新しい金融のカタチを考える② ー 「資金融通機能」のあり得る姿

 前回のnoteで書いた通り、バンキングは、「信用取引によりマネーを創造する」ことで提供することで、実体経済に大きな価値をもたらした一方、その代償として流動性リスクを生み出し、時に世界恐慌という形で、多大なる負担を強いてきました。

 現代金融システムを、銀行恐慌の起きない、国民の税金によって救済もされないものにするにはどうしたらいいか。その答えはすごくシンプルで、バンキングの本質である「信用によるマネー創造」をやめる、つまりは「預金」というものをなくすということだと思います。それによって、取り付け騒ぎが起こることはなくなり、数千ページにも及ぶ銀行規制も不要になる!(言い過ぎ)

 でも、銀行がなくなると、普通に困ることがあります。
 ・だれが資金を必要としている人に、家計の貯蓄を融通し経済の成長を促してくれるのか? とか
 ・だれが僕たちの給料を振り込んでくれるのか? とか
 ・だれが僕たちのお金を保管しておいてくれるのか とか、、、、

 しかし考えてみると、銀行がこれまで一体で提供してきた「資金融通機能」、「送金/決済機能」、「価値保存機能」は、実は必ずしも銀行が提供しなくてはいけないものでもないのです。「マネーの創造」を行わないのであれば、別に銀行が一体で提供する必要性はないため、それぞれ分離し、各エンティティが最適なサービスを構築していくことができるのではないかと考えています。というわけで、今回は、「資金融通機能」について考えてみたいと思います。

バンキングなき後の「資金融通機能」のあり得る姿

 バンキングシステムがない時、資金を必要としている人に家計の貯蓄を融通することができるか?

 これまでも、株式や社債などの直接金融によって資金の融通は行われてきた。テクノロジーの発達により、これらの直接金融がバンキングのような機能を構築することができるかもしれない。これを考えるうえでは、間接金融でもキーとなった「情報の非対称性」と「ニーズのミスマッチ」の解消が重要となる。

「情報の非対称性」
 直接金融になると、資金の出し手である僕たち自身が情報の非対称性の直面することになる。僕たちではモニタリングをすることは難しいため、外部に委託する必要がある。外部に委託する先としては、格付機関が考えられる。
 格付機関と聞くと証券化の格付で無茶苦茶な格付を行い問題の一端になったのだから能力がないと考えるかもしれない。しかし実際、伝統的なビジネスである「社債」の格付においてはずっと素晴らしい価値を提供してきている。
 また、中小企業や個人のモニタリングについては、ビッグデータの活用が期待できるエリアだと思われる。特に個人に関していえば、給与口座の入出金情報とJICCなどの信用情報機関の情報だけでも十分なモニタリングができるのではないかと思う。

「ニーズのミスマッチ」
 前回、「1.元本額」、「2.リスク」、「3.満期」、の3つのミスマッチがあるという話を書いた。

「1.元本額」のミスマッチ
・システムを少額からでも対応できるようにすることで十分に対応が可能だろう。

「2.リスク」のミスマッチ
・私たち個人が適切にリスクを分散させることは難しい。
・そこでカンパニーリスクプレミアム部分をCDSで外部の金融機関へ外し、引き受けた金融機関がリスクを分散させるという方法が考えられる。

「3.満期」のミスマッチ
・債権の転売プラットフォームを用意し、現金化をしやすくしておくことが考えられる。
・ただし、小口の債権の需給がマッチすることはなかなか怒らず流動性を確保するのは難しい可能性がある。
・しかし、仮に上で書いたCDSによりカンパニーリスクプレミアムがゼロであれば、ユーザーはどの債権を保有してもリスクは満期までの期間リスクのみとなるので、需給はマッチしやすく、高い流動性を作ることができるかもしれない。

考えられるスキーム

 上記を踏まえて、資金需要がある企業または個人(またはそういった顧客を持つ金融機関)と家計の貯蓄を直接かつシンプルにつなぐプラットフォームを考えると以下のようになる

・資金ニーズのある企業/人が、短期の債権を発行
・格付機関がモニタリング
・債権の発行体にかかるCDSを発行し、保険会社が引受け
・CDSによりカンパニーリスクプレミアムを外したうえで個人へ販売
・転売市場を作り、現金化を可能にし流動性を確保 

新しい融資のカタチを実現している例ー「招財宝」

 実際のこれに近いプラットフォームを実現しているのが、アントフィナンシャルの「招財宝」(信託期限が定められた理財商品の取引プラットフォーム)だと思う。招財宝では、「情報の非対称性」と「ニーズのミスマッチ」という問題を乗り越えるため二つの重要な機能を具備している。

「100%元本保証」
 招財宝では、理財商品を購入する際に100%の元本保証が得られる。招財宝は中国投融資担保有限公司を第三者保証機関として引き入れ、衆安在線財産保険公司(衆安保険)と協力してプラットフォーム上のすべての投資行為について元利の全額保証を実現している。

「流動性の確保」
 招財宝では、「現金化機能」と「予約機能」が用意されている。「現金化機能」は、ユーザーが招財宝で購入した理財商品を担保として現金の借入れができる個人ローンのことで、これにより償還期間前でも現金をてにいれることができる。「予約機能」は、ユーザーが事前に投資金額、期待収益率、信託期間等の条件を設定し、これらの希望に合致する理財商品が売り出されたときに自動で通知を受けられるというサービス。

 あるユーザーが所有する理財商品の譲渡を希望する場合、その利率や信託期間が他のユーザーの希望に合えば招財宝プラットフォームは両者をマッチングし、取引を促す。一つの商品に複数の購入者が集中した場合、システムは自動的に予約順でマッチングを進める。これにより、招財宝は投資家の資金の流動性(現金化のしやすさ) への懸念を解決している。

シンプルかつダイレクトなスキームを

 改めて典型的な資金ニーズを見てみると、それは「事業投資」、「個人の不動産」、「企業の不動産投資」、「消費者金融」の4つが挙げられる。

 このうち「事業投資」は、工場建設といった設備投資ではなくなり、近年では「十分なシェアを獲得するまでの間の赤字補填」という色が強くなっている。よってこうした投資は融資よりもエクイティ性の強い資金がその役割を担っていくことになるだろう。

 よって、一部の「事業投資」(特に運転資金か従来型の設備投資)、「法人/個人の不動産投資」と「消費者金融」が融資の対象となってくると思われる。既に変化が始まっているのは、ECの運転資金への資金融通で、Amazon レンディングがこれにあたる。Amazonは自社のマーケットプレイスに出店する販売事業者の注文状況等がデータでわかることから、かなり容易に運転資金を貸し付けることができる。

 近年急速に伸びているD2Cビジネスの運転資金も同様の形で、資金が調達できるようになっていくのではないかと思われる。特にインフルエンサーによるものであれば、そのアカウントなどのデジタルアイデンティティそのものを担保にする(例えば、返済が滞ったら、アカウントをロックする権利を持つとか。)ことで、貸付を容易できるかもしれない。このように、デジタル時代においては、担保の概念が変わり、有形のものだけでなく、無形のものも担保として使用することができるようになると面白い。

 上記のプラットフォームが実現可能かどうかはわからないものの、少なくともテクノロジーと仕組みによって、「情報の非対称性」と「ニーズのミスマッチ」を回避しつつ、資金を必要としている人と家計の貯蓄をもっとシンプルかつダイレクトにつなげることはできるだろう。ダイレクトにつながればつながるほど、中間マージンは最小化される。

既に始まっている「事業投資」の非バンキング化と細分化

 上記で書いた通り、近年の「事業投資」は事業拡大の間の赤字補填的な意味合いが強くなっており、すでに主戦場は間接金融から直接金融に移行しつつある。ベンチャーキャピタルやPEファンドの規模が日に日に大きくなっているのはこの変化を反映したものだろう。この間接金融から直接金融に移行は、より相手の顔の見えるという効果を生む。これとテクノロジーが結びつき、大きな変化をもたらしつつある。それは金融が単なる「採算」だけでない世界になっていくということ。

 この相手だからリターンが低くても投資するといったものも生まれるようになり、より「共感」が価値をもつ世界になっていく。こうした資金の提供チャネルは、「規模」や「リターン優先/共感優先」に応じて、細分化しながら裾野が広がっていくのだろう。

・「Private Equity」:すでに規模の大きな企業のターンアラウンドや再成長の間の資金を提供するファンド
「Venture Capital」:ベンチャー企業がスケールし、一定のシェアを獲得するまでの資金を提供するファンド。近年では規模が大きくなりつつあり、PEと重なり始めている
「クラウドファンディング」:不特定多数の個人が直接、特定のプロジェクトへ資金を提供するもの。エクイティ型、貸付型、購入型、寄付型と形態にとって「リターン/共感」の濃度が異なる。
「ギフティング」:「純粋にこの人を応援したい」という思いでリターンを求めない資金融通の形。Showroomなどの投げ銭がこれに該当する。テクノロジーにより、気軽に相手が見えるようになったからこそ生まれたカテゴリー。リターンを求めずに資金を提供するというのは、金融的な文脈ではある意味画期的であり、大きな時代の変化である。


 以上が、バンキングがなくても世の中は成り立つんじゃないの?っていうアイデアの一つでした。ビルゲイツが1994年に言った有名な言葉に以下のものがあります。

「Banking is essential, banks are not. (銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる)」

 それから25年を経て、バンキングすらなくなる日がくるのかということを考えるのもおもしろいと思います。そもそも証券投資のドメインを中心にやっているベンチャーの人がなんでこんなこと考えているの?って話ですよね笑。 気になる方がいれば是非DMでご連絡ください!!

Twitter ID:110110110110
 

<参考図書>
・「ジ・エンド・オブ・バンキング 銀行の終わりと金融の未来」ジョナサン・マクミラン (著)
 -匿名の人が書いた本。あまり有名ではないが、この手の本の中でもっと素人向けに非常にわかりやすくまとめられており、下の2冊を理解するうえでのベースができる本

・「錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来」マーヴィン・キング (著)
 -世界金融危機を収拾した立役者のひとりであり、「錬金術師」とも呼ばれた元イングランド銀行総裁が書いた本。金融システム論とマクロ経済学を行き来する超刺激的かつ超長い本 

・「金融に未来はあるか――ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実」ジョン・ケイ (著)
 -日本のコーポレートガバナンスコードも参考にした「ケイ・レビュー」を発表したエコノミストが書いた本。原題である「Other People's Money」がしっくりくる内容

・「アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム」廉薇 (著), 辺慧 (著), 蘇向輝 (著), 曹鵬程 (著)
 -アントフィナンシャルについての情報が体系的に吸収できる本。「QR決済」や「余額宝」は表層に過ぎず、彼らの全く新しい金融エコシステムを作ろうとしている姿を知ることができます。
 

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