第14回 スクラップ&ビルドによる良い移転、悪い移転
移転先の確認
第12回の記事ではお店の同一敷地内で隣地や後背地を借りる又は買い取り、駐車場の拡大と同時にお店を敷地内の適切な位置に建て替える「セットバック」について説明しました。今回はお店を閉店し、別の場所に移転する「スクラップ&ビルド」の注意点についてお話したいと思います。セオリー通りに移転すれば大きな効果がありますが、セオリーを無視した移転はむしろ売上を下げる危険がある事を理解して下さい。
スクラップ&ビルドの対象となるお店
まずあなたのお店がスクラップ&ビルドの対象となり得るのか確認しましょう。あなたのお店が出店戦略上、出店すべきゾーン、ポイントにあるかをまず本部と見解の共有をして下さい。もしお店が出店すべきゾーンの一番立地にあれば対象ではありません。一番立地にあるにも関わらず売上が下降している場合はその場所でセットバックや駐車場拡大、売場拡大等の店舗活性化策を検討します。スクラップ&ビルドとは現在(あるいは今後の)一番立地が別の場所にあると判断されたお店が対象となります。
スクラップ&ビルドが必要な理由
スクラップ&ビルドが必要になる理由は主に2つあります。1つ目は環境の変化です。街の姿は開店からの時間経過と共に変化してゆきます。例えば新駅、新道の開通により人や車の流れが変わったり、団地等の高齢化や工場・オフィスの閉鎖などにより商圏内に住む人、働く人の質やボリュームが変わる事によって今までの立地が一番立地ではなくなった場合。2つ目は今まで出店不可能だった一番立地が廃業や所有者の変更等、何らかの理由により出店可能になった場合。このような場合、新たな一番立地に移転し商圏を維持します。
スクラップ&ビルドの定義(図1)
スクラップ&ビルドの定義は①既存の商圏をしっかりと引き継ぎながら②商圏内の一番立地へ移転し③更に今まで不足していた要素を補う事で新規顧客を取り込み大きく売上を伸ばす事です。それ以外の場合はスクラップ&ビルドとは言えず、単に既存店が閉店し、新たな商圏に新店が開店する事と同じです。スクラップ&ビルドの定義付けが必要な理由は既存店の実績日販を引き継げるか?がそれにより決まるからです。例えば移転せずに現在の場所でセットバックや駐車場拡大等の活性化を行う場合、今までの商圏を100%引き継ぐので意図的に駐車場の使い易さ等を改悪しない限り売上が落ちるという事はありません。更にスクラップ&ビルドの場合では商圏引継度に応じた既存店の実績日販に加え、新規顧客の売上が上乗せされるので開店当初から高い日販が確実に期待できるのです。しかし商圏を引き継がない場所に移転した場合は実績日販が失われ、現状より売上が下がる事もあり得るのです。故にしっかりと移転先の立地を見極めましょう。
商圏を引き継ぐとは?(図2.3)
では、商圏を引き継ぐとはどのような状態のことを指すのでしょうか。図2は商圏内の人の駅との導線上に位置しているが駐車場のない既存店が、同じ導線上で駐車場を確保できる場所に移転したケースです。この立地移転では商圏内の既存顧客をそのまま引き継ぐ事が可能で、更に車客も新たに獲得できます。しかし図3では移転先が同じように駐車場を確保できる場所であっても、商圏内の人の駅との導線上から大きく外れ、背を向けた場所となる為に商圏を引き継ぐ事は出来ず新たな車客だけを獲得できる新店となってしまいます。この例からわかる事は、移転距離の遠近では商圏を引き継ぐかどうかの判断は出来ないという事です。距離が近くても商圏を引き継がない事がある反面、距離がある程度遠かったとしてもしっかり商圏を引き継げる場合もあるのです。
スクラップ&ビルドの効果
スクラップ&ビルドの効果の見極め方は商圏引継度+立地改善度+駐車場改善度+競合優劣で決まります。
既存店の商圏をどの程度引き継げるのかをベースに移転先の商圏でどれだけ人の質とボリュームが変化するのか、駐車場の使いやすさ(駐車場面積、間口、進入口等)がどれだけ改善されるか、そして商圏内の競合店と比較して、商圏内の位置関係や駐車場の使いやすさ、煙草免許等の優劣が既存店と移転先ではどのように変化するのか等を総合的に判断します。
移転するかの判断
同一商圏に1店のセオリーに則って考えれば、一番立地に移転可能な候補地があれば移転するべきです。移転しなければそこに競合が出店する事により自店に甚大な影響を受けます。不便な場所でもわざわざ来店して下さる「目的来店性向」の極めて低いコンビニエンスストアでは、一番立地への競合出店の影響は日頃の営業努力があっても回復する事は出来ません。故に一番立地への移転機会を失う事は永遠の機会損失となります。ただし厳に慎むべきは一番立地ではない場所に現状よりも駐車場が大きく取れるからとか、競合店の出店を抑制する等という理由で移転する事は、今後も同じ事の繰り返しになります。特に現在一番立地に既存店があるにも関わらず、移転すれば煙草免許が取れるというだけの理由は最もナンセンスです。見かけ上煙草分の売上が上がったとしても利益は大きく向上しません。投資回収期間が終わり利益を生み続ける筈の店舗を安易に閉店し、再度高額の投資をする事は結果的にオーナーも本部も誰の得にもなりません。移転は一番立地に一度きり、が鉄則です。