逆噴射小説大賞2020ライナーノート
普段は鳥の声しか聞こえない静穏な南米風の教会裏手で銃声が響き渡る。
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
2人の傭兵達が、ぬかるんだ泥の地面を蹴って走る。
「あの女は何処に行った?」
「わからん。だがそう遠くにはいってないだろう」
その瞬間、ナイフの握られた白い手がジャングルの茂みの中から現れ、傭兵の首元にその刃を突き立てる。
「な、い?」パスッッ!
もう一人の傭兵が反応しようと動く瞬間に、もう片方の手に握られていたサイレンサー付拳銃から発射された.357が男の眉間を打ち抜いた。
「よし……なんとしてでもあの男の野望を止めないと!」
平然と女は傭兵の持っていたアサルトライフルと手榴弾を頂戴し、死体を茂みに隠すと、目立たぬように顔に泥を塗りながら教会裏手から『神の山』へと向かう道へ駆けだした。見上げれば、山頂からは灰と溶岩と噴煙が溢れていた。もうあまり時間がない……
ライナーノート
と、いうようなパルプ小説の出だし800文字で争う第三回逆噴射小説大賞2020に応募してみました。初めてこういったものを書くのですが、大変難しく、しかし楽しく、また幾つかの重要な学びを得て、三作も投稿することができたので、ここに記しておこうと思います。
1作目『グレート・パシフィスト』
〇あらすじ…昭和2680年、壁によって上級市民が済む都内と下町情緒の続く二級市民が済む周辺部に分断された東京を舞台に、一人のイレギュラーな仕事をする男が駆け回る。下町に潜み、力が暗躍する街で、その男は決して『殺しをしない』という信条を持った仕事屋だった。
△コメント…初作品。ともかく字数に苦しんだ作品。というかこの内容を描くのであれば2000字は必要であるとよくわかった。書きたかったことが十分に描けていない。または書き過ぎた。設定を書き過ぎだが、下町での暮らしはどうしても書きたかった。例えば「殺しを平気でするイレギュラービジネスの世界と殺しをしないがイレギュラービジネスに従事する主人公」という対比は最低限書かないとわからない。とはいえ、800字という縛りは大変厳しいという収穫を得られた。ともかく実際に書いてみることはとても大事。楽しかった。
2作目『帰ってきたトラトアニ』
〇あらすじ…マフィアによる暴力が蔓延るメキシコに、一人の戦士が舞い戻る。滅んだアステカ帝国最後の皇帝(トラトアニ)であり、冥府から蘇った戦士モクテスマ二世!棍棒を片手にマフィアを殴る!そしてアステカ帝国再建を目指し、アステカ国民(メキシコ人)のために戦う!そしてアメリカとも戦う!生贄ももちろん捧げる!
△コメント…今度は描きたい事を概ね描けたのではないかと思う。メキシコ、理不尽な暴力、野蛮だが気高いアステカ皇帝の転生!また字数的な部分もかなり圧縮しつつ、メキシコっぽい雰囲気と偉大な王を出すことができたのはよかった。ただ問題点は「引き」である。3行に年表のような形で今後を書いているだけではやはり引きとしては弱い。十分な引きを入れるには字数が足りない(または大きく構成を変えるしかない)。悩ましい。とはいえ、書いていて実に楽しかった!
3作目『燃えよ破局噴火拳-活火山摩俱魔寺拳法秘史-』
〇あらすじ…中国の山奥、火山の地下深くで拳法の修練に励む寺院があった。その名も活火山摩俱魔寺、溶岩の上で修練に励む!落ちたら死ぬ!落ちなくても熱に耐えなければ死ぬ!入門者の煌は、高僧達の見守る中、溶岩の上のロープで戦う修行に挑むのだった。
△コメント…徹底して『シリアスな笑い』を狙って書いた作品。中国らしさと火山らしさをメインに練り込み、話自体は王道展開に持ち込めた。この点ではほぼ満足。いずれ大量絶滅を引き起こすがゆえに禁じられた破局噴火拳なども出していける先の話も思いつきそう。とはいえやはり「引き」が弱い。次の文字を読ませようとする800文字を描くことのなんと難しい事か。でも楽しかった。
総評・来年に向けて
ともかく楽しかった。
そしてとても難しかった。
それでも凄く楽しかった。
また、このお望月さん氏のつぶやきは非常に重要でありました。自分の場合、大賞はほぼ度外視して、1/3を出力欲、残る2/3をチヤホヤ欲だったように思えます。で、あるなら今回の小説大賞は楽しかったけど、もっとたくさんの人に見て欲しい・コメントももっと欲しいという分ではまだまだ改善の余地があるというか、全然足りないだったと思います。その辺りも工夫の余地があるように感じました。というか来年はもう少し工夫して「意地でも読ませてやる」という意気でやってみようと思います。
おっと、そうだ。最後に大事な事を。来年も絶対に参加するゾ!