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右サイドハンドは消えず
一時期右のサイドハンド(スロー)投手は左打者の増加に伴い第一線からその姿が中々見受けられなくなりました。しかし近年、右サイドハンド投手は再びプロでもアマチュアでも増加の傾向が見られる様になり再興の流れが出てきています。今回はその右のサイドの傾向とそれに伴う変化について紹介していきます。
項目
1:右サイドハンドの有力投手達
2:サイドハンドのフォーム
3:従来のサイドハンド
4:高速化する右サイドハンド
5:右サイドの常識を変えた林昌勇投手
6:球質の重要性
7:落ちる球について
8:従来の右サイドハンドの存在
9:右サイドハンドの転向について
10:右サイドは作るな、育てろ
11:終わりに
1:右サイドハンドの有力投手達
右サイドの著名な現役投手といえば比嘉幹貴選手(オリックス)や青柳晃洋選手(阪神)、又吉克樹(中日)選手、十亀剣選手(埼玉西武)、秋吉亮選手(日本ハム)が挙げられ、第一線で活躍中です。
中でも秋吉亮選手は150km/hの速球を誇り、7年間で369試合に登板し71S78Hを記録しています。今季は100S100HのW達成に期待が集まる事でしょう。
次世代を担う若手右サイドハンド達
これからを背負う若手サイドハンド投手の存在も忘れてはいけない。その上で語られるべき選手が
津森宥紀選手(福岡ソフトバンクホークス)
松岡洸希選手(埼玉西武ライオンズ)
上記の2人です。
津森宥紀選手は東北福祉大学出身で2019年ドラフトの注目選手として挙げられ、その年のドラフトで福岡ソフトバンクホークスから3位指名されています。ルーキーイヤーの昨年は開幕3戦目に登板。二保選手の危険球退場に伴う緊急登板で井上選手(千葉ロッテ)に満塁弾を被弾するもののその後を抑え149km/hの速球を記録し大器の片鱗を見せつけました。彼の最大の武器は150km/hに迫る球威のあるストレート。実際に観戦した時の直球の威力はバックネット越しに見てても分かるほどのもので非常に衝撃的でした。大学4年時の全国大会では自らの乱調とエラーで敗戦する悔しい思いをしていますがプロ入り後はその経験を生かし好投を続け、6/24の西武戦では2020年度の新人で最速白星を挙げています。
松岡洸希選手は武蔵ヒートベアーズから埼玉西武ライオンズにこちらも津森選手同様に3位指名を受け入団。あのサイドハンドでシンカーを武器に活躍した潮崎哲也氏が一目見ただけで惚れ込み指名へと至った逸材です。1年目の成績は2試合で3失点とプロの洗礼を受けましたが投手経験は高校からでサイドに至っては転向2年目、かつ149km/hを計測し3位で指名されている様な逸材であり、また素材として完成形が非常に楽しみな選手です。
またその他にも
鈴木健矢選手(日本ハム)が昨年指名を受け1年目から一軍登板を果たしているほか中日の157km/h右腕鈴木博志選手がサイド転向しておりこれからの動向に期待が寄せられます。
ドラフト注目選手
今年ドラフト候補として上がっているのが
亜細亜大学の岡留英貴選手です。
(ブルペンで投球練習中の岡留選手)
岡留選手は1年目から亜細亜大学の厚い戦力層の中から出番を得てリリーフとして活躍しています。1年秋から2年春にかけて安定感のあるピッチングを披露した好投手です。その岡留選手の最大特徴はそのフォーム。大きく沈み込みやや下手から鋭い腕の振りで投じるやや変則的なフォームでそこから最速147km/hの球威とキレのある直球を武器にしています。今年の右サイドハンド投手ではドラフト指名の最本命で今秋のドラフト指名の期待がかかります。
(マウンドから投球中の岡留選手)
これから開催される春のセンバツにも注目のサイドハンド投手が1人、専大松戸高校の深沢鳳介選手です。
専大松戸高校といえば今や日本代表に選ばれるようにまでなった高橋礼選手(福岡ソフトバンク)や千葉ロッテに4位で指名された横山陸人選手など近年、変則派の育成に定評のある高校です。
その専大松戸高校でエースを張る深沢選手は最速で137km/hとやや球速に関しては物足りなさを感じるかも知れませんが昨年の秋季関東大会で鎌倉学園(神奈川)、鹿島学園(茨城)を相手に立て続けに2試合連続無四球完封勝利を記録。スライダーとのコンビネーションに加え抜群のコントロールで試合を展開し安定したピッチングによって甲子園を引き寄せた実力派投手です。
岡留選手も深沢選手も今年が解禁年となる為より一層注目度が上がると予想されます。より掛かるプレッシャーや見る目が変わってくる中でどう成長を見せるか今年1年にに期待です。
2:サイドハンドのフォーム
サイドスローと言っても一口に「真横から投げるもの」ではありません。主に4種類に分けられます。
スリークォーター型
並行型
下手型
変則型
まず最初に挙げたスリークォーター型ですが腕の位置が高くなるので球速が出やすく、オーバースローやスリークォーターに近い為この投げ方をする投手も増えてきています。千葉ロッテの石崎剛選手などがこの投げ方をしています(ただしスリークォーター型はサイドハンドとの区別が難しく、また石崎選手や同チーム益田選手はリリースポイントが高い為メディアによってサイドスローとも言われたりサイド気味のスリークォーターと言われる事もあります)。
次にの地面と並行に近い腕の角度から投げるサイドスローについてですが福岡ソフトバンクの津森選手がこれに当てはまります。横から投げるので腕が一直線に近い形で伸び腰の回転と腕の振りを使って投げていきます。かつては球速が出にくいと言われていましたが元西武の潮崎哲也氏や津森選手は140km/h後半を計測しています。
3つ目が下手型です。
ややアンダースローに近いタイプのサイドハンドを指します。近年の日本球界では青柳晃洋選手(阪神)がこのアンダースロー型で投げています。腰を落としつつ真横から若干下で投げるサイドスローです。青柳選手の投げ方は「クォータースロー」とも呼ばれる事があります。
4つ目が変則型です。
実はこれが1番多いケースで大きく沈み込んだり、岩崎哲也選手(元西武)の様にトルネードを加えるフォームや三上朋也選手のスリークォーターを混ぜる千手観音投法や鈴木健矢選手の様なフラミンゴ投法と呼ばれるものまで多岐に渡ります。出所が読みにくくする目的やタイミングを取りにくい様にする為に変則にする効果があり、また一人一人の個性が出るタイプのフォームになっています。
(千手観音投法で鳴らした三上選手、現在はサイドより上のスリークォーターで投げる様になっています)
サイドスローのフォームは特徴的な選手が多く、一人一人工夫が凝らされています。遠目から見ても分かるのでブルペンで登板している時に見つけ易く観てる側からしても楽しめる要素が詰まっているのも魅力です。
3:従来のサイドハンド
これまでサイドハンド投手は
「球速が出にくい」
「落ちる球が投げにくい」
「スライダー、シンカー、カーブで左右に振る」
というのが一般的でした。
ただこの常識が今、過去のものになりつつあります。
ここからは近年のサイドハンドの傾向と変化について紹介していきます。
4:高速化する右サイドハンド
近年の右サイドハンドの傾向として挙げられるのが高速化です。かつてあらゆる本やゲームなどの説明で書かれていた「右のサイドスローは球速が出にくい」という内容は現実に即さなくなっています。150km/h前後を計測する様なサイドハンド投手は多数存在し「右のサイドスローは球速が出ない」ではなく「右のサイドスローでも球速は出る」という意識に変わってきています。
球速のある右サイドハンド投手を挙げると
前川哲投手(日本製鐵広畑) 156km/h
石田駿投手(東北楽天) 153km/h
又吉克樹投手(中日) 152km/h
十亀剣(埼玉西武) 151km/h
秋吉亮投手(東京ヤクルト) 150km/h
津森宥紀投手(福岡ソフトバンク)149km/h
松岡洸希投手(埼玉西武)149km/h
とかなりの選手が球速が150km/h以上を超える・または150km/h寸前まで来ています(サイド気味のスリークォーター投手である石崎剛投手や益田直也投手も150km中盤を計測)。特に日本製鐵広畑の前川哲選手は156km/hを計測しており驚異的な数値を叩き出しています。今やサイドスローは「球速も出せる」時代へと突入したと言っていいでしょう。
右サイドハンドの常識を変えた林昌勇投手
その日本のサイドハンドにおける高速化で一大イノベーションを起こした投手が元東京ヤクルトの林昌勇投手です。150km/hを超える速球派サイドハンド投手として鳴り物入りで入団した林昌勇選手は1年目から自慢の速球で150km/h中盤を連発させクローザーとして活躍。そして日本球界へ来て3年目の2010年に衝撃の数値を叩き出し球界を騒然とさせます。5月の阪神戦、新井選手に投げた直球は160km/hを計測。それまでの日本球界のサイドスローは140km/h後半が出れば速い方とされてきたのを林昌勇投手は軽く超え、サイドスローでもスピードは出る事を証明しました。後にも先にも右サイドハンドで160km/hを計測したのは彼だけですがそれ以降150km/hを計測するサイドスロー投手や140km/hの後半を記録する右サイドスロー投手はプロアマ共に増加。「右サイドスローは球速が出ない」という常識を打破した事は日本球界於いて右サイドハンド投手の意識を変え、新たなステップに踏み込ませた大きな功績と言えるでしょう。
6:球質の重要性
右サイドには球質も大事な要素になります。
球速が上がりつつあるもののストレートで勝負できない様では中々厳しいです。津森選手の様にストレートに威力を感じさせる、または球速以上のものを体感させる投手はこれから直球でも推せるので勝負どころでも使え、非常にアドバンテージになると考えられます。ストレートをはじめ球質を変えるのは難しいですが球に勢いがある投手がより生き残って行きそうです。
7:落ちる球について
落ちる球はこれまでサイドハンドでは投げにくいとされシンカーが代用され多用される事が多かったものの決して落ちる球が投げられない訳ではありません。林昌勇選手はフォークを武器の1つに持っていました。日本製鉄広畑の川瀬航作選手はスプリットを決め球にしています。西武の松岡選手もフォークを持ち球としており右サイドでも落ちる球は充分武器に出来る要素になっています。スライダーやシンカーの方が投げやすいという側面もありますがフォーク系の落ちる球も充分武器に出来き、選択肢の1つに挙げられる球種でしょう。
8:従来の右サイドハンドの存在
球速が上がり速球派のサイドハンドが増える中でもこれまでのサイドハンドの特徴を継承している投手が存在します。その代表格が比嘉幹貴選手です。比嘉選手はストレートの球速こそ140km/h前半〜中盤ですが見分けが付きにくいフォームから120km/h代〜130km/h付近のスライダー、シンカーで左右に振り90km/h台のスローカーブで緩急をつけるスタイルで28歳でプロ入り後10年に亘って活躍しています。
高速化が進み左打者が増え、このタイプのサイドハンド投手はかなり限られて来ていますが緩急をつけ左右に振り直球を交えて三振や凡打誘うスタイルはサイドハンドとして生き残る術が随所に見られます。
その比嘉選手は現在も第一線で活躍中。昨季は38歳でしたが20試合で防御率0.71という好成績を残しており投球術にも円熟味が増し、球が速くなくとも抑えていける事を今も証明しています。
9:右サイドハンドの転向について
右サイドに転向する選手の特徴としてあげられるのがまず「元内野手」が多い事です。DeNAの三上選手は県立岐阜商では三塁手として甲子園の地を踏んでおり、また中日の又吉克樹選手も元々二塁手でした。前巨人の田原選手も聖心ウルスラ学園では内野手、西武の松岡選手は三塁手と遊撃手を兼任。日ハムの秋吉選手に至っては中学時代に内野手、外野手だけでなく捕手までこなすユーティリティとして活躍していました。
内野手は送球動作時に横から投じる事も多く、腕の振りがサイドスローに近いものがあるため投げ方としてフィットしやすくバッティングピッチャーや世代交代、進学を経て投手に転向しサイドハンドになるケースが増えています。中でも田原誠司選手は元内野手で背番号すら与えられなかった選手でしたが最高学年になった2年秋に投手転向、制球を直すためにサイド転向し高校卒業後には倉敷オーシャンズに就職。巨人にドラフト7位で指名されシンデレラボーイとなっています。
またサイドハンドの転向時期は選手によってバラバラですが多いのは高校1年〜大学2年及びその前後が多いです。前述の野手からの転向組の田原選手は高校2年時、ソフトバンクの津森選手は高校1年時に、岡留選手(亜細亜大学)は大学進学後にサイド転向と高校や大学で転向する選手が目立ちます。小学生や中学生で転向するケースは比較的少なく青柳選手(小学6年生時)の様に早い段階でサイドになるのは珍しいです。本格的にサイドを育成出来る指導者が小中では少ないというところと投手は基本上から投げるという意識が強く、またサイドハンドはやや変則になるため身体の出来ていない小中学生向けではないというところです。特に腰を回転させるので肩に行く負担は軽減できる分、腰に負担が行きやすくなります。またサイドは肘を伸ばして投げようとするため間違ったフォームで投げると肘にも影響が出ます。フォームを是正できる指導者も少ないのでリカバリーがし辛く故障を継続させてしまう可能性があるのでより指導出来る高校大学での転向が多いのだと考えられます。
10:右サイドハンドは作るな、育てろ
時折聞く話ですが右のオーバーハンドで通用しなくなった投手をサイドスローに転向させようという記事が出ることがあります。確かに出所を変える、というのは一つの手かも知れないですが左打者が急増し出所がむしろ見やすくなった昨今では上手くいく例はそこまで多くありません。(逆に左投手はは出所が慣れない、左打者の背中を通る感覚で球が来る、左打者の増加を逆手に逸れるというメリットが多いので途中転向しても成功するパターンは散見されています。)
まず付け焼き刃のサイドスローでは勿論球速も球威も出にくいです。フォームが合えばというところではありますがオーバーの投手がいきなり本格的なサイドで投げろと言われてもかなり無理があるのが事実。また、従来投げてきた変化球の変化の仕方も変わりコントロールや握りの改善も必要となるため即転向、即戦力というのは中々難易度が高いです。プロでサイドスローに転向させる選手は後がないことも多く、結局中途半端なまま慣れ親しんだオーバーに戻してしまうケースも少なくないので中々定着させるのが難しいです。
右サイドハンドも転向して一朝一夕で結果が出るのが稀で、三ツ間選手や松岡選手みたいに転向してすぐ結果が出るケースもありますがしっかり育成しないとモノにならないまま終わってしまう事は少なくないです。ドラフト候補として名前が挙がるサイドハンドは高校1年〜大学1、2年で転向している選手も多くサイドハンドは適正と育成力が重要になってくると考えられます。是非サイドスローに関しては作るのではなく育てて欲しいというのが私見です。
11:終わりに
サイドから投げる投手というのは投手に於いて特殊な投法で投げる数も以前より少なくなっています。
その希少さ故に育成や転向など難しいところはありますがそれでもサイドハンド投手は進化をし、またその特徴を継ぎながら今も球界にあり続けています。近年では高速化を見せ球速で魅せるサイド投手や落ちる球を武器にし成功している投手がいるなどサイドハンドもバリエーションが増えてきており、数こそ少ないですがその存在は消える事なく続いています。新しいサイドハンド投手の形が出来ている現在、次々に魅力的な右サイドハンドの逸材が出てきてくる事を楽しみにし今回はここで終わらせていただきます。