マガジンのカバー画像

わたしの本棚

159
本棚にある本を紹介しています。
運営しているクリエイター

#新潮社

わたしの本棚146夜~「天上の花」

わたしの本棚146夜~「天上の花」

 今年の冬、片嶋一貴監督で映画化されることを知って、原作を読んでみました。映画は、三好達治を主人公とし、戦争の時代に翻弄され、詩と愛に葛藤し、懸命に生きた人々を描く文芸ドラマだそうです。小説の方は、作者萩原葉子さんが、三好達治と父萩原朔太郎との関係、叔母の慶子さんと三好達治のロマンス、慶子さんと別れたあとの16年、達治が独身に戻り、文学を志した葉子さんとの接点などを描いています。第55回芥川賞候補

もっとみる
わたしの本棚111夜~「小説8050」

わたしの本棚111夜~「小説8050」

 ママ友さんに「面白かったよ」と言われて、借りて読んだら、本当にノンストップの面白さでした。ページをめくる手がとまらない本であり、睡眠時間を削って読みました。あとがきによると、「週刊新潮」に連載したものであり、新潮社内に編集者さんたちと「チーム8050」をつくり、2年間伴走したとあります。NHKの朝イチに出演されたときには、実際の農水事務次官殺人事件からヒントを得たと言われてました。

 引きこも

もっとみる
わたしの本棚103夜~「空白の天気図」

わたしの本棚103夜~「空白の天気図」

 緻密な調べによる熱量のある本でした。読後、ずっしりと胸に迫るものがあって、読書の幸福感を味わえた本です。

 2016年公開の片淵監督「この世界の片隅に」を30分長くした(シーンを増やした)2019年公開の「この世界のさらにいくつもの片隅に」のDVDを借りてみました。そこには、広島原爆のあと、9月17日の枕崎台風による被害も描かれていました。主人公すずさんの住む呉市の北条家も屋根が壊れ、家の浸水

もっとみる
わたしの本棚101夜~「オルタネート」

わたしの本棚101夜~「オルタネート」

 直木賞候補、本屋大賞候補、吉川英治文学賞新人賞受賞作です。著者がジャニーズの加藤シゲアキ氏というので、話題が先行しましたが、現代の都会の高校生の青春群像劇として、面白く読みました。

 オルタネートという高校生限定のアプリを鍵にし、「ワンポーション」というネットでの調理選手権といった今風の環境のなか、ラスト、文化祭での悲喜こもごもへとの加速は、読後感が爽やでした。

☆オルタネート 加藤シゲアキ

もっとみる
わたしの本棚72夜~「博士の愛した数式」

わたしの本棚72夜~「博士の愛した数式」

 本棚にある本をとって、眺めているといろんな思い出がよみがえり、それで書くのは楽しいです。ただ、際限なく書くのもどうかと考えて、やはり、12月末でいったん、このシリーズは終わりにしようと思っています。

 小川洋子さんの作品は、芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」や「薬指の標本」「冷めた紅茶」など、どこか病的(失礼な言い方になりすみません)な感じが全体にする作品がある一方、「博士の愛した数式」のように優

もっとみる
わたしの本棚35夜~「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」

わたしの本棚35夜~「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」

34夜の「かがみの孤城」が全くのフィクションでSF的な要素もあるなかで、中学生のいじめを扱ったものでありましたが、この作品は、ノンフィクションでイギリスの格差社会の中での学校生活、いじめなどを扱ったものでした。こちらは主人公である母子がまっすぐで、できすぎ感がありましたが、時に涙しながら、イギリスの格差社会、教育間格差など、知らなかった世界でもあり、興味深く読みました。

☆「ぼくはイエローでホワ

もっとみる
わたしの本棚24夜~「デトロイト美術館の奇跡」

わたしの本棚24夜~「デトロイト美術館の奇跡」

 小さいころから成りたい職業があったりする人は稀で、たいがいの人は18歳のとき、ぼんやりと自分の将来を想像するのではないでしょうか。卒業して就職してしまうとそれまでで、日々の生活に追われてしまいます。作者の原田マハさんは関西学院大学文学部を卒業したのち、就職し、美術関係の職業に就いたこともあり、もう一度、早稲田大学第二文学部美術学科を受けなおしたという経歴の持ち主です。美術に関する豊富な知識から紡

もっとみる
わたしの本棚21夜~「君がいないと小説は書けない」

わたしの本棚21夜~「君がいないと小説は書けない」

 表現者は覚悟がいる、と言った女の先輩がいます。自分をさらけだす覚悟がないと良い作品は生まれない。なかでも小説家は、闇の部分をさらけだす覚悟がいる業の深い職業だと思います。白石作品の中では、直木賞受賞作「ほかならぬ人へ」が好きで、恋愛小説の名手と思っていた氏にもこんな辛い体験があったとは、自伝的体験のこの小説を読んで、改めて、書くことの業の深さを感じました。

☆「君がいないと小説は書けない」白石

もっとみる
わたしの本棚16夜~「首里の馬」

わたしの本棚16夜~「首里の馬」

ひとつの作品に対して、選考委員と候補作によって、これだけ評価が異なるものなんだなあ、と今年の芥川賞と三島由紀夫賞の選評を読んで感じました。両賞にノミネートされたのは、「首里の馬」だけでした。芥川賞では、各選考委員の好評価が多く、松浦寿輝氏などは絶賛されていましたが、三島由紀夫賞では欠点をいう選考委員もおり、川上弘美氏は5作品中最下位だと、はっきり明記しています。賞というものは候補作中の相対評価であ

もっとみる