コネの正体
少し前に知人から本を借りた。
本の貸し借りは、大人な感じがする、
まだまだ幼稚な感覚がある。
文庫本を包むブラウンの革製のブックカバーは手触りが良く、しっとりと手に馴染んだ。
居酒屋のテーブルにポンと置かれたその本に、油や水の模様が出来てしまわないように持ち帰った。
タイトルは「朗読のススメ」
作者は故人の永井一郎さん。
手のひらサイズなのに、体全体を覆うくらい、自分の仕事を深めるヒントが凝縮されていた。
サザエさんの磯野波平の声を長年担っていた永井さんは、京都大学文学部を卒業後、役者を志して上京。
受け入れてくれる劇団もタレント事務所もないままに、しばらくして、
客演者を探す若い小さな劇団に参加してから人生が動き出したという。
はじめ与えられた役は1時間に数か所「ははー」「どうーー」というセリフを言う端役。
これがコネクションになったという。
翌週もその端役が必要となり、翌週も参加、そしてまた参加を重ねていくうちに端役に名前が与えられ、セリフが増え、気が付けばその作品の準主役を担っていた。
コネクションというものは元々自分がそこに行きつく前から知っている人に頼ることであったり、力に委ねることと思っていたが、
一連の物語を知り、コネクションという定義も自分の中で変化した。
コネというのか、コネクションというのか、それだけでも品格と重みが増すような感覚だ。
それから
実力は、能力2 運4 コネクション4
と永井さんは捉えている。
肩肘張って、一つのことを達成しようと頑張るのは、きっと何かの形に繋がるものにはなるだろう。
けれど、永井さんの言葉を聞くと
肩肘張らず、力を抜ける気がする。
目の前のことは大切にねとメッセージ付きで。
大きいから良い、小さいからどうではなく
目の前全てに意味がある。
そんなことが改めて身に染みた。
本を沢山読むことが良いのではなく、
良い本を何度も読むのが良い。
好きな作家の松浦弥太郎さんの本にそう書いていた。
知人に返す前に、
同じ永井さんの本を買った。
今日もカバンの背中側に居座っている。
カバーはまだない。
黒にしようか、茶色にしようか。
読めば読むほど、永井さんとの対話も深まっているように思える。