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トラックに跳ねられた全裸中年男性が女神さまによって常時透明人間化のチートスキルを得て異世界転生して世界を救ったった!

【注意】この冒険者パーティーの背後には、異世界転生時に女神さまによって与えられたチートスキルによって常時透明人間になった全裸中年男性が無言でついてきています。苦手な方はご注意ください。

絶海の孤島にして険しい岩山に囲まれた魔王城の奥深くで、二人の冒険者は最後の準備をしていた。いわゆるラスボス前のセーブポイントである。一人は栗色の髪が美しいルーン文字によって強化された古のローブを羽織る魔法使いの少女イセカ、そして魔法の軽鎧を着用し祝福され鍛え抜かれたミスリル銀の聖剣を愛用する精悍な剣士の青年テンセイである。

「いよいよ、魔王戦だね」

「君のお父さんの仇を、ようやくとれるかもしれない。いや、絶対に取ろう」

「うん、その為にここまで来たんだものね!」

「ああ、そうだ」

テンセイの旅の始まりは、街で遺失物を探していたイセカとの出逢いであった。そしてイセカの父が魔王に挑み敗れたことを知り、敵討ちに協力し、魔王の四天王を倒し、ここまでやってきた。最初は駆け出しだった二人も、いまや伝説に残ってもおかしくない英雄になった。

「大丈夫だよ。テンセイもいるし、それにお父さんはずっと見守ってくれてるから」

イセカはにこりとしながら答える。

「お風呂で優しいお父さんを思い出してしんみりしてるとね、どこかからお父さんのやさしい視線を受けたような気がしてたの。夜、なかなか眠れないときは、寝室にお父さんがいたような気配がずっと感じられたの。きっと、今でも、今も、天から見守ってくれているんだわ」

「ああ、君の父上は……立派な勇者だったからな……見守っていてくれたに違いないさ」

二人の間に、しんみりした空気が流れる。今まで旅してきた思い出にしばし、ひたる。しかし、今はいつまでも思いを巡らせてばかりもいられない。魔王を討つという目的を達成しなければならないからだ。

「行こう、イセカ。魔王を倒し、この度の締めくくりとしよう」

「うん! そうだね! あ、まって。最後にリップクリームだけ、塗らせてね。魔法を詠唱すると意外と唇が渇いちゃって」

イセカは鞄をゴソゴソと探る。

「あれ?あれれ?リップクリーム、無いや。どこかに落としちゃったのかな?」

「やれやれ。君は出逢った頃から、いつでもすぐ物を無くすね」

二人は顔を見合わせて、軽く笑い声をあげた。

神聖魔法の加護を受けたテンセイは、既に英雄という枠すらはみだし、一時的に神の域にまで達した速度と威力を兼ね備えた刃で、魔王の横腹を斬り裂いた。

「ぐわぁ!」

「まだまだっ! これからだぞ魔王!」

瞬時に床を蹴り、もう一度魔王に剣を向ける。(2回行動)

「テンセイ、補助魔法行くよ」

杖の先で女神のルーンを描いたイセカはテンセイの剣に向けて光り輝く魔力を生み出し始めた。

「応!」

『女神よ、どうか我が友の刃に力を』

奔流となった魔力はテンセイの剣に宿り、聖剣はさらにその輝きを増す。それと同時に、既に空中へ跳び上がっていたテンセイは剣を魔王に向けて、全力で肩から斬り裂いた。漆黒の血と、どす黒い魔力が漏れ、魔王は僅かにふらついた。

「クッ、ぬかったわ……」

「俺とイセカは無敵なんだよ。諦めて暗黒に帰りな!」

「ククク、ではこちらも奥の手を出させてもらおう……どうやらお前達は良い仲のようだ……ならば私からも餞の一つでも送らねば無粋というもの」

「テンセイ、気を付けて!」

魔王は、中空に掌をかざし、瞬時に赤黒い光で描かれた複雑な三重魔方陣を出現させた。魔方陣には失われた筈の『古き時代のルーン』によって、禍々しい呪文が描かれている。

「遺失魔法『ダ・レカシヌ』をな!!!」(HP10%以下で取る行動)

「な、なにぃ? 『ダ・レカシヌ』だと?」

「う、嘘……あまりの凶悪さのために神々によって地獄の底に封印された遺失魔法『ダ・レカシヌ』を……魔王が……そんな……」

ダ・レカシヌ 系統:遺失魔法 消費MP:全部 敵対する陣営のキャラクターのうちランダムな1名に『復活できない死(ロスト)』を与える。この魔法は必ず命中し、効果はあらゆる方法で無効化することが出来ない。

魔王は勝ち誇ったように高笑いをする。イセカの顔から急激に血の気が引いた。

「フハハハハハ!!! さあ、勇者か女か、どちらになるかは我にもわからぬが、二度とは会えぬ死を受けるがよい!」

「く、そ、そんな……ここでどちらかが死ぬなんて……そんな……イセカ、逃げろ!ここは俺が!」

「ダメ……間に合わない……それにテンセイを死なせたくない!せめて私に照準を定めて!」

「死ねい!!! 『ダ・レカシヌ』!!!」

魔方陣から暗黒の光が収束し、イセカとテンセイの方向に向かって、でたらめな方向に無数の光が放たれ、全てを破壊するエネルギーへと収束し、そして巨大な爆発が起こった。

「ウィヒ? ギョワアアアアアアアア!!!!!!」

誰かの悲鳴。

そして爆風の霧が晴れた。

そこには未だ健在のイセカとテンセイ、そして二人の背後の床に空いた巨大な焼け焦げた穴だけが残っていた。

「ば、馬鹿な!ダ・レカシヌが不発だと……こんな筈は」

「今よ、テンセイ!」

「ああ、これで決める!うおおおおおお!」

聖剣を一文字に構え、テンセイは今度こそ、魔王を一刀両断する。

「ぐ、グワアアアアアアアアア…………」

魔王の断末魔が響き、全ては終わった。

「やった……やったよお父さん……ありがとう、テンセイ……」

イセカはようやく、あの頃、父と一緒にいた頃のような、心からの笑顔を見せた。

揺れながら崩壊する階段を、イセカとテンセイは駆けのぼり続けた。

「イセカ! 魔王の魔力が消えて崩壊が早まってる。急げ、あとちょっとで地上だ!」

「ええ! もう大丈夫そうだけど、テンセイも油断しないで! ところでテンセイ。走りながらでいいんだけど、貴方はこれからどうするの?」

「考えてねえ! とりあえず地上に出てから二人で話し合おう!」

間も無く、二人の目の前に、地上へと続く扉の光が見えた。

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全ては終わった。

魔王は魂を魔界へと、再び叩き落された。

城が激しく揺れ始めた。

イセカとテンセイは、近くの草原に寝ころび、くずれゆく魔王城を眺めていた。

崩壊を続ける魔王の玉座に、どこからか光がゆっくりと集まってくる。その光は、あのダ・レカシヌによって空いた穴の傍に集まり、やがて美しい女神の姿を取った。

それと同時に、穴の底に、砕けて、四肢と首が飛び散った無惨な姿となった全裸中年男性の遺体が透明化の力を失い、その姿を現した。

崩壊を続ける魔王の玉座で、女神は静かに語りかける。

「お久しぶりです。シブヤのハロウィンに妖怪全裸の仮装をして乱入し、トラックにはねられた貴方の魂を拾い、チート能力をひとつ与え、この世界に転生させた女神です」

女神が声をかけると、遺体から魂が静かに浮かび上がってきた。

『ウィヒッ!』

「あなたに私は約束しました。貴方をイケメン英雄や悪役令嬢には転生させられませんが、一つ任意の能力を与え、世界のために何かを為せば、貴方が本当に望むものに転生させると」

『ウィヒヒヒッ!』

魂は奇妙な声をあげる。

「そして貴方は透明化の力を選びました。視覚や嗅覚では貴方は確認されることは絶対にない力、遺失魔法のような特殊な方法でなければ魔力による探知も不可能な能力を得ました。ただ、犯罪に使われる可能性があるので、生命体には接触できないという制約を課しましたが」

『ウィヒヒヒッ!ヒッヒー!!!』

「そして見事に世界のために成し遂げました。敵対陣営の誰かが必ず死ぬ遺失魔法から貴方はイセカとテンセイの仲間と判断された。無作為なる絶対の死の魔法から、二人の若人を護り、その身を散らしました」

『ウィヒッ! ウィヒヒヒッ!!!』

「ええ、貴方は約束通り、世界を救いました。偶然かもしれませんが、それは私も認めましょう。おめでとう」

『ウィヒッヒッ! ヒッヒヒ!!!』

喜びと達成感から、魂だけでなく、ちぎれてはじけ飛んだ全裸中年男性の怒張した陰茎も宙に浮かび始めた。

しかし、ここで突如女神の顔が悪鬼の如き顔になる。

「ですが!!!」

恐ろしい声を女神は出す。

「貴方がずっと、イセカのお風呂や便所使用を覗き、下着や水着や魔法のビキニや使用済み生理用品を盗んだこともしっかり見ていましたよ!!!」

『ヒッ!?!?』

魂が恐怖を感じたように、バチバチとスパークを出し、赤い色に光る。空を飛ぶ魔羅は地面に落ち、びくびくと痙攣しながらしぼんでいった。

「ギルティ! ギルティ! ギルティ&ギルティ!!! 気持ち悪い!個人的に、生理的に受け付けません! 約束を破棄して、私は貴方を無間地獄(刑期一兆年以上)に落としたいと思います!!! 文句はありませんね?」

『ヒッ!!!ヒ~~~~!!!』

床にどこまでも続く光の無い漆黒の穴が開き、魂は悲鳴を上げながら、吸い込まれていった。それが済むと、女神は静かに元の表情に戻り、光に分解して、天に昇って行った。それが終わると、魔王城の天井は崩れ、地の底深くへ沈んでいった。