最果ての食堂
外は風がひたすら吹いている。今日はいつもより風が強い。日が沈みそうになる少し前、ジャック氏は小さく細い身体で両手いっぱいに、抱えきれないほどの食材を運んできた。
「ジャックさん、毎日すまないね。美味しい食材を運んできてくれて」ジャック氏が運んだ食材を受け取ったクイーン氏は早速キッチンに向かった。クイーン氏はコック帽をかぶり、エプロンを付け、慌ただしく調理の準備を開始し始める。
「何言っとるんですか。クイーンさんの作る料理は世界一ですから。毎日食べられてわしは本当に幸せですよ」ジャック氏は笑顔を浮かべ、こじんまりとした木製のロッジの内装をぐるっと見回した。
クイーン氏の住む平屋のロッジには、ほとんど物はなく、しかしキッチンにはクイーン氏のこだわりである、高さ三mの冷凍冷蔵庫がそびえ、地下には世界各地のワインが貯蔵されている大きな空間が広がっていた。
クイーン氏はかつて大陸全土を騒がせた一流のコックかつ、一流のソムリエでもあった。未だ調理の腕は全く鈍っておらず、しかし、手料理を振舞う相手は毎日食材を届けてくれる同年代のジャック氏だけとなっていた。
「なぁ、ジャックさん」クイーン氏はできあがり始めた料理を皿に盛りつけ運びながら、ジャック氏に尋ねた。
「なんだい?」白髪のジャック氏は、いつの間にかグラスに注がれたワインを飲みながらクイーン氏を見やる。
「なんで毎日毎日、美味しい食材をうちにとどけてくれるんだい?」
「なんでって、だってあんたしかこの世界で料理できる人がいないじゃないか」ジャック氏は目を見開きながら言った。
まぁ、そうかとクイーン氏は他の料理を作りながら呟き、表情を緩めた。「ジャックさんだけがうちに食材を届けてくれるから、わしはそれに応える料理を二人分作り、一緒に美味しい料理を食べる。ただそれだけで幸せと思えるねぇ」
「そうだね。それにしても、私とクイーンさん以外に誰もいない世界がかれこれ何年も続いてしまっているが、何か心当たりはあるかね?」ジャック氏はワインを流し込みながら尋ねた。
「さぁね。なんでかねぇ。でも、料理ができる自分とどんな食材も手に入れてくれるジャックさん、私としてはこれ以上のものはないがね。周りの人間は一人残らずいなくなってしまったが、私はこうして毎日美味しい料理を食べることができている。今はただそれに感謝して生きる日々だよ」