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孤独を愛す。

孤独という概念に対しては、疾うの昔に諦めたはずだった。

気がついた時から、他人のいう”私”は、どうも私の思っている"私"とは違うくて、そこに孤独を感じていた。だけれども、どれほど他人のいう"私"と"私"がちぐはぐなのかなんて、計測するのも面倒で、ついには匙すらも投げてしまった。

そんなちぐはぐでも、呼吸はできるし、ご飯も食べられる。
ちゃんと生きてこられた。

よくわからない孤独もちぐはぐも抱えていたが、それらに向き合うことなく、見て見ぬ振りを続けてきた。だってその方が、呼吸がしやすい。生きるだけなら、よくわからない得体の知れない真っ黒な孤独に足を突っ込む必要性なんてないのだから。

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いつの間にか孤独なんてものには触れられない、遠い場所に来てしまった。そこは私を褒め、求め、認められる空間だった。頑張れば頑張るほど上げる成績だったり、有名な企業に就職だったり、多くの人との体の関係だったり。真っ黒などろどろした怖い"孤独"に向き合わなくとも、私を必要としてくれる人は多かった。

「ありがとう」とお礼を言われた。
「すごいね」と褒められた。
「欲しい」と求められた。

少し、生きやすくなった気がする。もしくは、自分のことが好きになれたような気がする。どういう形でも人から求められるのは気持ちがよくて、私という存在がこの世界にいてよかったと思える。

でも、ふいにずっと昔に心の奥底にしまったはずの”孤独”が顔をだす。"孤独"が顔を出すたびに、他者に貢献し、頑張り、求められることに必死になった。

****

ある日愛しい、大切な人に言われた。
「本当のあなたはいったいどこにいるの?」

きつい言葉ではなかった。だけど初めて"私"という存在を確かめるような質問で静かな衝撃を私に与えた。…私は一体どこにきてしまったんだろう。

心の奥底に追いやってしまった孤独の扉を開いてみる。少しでも足を踏み入れれば、蘇るのは”愛されなかった記憶”。

あの時の友達の視線、
あの時の恋人の態度、
あの時の家族からの言葉。

こんなにも愛されなかった記憶で充満している部屋の扉を、どうして開いてしまったのか、たちまち後悔に襲われる。引き返したい、帰りたい、戻りたい、他人から求められていた快楽で満ちたあの世界に。

それでも湿った暗い"孤独"の部屋に留まれたのは、愛しい人から言われた言葉と本当の愛がほしいと願う自分の素直な気持ちだった。

孤独の部屋にとどまりつつ、傷ついた記憶を一つずつ取り出して、見つめていくには相当の体力を要した。はじめこそ、逃げ出したい気持ちに駆られたが、徐々にそれらが自分の生きた証のように思え、愛おしさを感じてきた。

こんなにも傷ついて、
もう傷つきたくなくて、
言葉の使い方も人との関係の結び方も、傷つかないように変に器用になってしまったけど、よく生きてきたな、と。

その時初めて、他人ではなく、私自身で"私"を尊重でき、愛おしく思え、褒めることができた。やっと"私"に出会うことができた気がする。ここから初めて他人を認め、愛せるような気がした。

「大丈夫、私は自分自身のことを愛せられるし、他人のことも愛せられる。」
大丈夫、とういう言葉を自分自身に使うことがはじめてできた。

ここから本当の意味で人生がはじまるような気がして、なんだか今日は夕陽が愛おしく思えた。

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つじのゆい
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