次の金融の主役は誰かー誰もが金融サービスも提供する時代へ。
デジタル時代の新しい金融サービスのあり方
金融業界はゆっくりとゆっくりと大きな変革を迎えようとしている。それを人は「フィンテック」とか「デジタルトランスフォーメーション」とか呼んでいる。そういうと、なんかわかったようなわからないような感じですが、僕の中で一番大事だと思っているのは、「価値創造の仕方と販売チャネルの考え方」がガラッと変わりつつあるということ。
プロダクトの機能便益で差別化できた時代は、「よりよいものが作れる人」が偉かった。差別化できるプロダクトが付加価値の源泉であり、それを最も訴求できるマーケティングと販売チャネルの確保が大切でした。
金融業界も同じで、独自の商品を作り、それを自社または専門の仲介業者の販路で販売していくという流れになっています。これは、「対面」でも「オンライン」でも実はあんまり変わらなくて、プロダクトを作り、ひたすらマーケティングして、自社の店舗やウェブサイトにお客さまを連れてくるのが一般的ですよね。
しかし!機能便益による付加価値の創造が難しくなってきた今、付加価値の源泉は顧客データに裏付けされた「顧客体験全体」に移行しています(詳細は後述)。その結果、「顧客データを持ち、顧客を一番理解している人」が最も偉く、そうした企業がより多様なサービスを提供する時代になっていくと考えられています。
そしてこの中には金融サービスも当然含まれおり、金融サービスの最後の提供者は金融機関ではなくいつも使っている”何かのサービス”になっていくでしょう。これが進むと、すでにユーザーを持ち金融フロントサービスだけを提供するプレイヤーと、その裏でインフラを提供するプレイヤーとの分離が起こり、垂直統合的だった金融業界は、一気に水平統合的に事業構造が転換していくと確信しています。
このトレンドはすでに世界中で起こりつつあります。
・レンディングの分野では、アメリカのAffirmがECサイト運営者へ購入時にユーザーへリアルタイムにレンディングを提案できるインフラを提供
・保険の分野では、アメリカのLemonadoやドイツのsimplesuranceが中小企業でも簡単に保険をデジタル提供できるインフラを提供
・送金・決済分野では、アメリカのGreen Dotなどが、カードの発行や預金・決済処理ができるインフラを提供し始めています
ここから10年、本当の意味で金融業界は大きな構造転換の瞬間を迎えると思います。日本としてはどのようなカタチでこの構造転換を迎えるべきなのか、そしてそこに僕たちFinatext / Smartplusがどう取り組んでいきたいと思っているのか、改めてお話したいと思います。
まずはじめに、前提となる「新しい時代って何なのか?」これを僕が最も分かりやすいと思っている本の一つであるの「アフターデジタル 」(著:藤井 保文、尾原 和啓)を参考に整理してみたいと思います。
「アフターデジタル」
〇全てがオンラインに接続する時代
これまでは私たちは販売チャネルをオフライン/オンラインと別々のものとして考えていて、金融業界もこれにもれず、例えば「対面証券」と「ネット証券」という表現を使っていることからもわかるように、明確に別のものとして捉えています。
しかし、オフラインと言われていたリアルチャネルで顧客にサービスを提供しているその瞬間もインターネットと結びつき、あらゆる行動と情報がオンラインで接続・蓄積される時代となりつつあります。その結果、デジタル上の接点が常にあるは当たり前で、リアルチャネルは顧客からより深い信頼を獲得することができる稀有なチャンスと位置付けらえるようになってきました。こうしたオンライン/オフラインという分離がなくなり、あらゆるものがオンライン接続されるようになった現象を著者の藤井さんは「アフターデジタル」と表現しています。
リアルチャネルでも、オンライン接続されるようになったことで、新しい状況が生まれました。それは、顧客の属性データと行動データがこれまでにない水準で取得できるようになったこと。これらの顧客データは、「最適なタイミングで、適切なコミュニケーション方法で、適切なコンテンツ」を提供することを可能にしました。
〇今起こっている構造転換
あらゆるサービスがオンライン接続されることにより、企業が保有する顧客接点と顧客データが急激に増えたことで、付加価値の源泉は「製品単位での価値提供」から「体験全体での価値提供」へ移行がおこっています。
平たく言えば、「顧客のことを知っている人が一番えらい」という構造を生み出したということ。つまり、いかに顧客との接点をもちつづけ、顧客の行動データを蓄積し、顧客を理解できるかが重要となります。こうした背景の中で、中国ではアリババとテンセントが非常に強力な力を獲得し、ピラミッド的なヒエラルキーができつつあります。
金融サービスにあてはめると…
○金融サービスに求められる顧客接点
金融サービスって、個々人の状況に合わせ専門性の高いサービスを提供する必要があるため、「最適なタイミング/コンテンツ/コミュニケーション」が最も求められるサービスであると言えます。
インターネットが普及する以前は、銀行、証券会社、保険会社といった金融機関は、頻繁にお客様の自宅に訪問する事で、その人の属性情報や行動情報をオフラインで手に入れていました。こうした情報に基づき、"文脈"をもったサービス提供を行い、そして顧客からの信頼を獲得していました。
しかし、インターネットが普及すると、金融機関は顧客との接点は急速に希薄になり、保有する情報も少なくなっていきました。同時に他の業界ではオンライン上でのデータを用いたサービス提供がなされ、顧客体験がどんどん向上していく中で、顧客接点が希薄でサービスレベルが向上できない金融サービスは相対的にますます使いづらいものになってしまいました。
○新時代に対応する2つの戦略
これを解消するには、①意味のある顧客接点を持てるサービスを金融機関が自ら作ってしまうか、②すでに顧客接点を持つサービサーが金融サービス「も」提供するかの二択が考えられます。
中国では、①を平安保険が、②をアリババやテンセントがやりきっています。なお、アリババとテンセントの間にも少し違いが出てきていると言われています。アリババは、プラットフォーム上の多様なデータを様々なソリューションに転用しマネタイズしていくことを中核においています。一方、テンセントはデータ取得よりも「接点頻度」を大事にし、顧客をWeChatから離れられなくすることで、ついでにやってしまうゲームなどからのマネタイズを主な収入源としています。
○日本の現状
日本では、前者に挑むプレイヤーは日本では今のところベンチャーしかなく、既存金融機関ではあまりいないのが現状です。
一方、後者についてはLineが「すでに顧客接点を持つサービサーが金融サービスも提供する」戦略をとっているといえます。Lineはユーザーとの間に高頻度な顧客接点もっており、そうした接点を起点として、保険、証券、送金などといった金融サービスを提供しはじめています。
(Line株式会社 決算説明会資料より)
ただ、Lineが有する顧客接点が金融領域において「意味のある」ものかはまだ未知数であり、どのようなサービス展開になっていくかはまだまだこれからだと思います。上記の通り近いサービスであるテンセントのWeChatは、金融サービスで儲けるというよりは、顧客接点をさらに獲得するためのコンテンツとして金融サービスを位置付ける傾向が強いことを考えると、Lineも同じような思想になっていくかもしれません。
さらにpaypayも、今回の決算説明会で改めてプラットフォーマー(スーパーアプリ)になることを宣言しており、投資、保険、ローンといった金融サービスを拡充していくことを明らかにしています。
(ソフトバンク株式会社 決算説明会資料より)
「アフターデジタル」の著者である藤井さんも仰っていましたが、日本では、中国と異なり最終的に超強力なプラットフォーマーを頂点とするヒエラルキーができあがるのは難しいのかなと感じています。それは、アリババが行なってきたようなアグレッシブなデータ取得と利活用が現在の日本においては難しいことと、日本人は新しいもの好きな一方、スイッチングコストが高いものにはかなり保守的なので一気に市場を抑えて勝ち切るというのが難しいためです。
よって、日本では体験価値を創造する大小様々なサイズのサービサーが強いプレゼンスをもっていくのかなと思っており、今後しばらくは誰が金融領域において「意味のある」顧客接点を持っているのか?それを各プレイヤーが模索するため、様々なプレイヤーの参入が続く数年になる気がしています。
そして、、僕たちはそうしたプレイヤーのためのShared Financial Infrastructureになりたいと思っています。
僕たちのやりたいこと
○Shared Financial Infrastructureとは
Lineのようなプラットフォーマーを目指す巨大なサービサーは自力でライセンスを取得し、金融機関を作ることができます。一方、それ以外のプレイヤーは開業までに2年ほどの期間をかけてシステム開発とライセンス取得、そしてプロを採用するという、数十億円以上もの投資を行うのは非常に難しい。
そこで、僕たちは自社では金融機関になるのが難しい、けどユニークな顧客接点とユーザーの属性/行動情報を持つサービサーに対して、汎用的に使えるback-endの金融インフラストラクチャーをサービスとして提供し、低コストで金融サービスを自社の顧客に提供することができる環境を作りたいと思っています。
○目指すのは「金融サービスのAWS」
つまり僕たちは、サーバでいうところのクラウドサーバのような存在になりたいと考えています。サーバも中小企業が自社で全て構築しようとすると、初期開発に時間もお金もものすごいかかります。また運用費も固定費でかかってしまいます。しかし、AWSのようなクラウドサーバであれば、初期コストは安く、運用費もpay as you go、使った分だけで済むので、小さく始めることができる。
これと同じようなことを金融インフラでもできないか?と考えています。 現在の金融機関は、ほとんどすべての会社がSIerのもつパッケージソフトウェアをカスタマイズして導入しています。しかし、共通で使える金融インフラがあれば、大企業ではないサービス提供者も金融サービスを提供できるようになるほか、これまで莫大な初期費用と高い運用固定費がボトルネックとなって実現できなかった特定の顧客/特定のニーズにフォーカスしたサービス展開が可能になります。こうした環境があることで初めて、文脈を持った意味のある金融サービスを提供できるようになると思っています。
いまだ国内で最大の利益を生み出し続けている金融業界は、その規模の大きさと規制と特殊さ故に、高い障壁に守られていました。しかし主導権が、ゆっくりとプロダクトを作ることができる金融機関から、顧客を最も知るサービサー側へと移行しようとしています。金融サービスを誰もが提供でき、誰もが自分のことを一番知っている人からサービスを享受できる時代へ。そんな新しい時代を僕たちは作っていきたいと思っています。
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