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【勝手に評伝】高階秀爾さん(美術史家)
高階秀爾さん
2024/10/17逝去
著書「名画を見る眼」が有名ですが、ほかにも現代美術の批評や、新聞の連載もされていました。
わたしの、高階秀爾さんとの出合いは…
朝日新聞社の絵画批評記事〈美の季想〉をたまたま目にして、
なにこの文章力ヤバい記事?!書いてる人は……この、髪型オールバックの謎のおっちゃん?!(失礼)
流麗な文体、豊富な語彙、あふれる教養…この博覧強記ぶりはなんなの?
と思って「高階秀爾」でググったところ、かなりご年配の大物美術史家ということがわかって(浅学無知ですみません)、それ以来、
「あ、きょうの新聞、シュウジ書いてる♡♡」と楽しみに拝読しておりました。(失礼…?)
残念ながら、先日92歳で逝去。
ほどなく放送された追悼番組を視聴したところ、すごくいい話(エピソード)があったので、ここに書き留めておきます。
以下、NHK 日曜美術館「名画は語る 〜美術史家・高階秀爾のメッセージ〜」より。
高階秀爾さんは、国立西洋美術館の館長を8年、大原美術館の館長を21年務めた。
絵っていうのは、描かれた時代、その時代の証人なんですよね。
僕は、美術史家の役割は、
語らない証人、生き証人に語らせるのが役割だと思う。
美術史家・辻惟雄との対談より
1932年、東京生まれ。
1954年、22歳のとき(東京大学大学院在学中)、パリ留学の機会を得る。
「お金は無かったので」試験を受けて、フランス政府給費留学生として渡仏。
真っ先にルーブル美術館へ向かったという。
それまでは写真とか、それから画集なんかで見ていたわけですが。
今みたいにテレビやなんかはない時代です。
画集もまあ、白黒が多いんですが、やっぱり、「あ、この絵だ」と思ったりしたのが、まるで感じが違うんですね。
質感、とくに油絵などだと大きさが全く違い、とにかく「魅せられる」という感じで…その後5年間、ヨーロッパじゅうの名画を見て回った。
帰国後、開館したばかりの国立西洋美術館の主任研究官に就任。
美術館の仕事の傍ら、西洋美術の魅力を広く伝える活動を行う。
そんな高階秀爾さんの最初の西洋画体験は、ルノワールだったという。
これはですね、体験というか…つまりまあ、まだ、パリどころか、大学にも行っていないころ。
電車に乗って、学校に通ってた。その電車の乗り場所の近くに古道具屋さんがあって、電車があるまでちょっとのぞいてみると(略)額縁があって。その中にこれは額縁ですよということを示すために、ルノワールの裸婦、カレンダーかなにかから切り取ったやつを入れてたんです。それを見て、もう周りはきったない古道具ばかりだけど、こんな美しい絵があるというんで、思い切って聞いて。この絵はいくらですか?と言ったら、古道具屋、これは売りもんじゃないんだよ、売り物は額縁のほうなんだ、汚れてた。それで中学生、早々に引き下がっちゃったんです。
で、それ、ルノワール体験ですよね。で、それは多分複製で、しかも質の良くない複製だったと思います。しかし、自分の知らない世界がそこにあるというので、フランスに行きたいなと思ったわけですね。
すごくいい話…!!
戦後間もない時代、汚い古道具屋さんで偶然見たルノワールの複製画に心を掴まれて、、、きっとその絵は実際の何倍も、輝いて見えたことでしょう。語っている高階さんの笑顔、目の輝きが素敵でした♡惚れ直したわ。
いまは何でもインターネットで見られるし、片手でスマホを操作すれば、世界の名画や名所旧跡を見ることができるばかりか、詳しい情報まで得られる。
でも、画集や画像で見るだけでは作品のすべては伝わってこないと思う。色味、質感はどうしても違ってしまうし、彫刻などの立体作品となると特に、大きさや重さも感じられないし。
迷ってたけど、いま名古屋でやってるクレー展、やっぱり見に行こう…と決意しました。
最後に、
経歴を拝見しても完璧な美術史エリートである高階秀爾さんですが、映像では終始、優しい柔らかい語り口で、偉ぶらないお人柄が感じられました。一般人からの「どのようにしたら審美眼が持てるのでしょうか?」みたいな質問にも、上から目線にならず丁寧に答えられていて素敵でした!
素晴らしいご著書や記事を遺してくださってありがとうございます。
御冥福をお祈りします。