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恨む、サンサン

台風10号に振り回された数日間だった。

職場の外線が一列埋まったのを久々に見た。
そんな時にかかってくる営業電話にイラッとして「いま本当に立て込んでて……!」と言って切らせてもらった。(台風の最中営業しない方がいいってば!)
わたしの職場はビジネスホテルで、夏休みも終わりがけとはいえビジネスも観光も、様々な目的で宿泊の方が来る。交通機関が麻痺すると一気にキャンセルの電話が鳴り響くわけだ。逆に、帰る手段が封じられた人の宿泊の電話も来る。300室規模のホテルで前日の夕方からプラス100人宿泊が増えていたりする。意味わからんよ。

「いたしかたない理由ですので、今回はこちらより無料キャンセルをさせていただきます。また機会がありましたらご予約お待ちしていますね」

と言ってキャンセルを承る。
いたしかたない、で何度か噛んで、電話口のお客様を和ませてしまった。

わたし自身も今回予定があった。
幕張のホテルで推しキャラコラボのイベント。
8月31日は最終日だった。

珍しく、土日に連休希望を出した。いつもは月末に諸々仕事を任されがちだけど、今回は押し切った。
後輩に月末の仕事を引き継いで、どんな悪天候だろうと行こうと決めていた。
前日の30日の正午、もしかして新幹線やばくない?と思い、夜行バスの予約を取った。その夜行バスの運休は、運行数時間前の31日の夕方に決まった。

新幹線、夜行バス、在来線。
名古屋から東京方面に行くには大体静岡を通過するから、静岡に線状降水帯があるともう本当にどうしようもない。
長野経由の在来線もだいぶ遅れて運行していた。
大阪まで行ってから飛行機で行った方がいいのか?とも考えた。
それくらい、今回は行きたかったイベントだった。

夜行バスの運休が決まり、長野経由の在来線でやっといけるかどうか、悩みつつ、幕張のホテルに電話をかけた。前日キャンセルならキャンセルポリシーが80%くらいかなと思った。
「わたし名古屋なんです。新幹線も在来線も、夜行バスも止まってて、長野経由をいま調べているんですが…」
そこまで話して、なんだか泣きそうになっていた。自分が数時間前まで受けていたキャンセルの電話を思い出した。そこまで言わなくてもいいのに、とすら思って受けていた。鳴り響く電話、溜まっていく外線のボタンを見ていたら、次の電話に出なきゃと焦って、受けてる電話はキャンセルすることだけ分かればよかったから。
そのホテルのスタッフさんは優しくて、「そうですよね、最終日ですからお客様もキャンセルしたくないですよね」と言ってくれた。一縷の望みをかけて翌日の新幹線を待とうとも。台風はむしろ近づいてきているからダメかもしれない、というかダメだろう。でも待ってくれると言ってくれた、縋る思いだった。

翌日の31日。
新幹線もバスも在来線もやっぱり終日運休だったし、長野経由の在来線も運行してるものの、ずいぶん遅れていた。台風が近づいていることがなにより怖かった。休みを取ったのは31日と翌日の9月1日だった。運が良くて東京方面に行けたものの、その後帰れなかったらと思うとわたしに行く勇気はなかった。
東京に住んでる友達にも謝って、ホテルに電話が繋がる時間を待ってかけた。
昨日と同じスタッフさんが対応してくれた。
「…そうですか、もしかしたらと思ったんですけどね……そちらは雨はやっぱりひどいんですか?」
唐突な世間話のようなトーンに、電話越しながら首を傾げてしまった。
「いやそうでもなくて…だから余計悔しくて」
きっと同じような電話が鳴ってるだろうに、こんなわたしに長々と対応してくれることにびっくりして、わたしは同じくホテリエとしてこんな対応昨日も一昨日もできてなかったかもと情けなくなって、一連の出来事が素直に悲しいと思えてきて、話しながら泣いてしまった。

「今回のコラボは今日で最終日ですが、私どもも今後またコラボができるように頑張ってまいりますので、だから、必ず、必ずその時はきてくださいね。今回はこういった事情ですので、無料でキャンセルを承ります。またのご予約をお待ちしております」

これがホスピタリティなんだと思う。
もちろん、ビジホと一流ホテルを比べたらダメだけど、それでも。

9月1日の昼間、あんだけ騒がせてた台風10号、通称サンサンは熱帯低気圧になった。
夜、新幹線は動き出していた。優秀だよ、日本の交通網は。わたしはむしろ、動かないでいて欲しかったよ。悔しいから。わたしが悔しいから。

行けたじゃん。

そう思うのがいちばん辛いから。


悔しくて悔しくて、この土日ずっとふて寝して、ポテチをごはんにしたりしてた。(悪ぶるレベル低いな)

でもね、イベント行けた人を恨んだり、新幹線乗れた人を恨んでも仕方ないからね。

ただ、同じミスはしない。
次、絶対行きたいイベントがあったらなるべく早く予定組んでリスケできるようにする。
次に活かす。徳を積む。

サンサンが消滅して、次の台風11号がフィリピンの東に発生した。名前はヤギらしい。なんでだよ。