国内FA制度の危険性を考える
NPBには現在、FA権取得の1年前に移籍先をNPB12球団に限定した「国内FA権」を取得できる制度が存在しています。今回は、できるだけ早期に移籍の自由を獲得し、市場価値での契約の実現を求める選手側と、有力選手の海外流出を避けたいNPB12球団との妥協点として導入されたこのシステムが持つ「危険性」について、ぼくの見解を説明したいと思います。
国内FA権を使ってメジャーへ?
上は今季途中に国内FA権を取得した、オリックスの西勇輝投手の動向に関する報道です。海外球団への移籍の自由を得るにはもう1年NPBでプレーする必要がありますから、西投手が今オフMLBに挑戦するためには、所属球団の同意が必要なポスティングシステムでの移籍を目指すことになります。
裏を返せば、西投手はオリックスがポスティングシステムの利用を容認さえすれば、FAでの移籍先を国内に限定されながら、日米両方の球団と交渉のテーブルに着くことが可能な状態にあるわけです。オリックスないしNPBとしては、この「球団が容認すれば」という注釈が重要で、許可さえしなければひとまずそのオフ中に海外移籍されることは防げますし、西投手としてももう1年プレーすればこうした制限なしに海外移籍を検討できるので、あえて今季FA宣言をしてMLB挑戦の夢を断ってしまいたくはないはずです。そうすれば、オリックスは国内FAすらされずに西投手を残留させることができますから、この制度の「抑止力」は大きいと考えられていました。
1年後のMLB挑戦の保障を担保に、今オフの残留を確実なものにする。これをひっくり返した選手が、西投手が所属するオリックスにいました。2014年の金子千尋投手です。
金子投手は今オフの西投手と同じく、国内FA権のみを保有する状態でこの年のオフを迎えました。MLB志向のあった金子投手は、ここで国内FA権の行使を宣言します。この記事にもあるように、国内他球団への移籍の可能性を表明することで、所属球団に「ライバルチームに移籍されるか、ポスティングでのMLB移籍を容認するか」という選択を(本人にその意図があったかどうかには関係なく)突きつけたわけです。
最終的には宣言を受けてオリックスが大型契約を提示したこともあってか、金子投手はポスティングシステムを利用することもなく、宣言残留の形でチームに残りました。西投手は今オフ、金子投手と全く同じ条件にありますから、その気になれば(もっと明示的に)この「国内移籍の可能性を盾にポスティングシステムの利用を求める」交渉戦略を活用することができるわけです。
NPBの「報復」
ところが、この手法には穴があります。これこそがぼくの考える、国内FA制度の危険性です。
金子投手の件は前項で述べた通り、FA宣言を受けて国内の複数球団が獲得に動き、最終的にはオリックスに残留する形で幕を閉じました。しかし、仮にこのタイミングで手を挙げる球団がなかったとしたらどうでしょうか?国内FA権はNPB以外の球団との契約を認めていません。NPB球団と話がまとまらないから渡米する、ということを認めてしまうと、それこそ国内FA制度の抜け道になりますから、それを認めることはないでしょう。
もしNPB12球団が結託して、金子投手の獲得をしない、という合意を内密に作れば、金子投手は行き場を失い、最終的には元の所属球団(この場合はオリックス)と、その市場価値には到底見合わない額での契約を強いられていたかも知れません。もし契約を拒めば、MLB挑戦を考えるほどの有力選手が、志半ばで選手生命を絶たれてしまう可能性さえあるのです。
これは12球団のうち、どこか一つの球団が裏切れば成立しない戦略ですから「そんなことが起こるはずがない」と考えることもできるでしょう。しかし、こうした報復措置をとることで、今後自球団のスター選手が同じような形でポスティング移籍を企てることを避けられるとなれば、ぼくは全く起こりえない話ではないと考えています。これが、国内移籍と海外移籍との間に制度的な差異を設けることの重大な問題点であり、危険性であるというのが今回の結論です。
危険な制度的不備の迅速な改善を
選手個人は与えられた制度の中で自らの効用を最大化する戦略を取りますし、球団側としては、自球団を守るために最善の策を講じるのが当然ですから、登場人物の行動に悪意を見出し「紳士協定」による自制を求めるのは合理的ではないと思います。
西投手についてはそもそもまだ本当に今オフのポスティングによるMLB挑戦を志望しているのか定かではありませんし、仮にそうであったとしてもオリックスの側がどのような対応を取るのか分かりませんから、皆さんの目には少々先走った書き方をしているように映るかも知れません。しかし、制度として、本稿で紹介したような悲劇を招きうる、ということは危機感を持って見つめられるべきだと思います。本当に事が起こってしまう前に、こうした制度的な不備の見直しをすべきである、という主張をもって、本稿を閉じたいと思います。
FA制度、移籍制度については選手会からも資料が出ているので、こちらも参考にしていただければ。
よければ今後も読んで頂けると幸いです...。