第12回 セットバックとは
セットバックの注意点
セットバックは売上改善に大きな効果がある反面、手法を間違えると期待した効果が見込めないこともあります。お店の立地を理解し、顧客に合った店作りをしましょう。
お店の隣地や後背地を借り又は買い取り、駐車場の拡大と共にお店を適切な場所に建て替える事を「セットバック」といいます。セットバックはお店の活性化策の中で最も売上拡大効果が大きいのですが、一方で投資額も高額になります。売上拡大効果は駐車場の設置方法や白線引き、店舗の配置などにより変わりますので、今回はセットバックの注意点についてお話したいと思います。
セットバックの目的
セットバックを行って駐車場を使いやすくするとともに売場を拡大、リフレッシュして品揃えの拡充や見直しをする事は、既に来店して下さっているお客様に対し更に気持ち良く、便利に利用していただけるようになるのはもちろんのことですが、一番大きな目的は現在来店されていない「新たなお客様」を呼び込み、ご常連様になっていただいて大きく売上を伸ばす事です【図1】新たなお客様が多いほどセットバックの効果は高まります。
最大の効果を生み出す為の調査
そこで必要になってくるのが、現在の使われ方と商圏の調査です。これにより現在のお店の使われ方と本来の商圏の姿を照合する事で顧客のズレを発見します。このズレこそが現在のお店で機会損失が発生している部分であり、これをセットバックで補う事で最大の効果を生み出します。
統計データの取得
まずお店の周りの最寄り商圏データを取得しお店がどのような立地にあるのかを確認します。そして周辺にどんな人が住んでいるのかについて、年齢構成(若者が多いのか、高齢者が多いのか)や一世帯あたりの人数(単身者が多いのか、ファミリーが多いのか)等について調べます。次に昼間は商圏にどんな人がいるのか(働いている人が多いのか、学生が多いのか、住んでいる人がそのまま昼間もいるのか)を調べます。その結果が現在来店されているお客様の姿と一致しているかを確認しましょう。もし一致していればセットバックを機に現在の品揃えの更なる深耕を行い、一致していない場合はまだ来店されていない客層に対する仮説から、品揃えを見直し新たな仕掛けを行いましょう。
駐車場の使われ方の調査
現在の駐車場で朝の通勤通学の時間帯、お昼休みの時間帯、夜の帰宅時間等、お店毎に異なるピークタイムに駐車場がほぼ埋まる(オーバーフロー)時間が何分間位継続しているかを確認しましょう。オーバーフローは機会損失を発生させている明確な根拠で有り、駐車場を拡大する上で重要な指標です。全くオーバーフローする時間が無いということは車客にとって現状の駐車場で充足されている事を示しており、駐車場拡大が無駄な投資にならないか慎重に検討する必要があります。
競合店との関係性の調査
お店の周りに競合店が無い場合、現時点で広域にわたり商圏を独占しているので前述までの調査でわかる機会損失分がセットバックの効果となりますが、競合店がある場合は競合店との関係性によって更に効果が見込める場合があります。お店の現状とセットバック後の計画について売場面積、駐車場面積、駐車場台数、駐車場の入りやすさ(間口、進入口の幅と設置数)、お店の見え方、サインポールの見え方、交差点角地か中地か等を競合店も同じように調査し比較します。現状で競合店に対し劣っている項目が、セットバック後に競合店よりも優位に立つ項目が多くなれば、競合店を利用していたお客様を新たに取り込む事が出来ます。その効果の大きさは競合店との距離が近い程大きくなり、また位置関係ではお店の手前にある競合店に対して大きく、先にある競合店、反対車線側にある競合店の順に効果は少なくなっていきます。
立地によって異なる効果
例えば車客中心のロードサイド立地で【図2】の場合、既存店現状とセットバック後ではどちらが売れるでしょうか。駐車場が拡大されているので明らかにセットバック後の売上の方が高いと思われるかもしれません。しかしこの例では駐車場の白線引きに問題があり、折角のセットバックの効果が薄れてしまっています。大型区画を店舗の手前側に設置してしまうと駐車中の大型車による壁ができてしまい、前面道路を走行中の車からお店が見えず来店の阻害要因になってしまうのです。特に大型車は長時間の休憩に利用する事も多い為、大型車の区画は店舗の視界を妨げない場所に設置する事が重要です。
また、移動中の歩行者をターゲットとした駅前立地で【図3】の場合、どちらが売れるでしょうか?後背地が借りられるようになったからと駐車場を拡大し店舗を奥に建て替えると、今まで歩道から近かったお店のドア位置が遙か後方へ移動する事になり、歩行客にとってお店が視界に入らなくなると同時に来店し難い店となってしまい、セットバックが逆に機会損失を発生させることになりかねません。
駐車場だけでなく、売場面積の拡大でも同じような事が発生します。住宅立地のお店では売場面積を広げ冷凍食品等の品揃えを充実させる事は大きな効果を生み出しますが、オフィス立地のお店では売場面積を広げただ商品アイテム数を増やしても売上はあまり変わりません。それよりも朝や昼のピークタイムにレジ前に長い行列が出来ている事が確認できたなら、それが機会損失を発生させているので、レジ台数を増やし、レジ前通路を大きく取る等のレイアウトに配慮するとレジの通過時間が短くスムーズになり、今まで来店を敬遠していた新たな顧客を誘因できます。
本部との折衝
セットバックは特に所有オーナーにとっては大きな投資となる為、慎重な判断が必要です。本部から提案された計画で本当に効果があるのか、投資額に見合ったより良いプランがないか、ご自身の判断材料とする為にも客観的なセカンドオピニオンを積極的に活用しながら立地に合った最大限の効果を引き出しましょう。