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11月19日

*ちょっと痛かった話です。

日本のニュースでボジョレーヌーボーの話題をやっていた。私はお酒は嫌いでないので一緒に食事などに行った相手がワインを飲めばワインを飲むし、ビールや日本酒、焼酎あとウイスキーも一時期友達とサンフランシスコ中のいろんなバーに飲みに行った。夫はピンク色のストロベリーマルガリータなど甘く可愛い飲み物を好み、すぐに酔っ払ってしまうので私は友達と出かけた時に良くお酒を頂いた。

赤ワインで思い出すのがもう15年以上前の出来事。友達とちょっとおしゃれなバーのカウンターで赤ワインを飲んでいた。覚えているのはラベルに3羽のカラスの絵がついたRavenswoodというカリフォルニア、ソノマのワインでおそらくカベルネかメルローあたりだったはず。友達も私も世間話をしながら3杯ほど大きなグラスでワインを飲んでいた時に友達の膝に置いていたナプキンがはらりと落ちた。私はどれどれそのナプキンを拾ってあげようとかがんだのだが座っていたバースツールが意外と高くナプキンを拾うどころかバースツールから落ちて座った時に足を載せるパイプ部分に顔をぶつけた。漫画だったら星が出て終わるところ。

星は出なかったが血は出た。私がいやー恥ずかしいと顔を上げると床が赤くなっていてその瞬間私は真剣にお店の誰かが銃で撃たれたと思った。とうとうアメリカでシューティングの現場にいちゃったかと思っていると友達が私の顔を見るなり、すぐお手洗いで鏡を見られた方がいいかもというのでお手洗いに行ってびっくりした。左目の上と眉毛あたりをぶつけてしまったらしく出血していた。その時点ではアルコールのせいなのか全く痛くはなかった。自分が怪我をしたと認識するのにちょっと時間がかかったことも恥ずかしい。今までどんなに飲んでもそんなに酔うこともないのにこの失態。お店の人も心配そうにナプキンを持ってきてくれた。友達がタクシーで一緒に私の保険が適用する病院のエマージェンシールームまでついて来てくれた。申し訳なくて時間も遅いし、待ち時間も長いだろうから友達にはお礼を行って病院から帰ってもらった。アメリカでエマージェンシールームを利用したのはこの時が2度目。その前はまだ渡米してまもない頃、夜中にかなり高熱を出し、どうして良いかわからず連れて行ってはもらったが市販の解熱剤を飲みなさいで帰されてしまった。今回は出血していたので受付して他に待っている人もいたがすぐに中に入れてくれた。手当をしてくれたのはとても優しい看護士さんだった。「私は元々はタイから来たのよ。あなたは?」と私の強ばった顔を見て話しかけてくれた。頭がクリアになるごとに恥ずかしさが増していった。幸い、目と頭には一切異常がなくて良かったのだが傷が深いので外側と内側を縫うわねと言われた途端ズキズキし始めた。局所麻酔の後、結局内側も外側も10針ずつ縫った。今でも感謝しているのはその看護士さんがとても縫うのが早くてうまかった。

その翌日、どうしても出社しなければ行けない理由があって会社に行くと大きな絆創膏姿の私を見て周りがびっくりした。私もワインを飲んでバースツールから落ちたというなかなかありえない出来事を何度も説明するのが恥ずかしかった。そこで私が強調したのは酔っ払って落ちたのではなくナプキンを拾おうとしたことだ。聞いた人はまず「えっ」「わぁっ」と驚いていたが心の中ではおそらく呆れていたと思う。「あんまり飲んじゃダメよ」と言う人もいた。そうじゃないのよ。

その時の上司は女性だったのだがこっそり私を別室に呼んでこう言った。「あなた旦那さんと何かあったの」「本当に今あなたは安全なの?」と真顔で言われた。どうやら夫が暴力をふるったと思われてしまったらしい。暴力どころか私が友達と出かけてお酒を飲んだりする時も快く行かせてくれていたのに可哀想な夫。バースツールからナプキンを拾うおうとして落下した馬鹿な妻。後日、夫には言われた。「覚えておきなさい。お店でナプキンでもフォークでもナイフでも落とした時は自分で拾わなくていいから」

上手に縫ってもらったので傷が腫れることもなく2週間後くらいに抜糸に行った時、この傷ならほとんど目立たなくなるからと言われた。ただあれ以来長い間、私の左眉は半分まばらな空き地になってしまった。でも目と鼻や歯が無事で本当に良かった。赤ワインはしばらく飲まなかったし、お店でもバーカウンターには絶対座らなくなった。カラスのラベルのワインを見ると「あっあの時の」思い出したりもしたが時が経ってすっかり忘れていった。傷がピクッと引きつることも無くなった。

去年、夫の会社で支給されている健康保険を使って新しい眼科に検診に行った。ユニオンスクエアのデパートの中にある綺麗なオフィスでそこで購入できる眼鏡フレームの種類もいろんなブランドがあり豊富だったので張り切って出かけた。ドクターが眼球などの状態をチェックしている時に私に聞いた。「左側の目の端が少し傷ついてるけど昔、事故か何かありましたか?」前にかかっていた眼科ではそんなことを言われたことはなかったのだがハイテクの機械を使うこのドクターにはわかったらしい。バレたか。「あっ えーなんでしょうね。何かあったかな」私はもう15年以上も経ってまたバースツールからナプキンを拾おうとなんて説明しなきゃいけない場面にあうとは思ってもいなかった。傷はほとんど消えたのにまた記憶が蘇った。

バースツール、カウンター席はご安全に!

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