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Interview journal Vol.5(株式会社辻洋装店/東京)

株式会社辻洋装店の代表取締役、辻 吉樹さんインタビュー。

代表取締役の辻 吉樹さん。
東京都中野区にて70年続く、縫製工場を運営されている。

ーーー 辻さんは、東京都中野区で高級婦人服製造の縫製工場をされています。辻さん自身のご経歴を教えていただけますでしょうか??

辻   はい。まず22~23歳の時に辻洋装店の顧客様であったブランドに修行しに行きました。

ーーー えっ、そうなんですね。

辻   そうなんです。でも修行しに行ってすぐに父が倒れたんです。なので、7月に退職しました。わずか3ヶ月です。そこから辻洋装店に帰ってきて縫製の現場で、ずっと仕事をしてきました。管理したり、工業用パターン、裁断等を見てきました。そこから弟が2人いるんですけど、彼らが入ってきてくださって応援してくれて、今3人と社員さん達と仕事してるという感じです。

ーーー すぐに現場に行かれたんですね。

辻   はい。私は現場で働いていたので、ここ30年間、請負の仕事(縫製工場)がどういう風に無くなっていったか。というのも見てきました。じゃあ、弊社はどうしたらいいの?ってなった時にHPを作成したり、工場見学を開いたりして、皆さんにご理解をしていただくことをしています。

ーーー 工場見学とても良い試みだと感じました。

辻洋品店さんの看板

辻   ありがとうございます。来ていただいて直接見ていただくことが1番かなって。縫製工場のレベルって数値化しにくいですよね。プレタポルテを謳うだけなら簡単だと思うんです。

ーーー そうですよね。でも一方で他社の縫製工場さんも工場見学の受け入れをされているじゃないですか。そこまで、オープンにするのって珍しいですよね?

辻   はい。確かにかつては、経営者同士が仲がよくても、ほとんど工場の中は見れなかったと思います。技術やミシン調整の仕方がすぐに真似されやすいからです。しかし私が思ったのは、ここ30年間業界にいて、毎年縫製工場がなくなっていくんですよ。1番多い時(1970年代)の東京の縫製組合には、791社あったんです。

ーーー えっ、すごい多いですね。

辻   そうなんです。しかも、従業員数も多いところだと100~200人のところもありました。作れば売れる時代があったんです。しかし、現代は40社を切っており、その半分は東京には縫製工場自体はなく、他県にあります。さらにその半分は営業活動しかしてません。なので、実質10社程度しかないんですよ。

ーーー 実質10社。。すごいピーク時より、減りましたね。。

辻   はい。その10社の内、20人以上の従業員が働いているとことは3~4社程度しかないと思います。なので私の肌感覚で行くと99%ぐらいなくなっている感覚です。そんな中で、見えない。見せない。入れない。というやり方がこのシュリンクしている状況で、違和感があったんです。それだったら、ある一定の情報はHP,SNSで公開したり、工場見学を行なって、皆さんで「頑張りましょう」って。私たちだけじゃ分からないこともあるので、教えてもいただけませんか。ってスタンスでやってるんです。なので、見学に来ていただいた縫製工場さんに逆に見学させていただくこともあります(笑)

ーーー すごい良い関係性ですね!

辻洋装店さんの現場①
プレス場

ーーー 東京都中野区の大都会で70年続けられてるのもすごいです。

辻   ありがとうございます。なんとか継続したいなと思います。残るってことは最大のサービスだと感じています。もちろん、残ることだけが目的ではないですけど、続けて残っていってないと提供できないですからね。そのための政策は取っていると思います。

ーーー 確かに、そうですよね。御社のInstagramのリールとかでも感じる、御社の縫製技術もすごい勉強になりますもん(笑) 本当に。僕も縫製をやっていたので、感じる部分があり、シンプルに御社の縫製技術はかなりトップレベルだと感じています。そのクオリティの出し方や、チーム作りはどのような管理体制でやっていますか??

辻   ありがとうございます。あまり難しい話ではないんです。ライン生産ではなくグループ生産にしており、そのグループにリーダーを配置させてます。グループにすることによって、ラインとは異なり、自分が縫った物がまた自分の所に帰ってくるじゃないですか。そうすると、その間に先輩達の技術も見れるし、リーダー達も指導しやすい。確かにライン生産より「生産性」は少し落ちるかもしれませんが、弊社はクオリティ部分に関わる、コミュニケーションを重視しています。グループ生産だと、仕様書に記載されてない先輩方の技術や知識を得られる。「目を育てられる」ので、その子自身の成長度合いも高いんじゃないかな。

ーーー 良いですね!確かに1人1人が考えて縫うことによって、成長スピードはかなり早いですよね。丸縫いできるようになる。縫製士をやって行く上でかなり重要だと思います。昔からグループ生産の手法だったんですか?

辻   はい。昔からですね。私は保守的なんです。会社の伝統は守りながら、変えられる所は変えようというスタンスです。経営者って代が変わったら、経営も大きく変わる会社もあるじゃないですか。私はあんまり大きく変えないです。今まで働いていただいている社員の方達のやり方もあるじゃないですか。なので、そのやり方も尊重しつつ変えられる所は変えようって感じです。

ーーー 先代や社員さんへのリスペクトを感じます。

アタッチメントの管理
なんとも綺麗に整頓されている。美しい。。

ーーー 現状のアパレル業界について思うことはありますか?

辻   ないです。業界が不況なことを言っても仕方ないですよね。ネガティブな話じゃなくて、ポジティブな話をしていきたいです。

ーーー 確かに、作り手がポジティブが1番大事かもしれませんね!新たな試みを増やしていきたいですよね。

辻   そうですね!そういう試みで言うと、5~6年前から裏地等の仕入れも行なっているんですよ。

ーーー 縫製工場さんが仕入れですか!?

辻   そうなんです。縫製工場は仕入れが弱くて。メーカーさん側にちょっと裏地や見返しの生地を用意しておいてと言われても出来ないところが多いと思います。

ーーー 確かに、縫製工場さん側が仕入れできるの初めて聞きました。多少の副資材はしてくれる工場さんはありますが、生地までとは。。そしたら御社は、生地等から仕入れて縫製まで。という依頼もあるんですか?

辻   はい、あります。デザイナーとダイレクトに仕事を進めるんですよ。そういうクリエイターの方達とも一緒にやっていきたいですよね。ワンストップで出来るようになるようになるのも、良いと感じています。

ーーー 確かに!魅力的です。クリエイターさん個人と一緒にやられてるなんて!新しいビジネスモデルを聞いているみたいで、新鮮です。けど、なかなか出来ることじゃないですよね。辻洋装店さんだから、出来ることかもしれませんね。

辻   それはあるかもしれません。弊社のグループワークはもちろん、モデリストがあってのことだと思います。あとは、社員とクリエイターの接点が増えるのも嬉しいじゃないですか。

ーーー とても素敵です。

辻洋装店さんの現場②
裁断場

ーーー 昔から続く、アパレルの低賃金問題も改善していきたいですよね。

辻   そうですね。誰かの犠牲の上に成り立たないように、微力ながらに発信・行動はしていきたいです。

ーーー アパレル全体の低賃金問題、特に日本人の場合は値上げが本能的にしにくいんですかね。

辻   そうかもしれないですね。弊社の場合は、社員の縫製時間等のデータもお客様にお伝えすることがあります。また、各メーカーさんにも正直にお伝えすることでご理解いただいていますね。正直にお話しする・それを示すことが大事ですね。勇気はいりますけど(笑)

ーーー 確かに、経営者は心臓がバクバクですよね。。

辻   でもそうしないと、社員さんにも対等に話せないので。対等というのは、お客様・仲間達など、如何なる立場でも大事だと思います。

ーーー 素晴らしい考えです。

辻洋装店さんの現場③
縫製場

ーーー この先の辻洋装店さんの展望は??

辻   はい。クリエイターの方などの「作る意思がある人たち」の仕事も増やしていきたいと思っています。それは先ほどもお話しした、弊社が0から作ることができるので。(仕入れ、パターン、トワル、サンプル、量産縫製) その商品化をお手伝いできればなと。

ーーー 良いですね!

辻   後は、やっぱりファッションってすごい楽しいものじゃないですか!ワクワクもするし、ドキドキもするものだし、姿勢を伸ばしてくれる服もあるわけじゃないですか。弊社の理念としてあるのは、「洋服づくりは人づくりの道」というのを掲げているんですけど、最終的には服づくりを通して、お客様だったり社員の方達と一緒に成長できればなと思います。

ーーー 「洋服づくりは人づくりの道」ですね。

辻   もちろん、経営者として悩むこともあります。けれでも、理念があるとそれを基盤として振り返れるじゃないですか。だからそれは大事だなと。後は、理念は理想で、そう簡単に辿り着けないから良いんですよね。難しいから価値がある。100年後もその理念に向けてやる。その姿勢に向かって努力するのが大事だと思います。なので、社員さんには本当に頭が上がりません。

ーーー 辻さんからは、本当に周囲へのリスペクトが感じられますよ。良い会社ですね。

辻   ありがとうございます!これからも頑張ります。

ーーー 本日は、貴重なお話しありがとうございました!!

辻洋品店さんの理念

株式会社辻洋装店:@tsujiyosoten1947
住所:東京都中野区上高田2丁目10-14
店主:辻 吉樹
HP:https://tsujiyosoten.co.jp


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