め
挽肉を加えて塩で整えてコロッケダネを作る。
蒸し上がったじゃがいもが熱いうちに皮を剥き、
さっくり潰してコロッケダネを合わせる。
粗熱が取れたものをまぁるく成形して、
バッター液→パン粉の順に衣を纏わせる。
油をケチってはいけない。
180℃の多めの油できつね色にカラッと揚げる。

この工程である。
後には洗い物、油の処理のスペシャルセットが
追加される。

にもかかわらず…
食卓にあがるとトンカツやアジフライなどに比べて、
なんだかパッとしない。
定食屋では、王様である唐揚げの従者的な立ち位置に
甘んじている場合もある。
理不尽な扱いである。

かく言う私も、
コロッケ食べたいなーくらいの気持ちであれば、
お惣菜のお世話になる。

ただ、無性に『祖母のコロッケ』が
食べたくなる時がある。
そういう時は、手間を惜しまず作りきる。
懐かしい思い出の味。
舌の記憶は確かだ。

祖母は、ゆで卵ひとつ丸ごとが入った
スコッチエッグのようなコロッケも作った。
その圧倒的なボリューム感と
半分にカットした断面には、心ときめいた。

あれは理不尽なコロッケへの扱いを
なんとか昇華させようとする
祖母の最終奥義だったのかもしれない。