【本のこと】『MOMENT』
こんにちは。
1週間ずっと、風邪っぽい状態で過ごしていました。
(寒暖差にめっぽう弱いのです…)
それでも勉強とオタ活と読書は楽しいので、不思議なものですね(笑)。
今回は、約10年ぶりに読み返した作品、本多孝好さん著『MOMENT』(集英社文庫)をご紹介します。
小学校高学年の頃は、毎週のように父と本屋さんへ出かけていて、夕暮れが始まりそうな青空の表紙に惹かれて購入したのが、この1冊でした。
この作品を読んだ10代前半の私が何を想ったのかは、もう覚えていないのですが、何故だか手放せないまま約10年。
ふと「もう1度読んでみよう」と思い立ち、新鮮な気持ちで1頁目を捲りました。
何だか親近感が湧く「神田くん」
主人公は、病院で清掃員のアルバイトをしている大学4年生、神田くん。
勉強を特別頑張ったわけでも、就職活動に前向きなわけでも、将来の目標があるわけでもない、何だか「ぼんやり」な印象を漂わせている人。
そんな彼は、ある女性との出会いをきっかけに、病院で出回っている「噂話」の当事者として、医師や患者と関わることになります。
最初は、どこか後ろ向きに、心にさざ波を立てないように行動している風だった神田くん。
しかし、病院という場所柄、避けては通れない「生と死」の真ん中に立ち、噂話の人として過ごすうち、彼の人間味に輪郭が見えてくるように、私は感じました。
小さな女の子の退院を喜び、女性の最後の言葉に涙を流し、社会的立場に反して患者を救おうとする医師に怒り…
「人間味がない」と言われた過去を持つ私にとって、感情の渦に巻き込まれて戸惑いながら過ごす神田くんは、何だか親近感の湧く存在でした。
忘れられないシーン
約10年前の私がどのシーンに心惹かれたのかは、もう思い出せません。
しかし、当時の私からすれば随分「お姉さん」になった20代前半の今。
私にとって忘れられないシーンは、こんな場面です。
ある患者さんからのお願いで、病院を抜け出してデートをしていた神田くん。
病院の夕食の時間を過ぎ、もう帰らないと怒られてしまう頃、ファミレスでの会話(231頁)。
「言わないのね」
「はい?」
「もう帰ろうって」
「せっかくのデートですから」と僕は言った。「デートを終わらせるのは女性の役目です。引き延ばすのが男の役目」
…神田くんへの好感度が急上昇した瞬間でした。
アルバイトとはいえ病院の一員である神田くんにとって、この時間に患者さんと外出するのはかなり危険な行動。
それを「せっかくのデートですから」で片付けてしまう彼の不器用な温もりに、ひっそりと心が波打ちました。
ちなみに、ファミレスを出る直前の会話(231~232頁)も忘れられません。
「ねえ、もう一カ所だけ付き合ってくれる?」
「そういうの、やめたほうがいいですよ。安い女に見られます」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「男が聞くのを黙って待ってればいいんですよ」
「男は、どう聞くの?」
僕は伝票を手にして、椅子から立ち上がった。
「さて、次はどこへ行きます?」
もし私がこの患者さんだったら。
「病院で治療を受ける患者の1人」ではなく、「デート相手の女性」として尊重してくれる神田くんの存在が、少しの救いになるかもしれない。
死への道ではなく、今を生きられる実感を噛み締めるかもしれない。
神田くんという1人の存在の温度を感じた、忘れられないシーンでした。
受け取り方は読んだ人それぞれですが、私にとっては「今を生きていられることへの感謝」や「当たり前のことなんてこの世に1つもないこと」を思い出させてくれる、道標のような1冊です。
将来のこと、家族のこと、悩みは尽きませんが、10年後も、この1冊は私の部屋に「お守り」として座っているんだろうな、と予感しています。
そんなこんなで今回ご紹介したのは、本多孝好さん著『MOMENT』(集英社文庫)でした。
読書の秋、皆さんの心は、どう彩られるのでしょうか。
良い1日を!