燃えよ破局噴火拳-活火山摩俱魔寺拳法秘史-

修行洞は尋常ではない熱気に包まれていた。足元には灼熱しうねる溶岩が煮えたぎっており、二つの仁王像の間に鋼で出来た太さ一寸程の索のみが足場としてあった。

蜀の地に聳える峨眉山は古の時代、大量絶滅を引き起こした巨大火山であった。この麓に山門を、地下深くに本堂を構える活火山摩俱魔寺(かつかざんまぐまじ)は古の時代、火の女神祝融から授けられたと伝わる炎の拳を伝える伽藍である。その最奥部、溶岩湖に設けられた場所がこの選別のための修行洞だ。

武僧入門者である煌(フアン)は呼吸を整える。この灼熱の洞では有毒ガスを打ち消す脱硫呼法と熱に耐える発汗術という二つの基礎技術を完璧に出来ねば死あるのみ。その上、索上で均衡を取り、戦わねばならぬ。

煌と対戦相手の武僧、向かい合う両者は包拳礼を交わす。数分後にはどちらかが勝ち、もう片方は溶岩に沈む。

「初め!」

監督僧の声と同時に、対戦相手は煌に猛撃を加える。まるで熱も索も無いかのように変幻自在な見事な攻撃である。煌は冷静に受け、衝撃を殺す。

防戦一方の煌を見て高僧らは負けを確信するが、大僧正だけは首を振り、小さく呟いた。

「あやつ、曼都流(マントル)の悟りを既に得ておるのか……」

曼都流。

それは摩俱魔寺拳法における究極の境地、地の底で滾る龍脈の如き炎のように、時に降下し、時に激しく上昇する気を表すものだ。

「噴!」

一瞬の隙をつき、対戦相手に掌底を返す。衝撃と気功は圧力及び熱へと昇華し、僅かな岩漿を体内に発生させ、血液が水蒸気爆発を起こす『噴火拳』が決まった。それは鋼索の上で均衡を崩すに足るものであり、短い悲鳴の後に、じゅっという人体が蒸発する音が聴こえた。

「そこまで!勝者、煌!」

煌は静かに包拳礼を取る。一つは高僧らに、もう一つは死して地の炎に帰った同胞の為に。

「凄い奴が出てきたのう……」

大僧正は笑みを浮かべ、煌に与える次なる修練の場を考え始めるのであった。

【続く】