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わたしの本棚93夜~「身分帳」
西川美和監督の映画「すばらしき世界」の原作です。友人が読んで、面白かったけれど映画と違うよ、と聞いてました。偶然、FBで友人の友人からも薦めていただき、映画がよかったので、文庫本で読んでみることにしました。
復刊版は、全帯に「すばらしき世界」と印字され、役所広司が表紙です。はずすと本来のカバーになります。ぴったりと二枚になっていました。 解説は初版当時の秋山駿氏と復刊にあたっての西川美和監督です。 画像はTwitter.comさんより借りました。
☆「身分帳」 佐木隆三著 講談社文庫 840円+税
解説の秋山駿氏の言葉「本当の作家は、生涯を貫いて追及すべき主題をもっているものだ。佐木隆三の文学の主題は犯罪である」とあります。
西川美和監督「身分帳のことは知らなかった。(略)こんなに面白い本が絶版状態にあるとは。世の中はなんと損をしているんだろう。そしてなんと私は幸福なんだろう。いっそこのまま誰の目にも触れないうちに、私がこっそり映画化する」そして、映画化された作品が「すばらしき世界」です。
人生の大半を刑務所で過ごした男、山川一(映画では三上という名前で役所広司が演じています)が旭川刑務所から満期で出所します。身寄りのない山川ですが、弁護士、スーパーの店長、ケースワーカーなどの人とのふれあいにより、新しい生活を歩みだします。
映画で重要な役になるデイレクターであり小説家の津乃田(仲野大賀)は、小説にはいません。同じアパートに住むコピーライターの角田という男が出てきますが、一緒に福岡に行ったりせず、主人公から離れていきます。
小説では福祉事務所の仲人で集団お見合いもあります。
前妻久美子の描き方が、小説では重要で(映画では安田成美)、主人公に影響を及ぼしています。母親を訪ねて福岡の孤児院へは、小説では主人公ひとりで行きます(映画では津野田と)。ラストも久美子の紹介により福岡へ向かうところで終わるのが小説であり、映画とは全然違います。小説は、どちらかというと、秋山駿氏の解説にもあるように、純文学系であり(伊藤整文学賞受賞)、身分帳や裁判の記録も詳細に書かれています。
身分帳は、被収容者の名誉、人権に関する事項及び施設の適切な運用管理上必要な事項が記されているもので、外部に対して秘として取り扱うものだそうです。学習ノートには、新聞欄の詩歌や山川氏の俳句や短歌もありました。
獄に生きる我にも欲しや宝船
凍傷の手で貼る今日の袋かな
しみじみと美空ひばりの唄を聞く懲罰ありし昼のラジオ
人は皆家あり妻あり子供あり我に家無く有るは前科のみ
映画に劣らず、小説も主人公山川一が憎めない人物であり、読み応えありました。そして、小説のなかで弁護士の言葉として「人間は社会的動物で、一人では生きていけない」とあるように、まわりの人の助け、スーパーの店長や弁護士やケースワーカーの助けがあります。何度か落涙しましたが、小説を読んでも「すばらしき世界」は感じられます。空がどこまでも続いているかぎり・・・。
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