レート(ギャンブル依存症と私 その6)
「断ギャンブルのために趣味を持ちなさい」とは言うが、先に持つべきは友人であり交友だ。趣味の殆どは誘われた結果、始めるものだから。
この言葉は、ボクがSAGSのメンバーさんたちに書いているメルマガの一節である。本当のところ、人は殆どの趣味や娯楽を他人から教わる。それは何も良いことばかりでは無い。悪いことだって同じだ。
だが大人なら、自分がやったらどうなるか分かっていれば、例え誘われてもやらないのが当たり前だ。ここで誘いを言い訳にする癖が有ると、ことはややこしくなる。もしもそれが違法なら、尚更のことだろう。
付き合いだといういい訳で賭博に手を染めるのなら、あなたは一生を棒に振る覚悟が必要だ。同時に、「少しくらいなら良いだろう」と考えるのは言い訳ではなく堕落である。
スリップの引き金になるのは、たいていの場合は余分なお金である。だが、そのトリガーを引くのは誘惑と堕落であることが多い。
レート
社長がレートについて話し始めた。「ウチは、祝儀無しの点1だべ。」
ちゃんとしたレートは敢えて書かないことにする。賭けマージャンは違法賭博である。 挑発的であり刺激的な表現はできる限り避けたい。
ウラドラや一発などの祝儀は無いものの、超高額レートだった。それまでにボクが仲間内で打っていたルールは、せいぜい千点100円の祝儀付くらいのもの。それでも一晩に10万円くらい動くことはザラにあった。
これは余談だが、ボクが保険会社に入社した頃も、銀行マンや保険会社の社員のルールとレートはたいていこれぐらいのもんだった。
少し前に某SNSで「賭け麻雀くらいで…」と書いて、ディスられっ放しになっていた人を見かけたが、当時は賭けゴルフや賭け麻雀くらいで眉をひそめる人など居なかったのである。
吐き気
あの時ボクは気分が悪くなったことを覚えている。札束渡されて、気が重くなったどころではない。吐き気さえし始めたのである。
帯の付いたピン札2束を全て溶かしてしまったらと考えると、やはり断って帰ろうかとも思った。その時、ボクの心中を察したのか、社長がひとこと言った。
「それを札束だと思ったら、負けるっぺ! 紙切れだと思えばいがっぺな。ケチで未練のある金は、全部負けて吸い取られるっぺ!」
このひとことで、ボクはかなり気が楽になったことを思い出す。
しかもその勝負は半チャン5回(だったように覚えている)と回数が決まっていた。「半チャン5回全てハコを喰らうこともあるまい」、そう考えると今度は不思議なもので少し気が大きくなった。
「どうせ、負けても先方払いじゃないか!」
「しかも勝てば、その分ボクの儲けになる。」
愚かにもその時のボクは、札束を眺めながらそんなことを考え始めていた。
専用室
それから社長は、どこかへ電話をし始めた。1件目はすし屋に出前の電話だ。次に電話したのは今考えれば、愛人さんにやらせていたスナックかクラブだったんだろう。
「ママ! 今日は女の子何人来るの?」と社長はかけあい、「じゃ、4人な」と言って電話を切った。何のための電話か、当時のボクは知るよしも無かった。
程なくしてメンバーが集まった。ボクはその一人一人に丁寧に挨拶した。社長が彼らにボクを紹介した。
「ウチの取引先の●●●のタカビー君だっぺ! 今日メンバーに入ってもらうことになった。よろしく頼むっぺ。」
メンバーの詳細は今となっては全く憶えていないが、みんな紳士だったように記憶している。
10畳ほどの社長宅の別室に通され驚いた。そこが完全にマージャン用の部屋になっていたからだ。全自動のマージャン卓は当時雀荘でも、まだそう普及してはいなかったように思う。それが、その部屋のど真ん中に鎮座していた。
その広い地下室の真ん中に置かれたジャン卓の上で、社長が見るからに高価そうな牌(パイ)を客人に広げて見せた。
「これでやれば心地は良いんだが、全自動では使えねぇっぺ!」 おそらく象牙の牌だったのだろう。社長はそう言いながら、新しい練り牌(ネリパイ)を出し機械にセットした。
こうしてボクはその部屋で、かつて聞いたことも無いような高額レートのマージャンを経験することになった。
しかしながらそこでボクが驚いたのは、それだけではなかった。(続く)
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