小説「自殺相談所レスト」6-3
自殺相談所レスト 6-3
登場人物
依藤シンショウ……腕利きのスナイパー。部屋は汚い。
嶺井リュウ……超能力者。意外と頑固。
雨野香織……父親から性的虐待を受ける。死にたい。
そして二日が経った。雨野香織はいまだに、俺の三つある隠れ家のうちの一つに匿われていた。大人たちの意思に反し、あの娘は殺してくれと訴え続けている。嶺井の説得は上手くいっていないみたいだ。
「どうして私を死なせてくれないの?」
「君はまだ生きられるし、やり直せる、幸せになれるんだよ。」
こんなやり取りをこの二日間ずっと聞いてる。あのワガママ娘は婦人相談所やカウンセリングに行くのを拒み、食事も一切口にしようとしない。隙あらば自傷行為に走り、そのたびに嶺井に気絶させられている。
まったく、めんどくせえ奴らだぜ。
「おい、おまえら。いつまでも俺の家で喧嘩されるのは困るんだ。そろそろケリ付けようぜ。」
「すみません、依藤さん。」
嶺井はこの二日間、この娘に付きっ切りなせいでかなりやつれている。声もどこか元気がない。
「あんた、銃持ってるでしょ?それで私を殺してよ。それで全部終わるから。」
対してこの娘は病んでるくせに良くこれだけ反抗的でいられるもんだ。
「ああ、いいぜ、雨野香織、お前を殺してやる。」
俺はサイレンサーを取り付けたデザートイーグルを取り出した。
「依藤さん、待ってくだ、」
嶺井が言い終わらないうちに俺はそれを雨野香織に向かって撃った。
一瞬、殺伐としていた空気が完全に沈黙した。
弾は雨野香織の頬をかすめ、座っていたソファの背もたれに穴をあけていた。
「え……」
雨野香織は急に発砲され、驚いた顔をしていた。俺はそれを無視し、懐から数枚のカードを取り出して、テーブルに置いた。
「仕事はしてやったぞ。雨野香織は今、死んだ。そしてこれが、新しいお前だ。」
雨野香織は呆気に取られている。嶺井が、テーブルに置かれたカードを見た。
「学生証、保険証、マイナンバーカードまで……名前は全て、関モモコ……?」
「そう、雨野香織は死んで、今日からこのガキは架空の人物、関モモコとして生きてもらう。どうよ、お前ら二人の主張を通してやったぜ。」
「何言ってるんですか依藤さん。」
嶺井は俺のナイスアイデアを理解できてねえようだな。
「まあ聞けよ嶺井、一回傷物になると、人生いろいろと大変だぜ?親にレイプされて、その親殺されて、んで今は男二人に拉致されてる。こんないわくつき物件の女に、この先平穏な人生が待ってると思うか?」
「その言い方はないでしょう!それに別人になりすますことも得策とは思えません。」
「違う違う、これは人生のリセットさ。俺はよくやるぜ?依藤ってなまえだってもう五人目だ、確か。」
「人生に対する認識は人それぞれです。」
「そうか?じゃあ直接聞いてみるしかないな、さっきからだんまりのこのガキに。」
俺は嶺井から三枚の身分証をひったくって雨野香織の目の前にかざした。
「おい、これ要るか?」
雨野香織は目を丸くしていた。何もしゃべらない。
「あっそ。」
俺が身分証をしまおうとしたその時、雨野香織がピクリと動いた。まるで、その三枚を取り上げてほしくない、と言わんばかりに。俺はほくそ笑んだ。
「決まりだな。おっしゃあ!ミッションコンプリー、」
「待ってください。」
「ああ?」
なんだよ、かっこよく決まったのによ。
「香織ちゃん、ゆっくりでいいから、話して。」
雨野香織の方を見ると、何か言いたげにしていた。
「……私、それ欲しい。でも、一人で生きていけるかわからないし、やっぱり死にたくなるかも……」
やれやれ、ガキにこのやり方はハードだったか。
「わかった、そういうことなら、今度は僕から一つ提案があるよ。」
何?
「……え?」
雨野香織も同じ反応をしていた。
「僕のもとで働くんだ。給料を出すよ。家は依藤さんにここをかしてもらおう。」
ああ?!
「そしてどうしても死にたくなったら、稼いだ金で僕にもう一度依頼するんだ。安楽死させてあげる。どう?生きるも死ぬも自由に選べるよ?」
雨野香織の目が潤んでいる。やれやれ……
「……うん、ありがとう。」
「できるところまででいいから、生きてみようか。『モモコ』ちゃん。」
関モモコは泣き伏せた。嶺井がそれをあやしている。
……これだから、堅気は。
こうして俺たち三人は出会った。嶺井リュウと関モモコのおかげで、俺はしょうもない仕事ばかりさせられるようになったが、まあ、面白いから良しとするか。