房総カメラマンヒロタケンジの余白から生まれる自然な生き方・働き方
自分の商品作りやサービス立ち上げをしたいと思っても「すぐに結果を出せる自信がない」「続けられるか分からない」と二の足を踏んでしまう人もいると思います。
房総エリアを中心にカメラマンとして活動するヒロタケンジさんは、趣味としてカメラに触れてから10年以上経ったのちにカメラマンの仕事を始めました。
風景写真からポートレート、ドローンを使った空撮まで幅広く手掛けています。
東京の移り変わる街並みを記録するためカメラを始めた20代
カメラでの撮影を始めたのは約20年前、秋葉原でパソコンショップの店員をしていた頃です。
初めて手に入れたのはCanonのカメラでした。
東京の古い街並みや昭和の風景を記録したくて、自転車で出かけては街並みを撮影していましたね。
木造の建物やスカイツリーができる様子などを撮っていました。
カメラマンとして食べていくまで約15年
最初に写真でお金をいただいたのは、パソコンショップの店員時代から数えると約10年後です。海外放浪の旅をしている時でした。
写真週刊誌を発刊している会社から「旅の写真を使わせてもらいたい」と、掲載料という形で5,000円ほどいただいたのが最初です。
今も運営しているブログ経由でのご連絡でしたね。たまたまです。
カメラマンとして自分から動き始めたのは、そこからさらに約2年後。
“50円出張撮影キャンペーン”としてページを立ち上げて、70件近いご依頼をいただきました。
「値付けが分からないな。まぁ安くてもいいからやってみよう!」と始めました。
当時は追い詰められていて、モヤモヤしている時期でした。2月に海外放浪の旅から帰国したものの、就職するのは気が乗らなくて。
「ブログ収入で生きていこう!」と考えていましたが、2~3ヶ月間ブログに集中しても月200円しか稼げなく、憂鬱な日々でした。
お金の不安や焦りの中で、もがいた中のひとつが“50円出張撮影キャンペーン”です。
みなさん喜んでくれたので、このときに「需要はあるんだな」と感じることができました。
そこからカメラマンとして食べていくまでは、さらに約2年かかっています。
2018年に“クリームソーダ純喫茶めぐり”の仕事をいただいたあたりから、仕事の波がきたように思います。
僕の好きな昭和レトロと旅を掛け合わせたお仕事で、出版社の編集者さんからも「ヒロタさんに頼むしかないと思いました!」と言われたくらいです。
この編集者さんもインターネットで僕を見つけてくれたようでした。
フリーランスの聖地で持ちつ持たれつの暮らし
カメラマンとして食べていけるようになるまでの間、アルバイトなどはしていません。少しのカメラマンの収入と貯金を頼りに暮らしていましたね。
当時、富津(ふっつ)市金谷(かなや)のコワーキングスペースまるもの周辺にはフリーランスの若者が集まって暮らしていました。
田舎フリーランス養成講座(現・ワークキャリア)の開催拠点だったこともあり、“フリーランスの聖地”なんて呼ばれていた時期です。
「プロフィール写真を撮ってほしい」と依頼されたり、「シェアハウスに無料で住んでいいから管理人をしてほしい」と相談されたり。
持ちつ持たれつの関係性があったんです。
自分一人が暮らすだけなら、お金はそんなに必要ありませんでした。
「もっとこうできたのにな」という想いをもとに改善を繰り返す
スキルを高めるためにしていることといえば、仕事をする中で出てくる「もっとこうできたのにな」を改善していくことでしょうか。
「別のレンズがあれば」
「ドローンがあればもっとダイナミックに撮れたのに」
「ガンマイクじゃなくて、ピンマイクで録音するべきだった」
仕事をする中で「もっとこうできたのにな」と感じた時に、それをどう解決できるかを調べながら幅が広がってきた気がします。
お客さんが喜んでいても、自分が満足してくれないんです。
自分の中に理想があるんでしょうね。
無理のない人間関係を築くための程よい距離感
(もともとコミュニケーションが得意な方ではないそうですが、お友達や知り合いが多いですよね、といった伊藤の言葉に対して)ありがとうございます。
もともと得意じゃないからこそ、絶妙な距離感をとっているのかもしれません。
近づきすぎない、馴れ馴れしくしない、近づかれすぎたと感じた時には距離を取る。
そういえば、両親やパートナーにも敬語で話すことが多いです(笑)
人とのご縁は付かず離れずで、時が満ちたら近づくし、また時が経てば離れるし、波がありますよね。
それを無理やり追い求めないようにしています。
交差点が交わる時に遊んだり仕事したりすれば、それでいい。
お近づきになりたい人に対しても、距離を詰めすぎないようにしています。
憧れのAMBESSA&COさんとは、お店にお邪魔したり、クラウドファンディングの支援をしたりしているうちに、自然と顔見知りになれました。
程よい距離感や時間の流れに身を任せるスタイルが自分に合っているのか、仕事の約8割は知り合いやその方の紹介によって成り立っています。
ありがたいことですよね。
“自分の仕事”は、開店休業状態でもいいじゃないですか
カメラマンを続けられた理由は、やめてないからだと思います。
やめないだけでも「この人はこれ」というイメージが定着するので、開店休業状態の時期があってもいいじゃないですか。
力を注いできた活動をすぐに手放す人を見かけると「看板をおろさなくたって、掲げ続けるだけでもいいじゃないの」と思うことがあります。
他の活動が忙しくなったとしても、ご依頼がある限りはカメラマンを続けるつもりです。
過程を味わえるスピード感を大切に
目標や期限はほとんど決めていません。
脱サラした頃から「喫茶店をやりたい」と考えていましたが、本格的に動き出したのは今年からという、そのくらいのスピード感です。10年ほどかかってますね。
過程が一番楽しくて、そこを味わいたいんです。
景色をゆっくり楽しめるスピード感を大事にしたい。
新幹線では見逃してしまう景色を見ていたい。そう思っています。
仕事の依頼件数は月によって波がありますが、これも自然なことと思っていますので、あまりジタバタしないようにしています。
仕事が少ない時は、家の手入れをするチャンス。
大きな岩を動かしたり、木の根っこを抜いたり、竹の整理をしたり。時間のかかることに取り組むいい機会になります。
安定したものに寄りかかっても、なくなった時が怖いじゃないですか。
もちろん安定が崩れた時のためにリスクを分散しておくのも素晴らしいのですが、波を許しながら生きてもいいじゃない、と考えています。
忙しくしたくない、過程を楽しみたい、余白を大事にしたい。
それで2月にはじめた喫茶店も「余白」と名付けました。
これからは人と会う理由を作っておしゃべりしたい
これからやりたいことは、喫茶店作りです。
ですが喫茶店で食べ物や飲み物を出すこと自体が目的ではなくて、人と会う理由を作っておしゃべりしたいのかも、と気付きました。
カメラマンの仕事も人と会っておしゃべりできる楽しい仕事ですが、依頼するには数万円かかるじゃないですか。
単価が高いし、たくさんの人に会えるかといえば、そうとも限らないです。そもそも別に写真を必要としない人も多いですよね。
飲食業は単価が安めなので、気軽にいろいろな人が会いに来てくれそうでいいな、と感じます。
「飲食は単価が安くて素人がやるには大変じゃないの?」と思われますが、僕の理想を考えた時には、むしろ単価が安いからこその良さもあるのではないかと想像しています。
稼げる稼げないよりも、やりたいことをやることを第一条件にしています。
そこからどうやってお金を増やすのか?それは、僕にとって第二の条件です。
2月からカフェを間借りしてカレー屋さんに挑戦していますが、次はキッチンカーで販売したいです。軽トラも無事に手に入りました。
いずれは家を改装して「山奥喫茶 余白」を運営する予定です。
カメラマンの仕事以外にも、自分の仕事をつくっているところですね。
山奥へのこだわりは、世界放浪の旅をしたときに自然の素晴らしさを感じたことがきっかけになりました。
明確な目的なくスタートした旅でしたが、文化、景色、自然を見ているうちに自分の心が反応するものと拒絶するものがハッキリしてきたんです。
旅はインプットが多すぎるのですべては受け止められないけど、疲れが吹っ飛ぶほどの景色もあって。
旅は、自分が何に反応するか?を確かめるための自己理解の機会になりましたね。
「あわただしい都会から離れた自然な環境が好きなんだ」と気づいたのも旅のおかげです。
何も見つからなかったり、迷ったりしている人は、旅に出てみるのも一つの手だと思います。
自分の仕事をつくりたい人に向けたメッセージ
はじめは芽が出なかったり、上手くいかないことがあったりすると思います。
ですが上手くいかないからといってやめてしまうと、それで終わりです。
続けること、やめないことが大事なのではないでしょうか。
僕自身はカメラマンとして大きく弾けているわけではありません。
それでも長く続けていると、いろいろと絡み合うのが面白いです。
カメラマンとしてのお客さんがカレーを食べに来てくれたり、逆にカレーを食べに来た人がカメラの依頼をしてくれたり。
全部つながっているんですね。
これからもカメラマンや山奥喫茶 余白の活動を通して、人との交流が生まれるのを楽しみにしています。
(企画・取材・文:伊藤七)
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