8時10分
"8時10分"。
息子が1番最初に覚えた時間である。
「今何時?」
「"はちじ、じゅっぷん"!」
10時に聞いても、12時に聞いても、いつでも同じ時間を元気に答える。
3月末に11年働き続けた会社を退職した。
朝、家を出発する時間が
"8時10分"。
夜、息子を保育園に迎えに行き、ごはんを食べて、お風呂に入って、ひと段落ついてから夫に電話をかける。
「今日は何時頃帰る?先に寝てた方が良い?」
「今何時だっけ?」
「えっとね‥"20時10分"。」
こんな日々が、育休復帰をしてから1年ちょっと続いた。
会社を辞めてからと言うもの、私の心は誰かに撫でられたように凪いでいる。
仕事の後辛くなって、泣いたりする事もない。
家事に仕事に毎日頑張ってくれる夫に当たってしまう事もない。
自分でも驚く程に波は立たない。
でも、「"はちじ、じゅっぷん"!」を聞くと、ふわっ。と風が吹いたように景色が変わる。
初めて保育園に預けた時の息子の泣き顔、
朝の通勤の景色や匂い、
保育園にお迎えに行った時の息子の笑顔、
会社帰りの車から見えるイルミネーション、
色んな"8時10分"が鮮明に蘇る。
息子の言葉にはパワーがあるのだ。
2020年4月20日の朝、"8時10分"。
保育園が登園自粛になった息子も、
ここ一ヶ月ほど在宅勤務になった夫も、
まだ隣で寝息を立てている。
随分遅い朝である。
10年後の"8時10分"はどんな時間が流れているだろうか。
「ほら、早くしないと学校に遅れちゃうよ!」
「わかってるよ、お母さん。」
「じゃあ、俺も行ってくるね。」
「気をつけてね、行ってらっしゃい。」
さて、私も仕事をしよう。
そんな緩やかで平和な日常が来て欲しい。
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