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過酷未来のマナー講師-皆殺し編-《エピローグ:No More Manners》

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2728年、都市国家大阪は滅んだ。

一夜にして滅んだ地の残骸を少しでも奪おうと、各都市国家群は即座に動き始めた。

焼け野原になった阪神平野、かつて大阪の占領地区であった尼崎周辺を、装甲服に身を包んだ歩兵達が歩く。《大都会岡山》の軍隊だ。

突如、巨大な青白いビームが歩兵達を薙ぎ払い、吹き飛ばす。

『こちら第816懲罰大隊07中隊14小隊22分隊、現在攻撃を受けている。至急援軍くれy-』

応援を呼ぶ無線は、またもやビームにかき消される。後にはカチンコチンに凍った兵士の死体だけが残った。

おお、見よ。対核対ビームマント『ナマヤツハシ』を翻す鋼鉄の巨影を。《京都オイデヤス・オコシヤス主義人民共和国》の京都人型巨大機動兵器『ライコー』だ。絶対零度を超えたマイナス794億度の冷凍光線『ブブヅケ・ビーム』が、無差別に兵士達を薙ぎ払い続けた。

突如、空中に威圧的な公家の姿のホログラムが映し出される。

『えらい立派な軍隊どすなあ。こっちの獲物に手を出すとか、やっぱりオカヤマとかいう田舎の人らはええ度胸してはりますわ』

《京都オ(略)ス主義人民共和国》の冷酷な将軍、イチジョー・サンミの嫌味が戦場に響き渡る。だが、その嫌味も『ライコー』の肩に飛来した『エビフリャー・ミサイル』の爆発によって遮られた。

『おみゃーさんは《神聖名古屋トヨタ聖龍帝国》の正当な権利を侵害しているだぎゃ。至急退去されたしだみゃー。でないともう一発撃つでよ』

気が付けば、大阪湾には無数の艦隊が浮かんでいた。ネオ・カンバン・システムにより統治される都市国家《神聖名古屋トヨタ聖龍帝国》第八機動艦隊だ。

『だまりゃ!麿は恐れ多くも帝より三位の位を賜わり中納言を務めた身じゃ!その麿の勢力圏内で狼藉を働くとは言語道断!この事、直ちに麿自ら撃滅して貴様らの首を帝に進上する故、心しておじゃれ!』

『ライコー』の反重力完成制御システムが唸りをあげて、第八機動艦隊に向かって突っ込んでいった。無数の閃光と爆発が地を染めた。

誰一人生存者のいない都市国家大阪の跡地で、三つ巴の戦いが始まった。人は、いつまでも戦いをやめられないのだ。

目が、覚めた。

ここは、どこだ。

目の前には海が広がっている。

明け方のようだ。

身体はずいぶん痛む。しかし生命に異常はない。

俺は確かに海に投げ出されたはずだ。そして死んだはず。

ということはここがジゴクか。思っていたよりも綺麗なところだ。

足元や尻の下は砂が広がっている。どうやら砂浜らしい。

頭の下は何か柔らかい。

まるで人の膝のようだが、温かさを感じない。ゴムのような感触だ。

ふと、上を見ると、懐かしい顔を見つけた。

いや、懐かしい顔というか、死相というか。

それはワコだった。

かつて暴徒に殺され、ドクター梅田の手によって科学的ゾンビーにされてあの中央庁舎のホールで戦ったワコ・モリヤマだ。一糸まとわぬ生まれたままの姿で、つぎはぎだらけで変色した肌の変異した姿のワコが、俺を膝枕していた。

「オキタ……シュニン、オキタ……」

ワコは表情を変えず、こちらを見て、涙だけを流しながら声をあげる。

「ワコ、お前か。お前が俺を助けたのか……」

「ウミノナカ、ホウリダサレタ。ゾンビー、ホウシャセン、バクハツ、デキシ、モンダイナイ。ウミノナカ、シュニン、ミツケタ。マダイキテイタ。ウレシイ。オヨイデ、ムカイギシノ、シマニ、ツレテキタ。ウレシイ」

片言の言葉を聞いて、俺の頬にも再び涙が流れてきた。何も考えがまとまらない。真っ白に染まった俺の髪を、ワコは優しく撫でた。

「シュニン、カゾク。シュニン、ダイジ。ウレシイ、ウレシイ」

居なくなったはずのワコの声だけが、いつまでも響いていた。

《報告書》

《送信先:神聖名古屋トヨタ聖龍帝国軍旧大阪駐留GHQ》

《発信元:神聖名古屋トヨタ聖龍帝国軍淡路島駐留大隊》

《送信日時:2758年2月28日02:05:32》

昨日の「不死者」との戦闘で当部隊はほぼ壊滅した。

「不死者」について分かったことを伝える。

1・「不死者」はほぼ全てが人間に近い同一遺伝子で構成された人型個体群であること

2・「不死者」は銃弾や爆弾などの現代兵器(放射線すら!)がほぼ無効であること

3・「不死者」はおよそ1万近い歩兵で構成され、彼らに殺された兵士は「不死者」として復活すること

4・「不死者」は「死者を母に持つ死者の部族」を名乗り、「死の救済性」「死の遍在性」「速やかに死を受け入れることが不文律(マナー)」という原理に基づいて神聖名古屋トヨタ聖龍帝国他、あらゆる都市国家の領有権を主張していること

これより我ら残存部隊は岩屋に兵力を結集し、明石大橋爆破工作、およびその時間稼ぎのための戦闘を開始する。神聖名古屋トヨタ聖龍帝国軍に栄光あれ、燃えよ中日龍軍(Central Japan Dragons Army)。

【おわり】