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わたしの本棚

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2020年10月の記事一覧

わたしの本棚28夜~「星の子」

わたしの本棚28夜~「星の子」

今秋、話題の邦画は、「望み」(堤幸彦監督)「朝が来る」(河瀬直美監督)星の子(大森立嗣監督)と、どれも原作の小説が素晴らしい作品です。

「望み」と「朝が来る」は、物語性の強い、登場人物の喜怒哀楽のはっきりした作品で、映画でも小説でも読者の登場人物への共感や理解は変わらないと思います。ただ、この「星の子」は、小説が芥川賞候補になるだけあって、純文学系であり、主人公の心が鮮明には描かれていないので、

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わたしの本棚27夜~「FACT FULNESS」

わたしの本棚27夜~「FACT FULNESS」

☆「FACT FULNESS」ファクトフルネス ハンス・ロスリング著 日経BP社1800円+税

 世界はわたしが思っていたほど悪くないんだ、というのが読後、まず一番の感想でした。思い込みや憶測によって、事実が歪んでいること、自分の世界に関する見解が間違っていることを知りました。

例えば質問1、現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょうか? 答えは、60パーセントにものぼる。

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わたしの本棚26夜~「さざなみのよる」

わたしの本棚26夜~「さざなみのよる」

☆さざなみのよる 木皿泉著(河出書房新社)1400円+税

 小国ナスミ、享年43歳。癌でなくなる前後の彼女自身、彼女の身内、友人、少しだけ人生をともにした人たち、の目を通して、ナスミの死というものが描かれます。14話からなる話は、どれもふっと涙腺の緩むもので、市井の平凡な女性にすぎないナスミの生き方が、周りの人に、希望や勇気を与えるさまは、さざなみのように広がっていきます。

とにかくセリフがい

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わたしの本棚25夜~「流浪の月」

わたしの本棚25夜~「流浪の月」

 毎年、本屋大賞の受賞作品は楽しみに読んでいます。書店員さんが選ぶというのが良くて、一般の読者の感情に共感する作品が選ばれることが多いから好きです。ただ、今年の作品、わたしには少し生き苦しすぎました。文章上手く、一気に読ませますが、繊細すぎて痛々しく、わたしは、どちらかと言うと、川上未映子著「夏物語」の明るい貧乏のバイタリテイの方が好きでした。

☆「流浪の月」凪良ゆう著(東京創元社)1650円(

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わたしの本棚24夜~「デトロイト美術館の奇跡」

わたしの本棚24夜~「デトロイト美術館の奇跡」

 小さいころから成りたい職業があったりする人は稀で、たいがいの人は18歳のとき、ぼんやりと自分の将来を想像するのではないでしょうか。卒業して就職してしまうとそれまでで、日々の生活に追われてしまいます。作者の原田マハさんは関西学院大学文学部を卒業したのち、就職し、美術関係の職業に就いたこともあり、もう一度、早稲田大学第二文学部美術学科を受けなおしたという経歴の持ち主です。美術に関する豊富な知識から紡

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わたしの本棚23夜~「聖者のレッスン」

わたしの本棚23夜~「聖者のレッスン」

 今年2月に伊丹市で、作者の四方田犬彦先生の講演会がありました。質疑応答、懇親会もあったので、そのために氏の最新の本(2019年10月発行で、当時の最新刊でした)を読んでおこうと購入したのがこの本でした。正直、西洋史の知識と教養に乏しい私には、難しかったです。東京大学の映画講義だそうで、実際の授業では関連するDVDを授業でみて、説明をすると書かれていました。

☆「聖者のレッスン」四方田犬彦著(河

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わたしの本棚22夜~「望み」

わたしの本棚22夜~「望み」

 映画の先輩から、堤幸彦監督の最高傑作ではないだろうか、石田ゆり子の演技がいい、など聞いていたので、映画を先に観ました。主演の石田ゆり子×堤真一の迫真の演技、脇を固めた清原果耶、竜電太など素晴らしい演技で2時間、泣きながら見てしまいました。映画と小説は基本的には別の創作物(表現方法)と思っていますが、この作品、小説(原作)を読むと、映画が原作にとても忠実であったことがわかりました。小説は結末を知っ

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わたしの本棚21夜~「君がいないと小説は書けない」

わたしの本棚21夜~「君がいないと小説は書けない」

 表現者は覚悟がいる、と言った女の先輩がいます。自分をさらけだす覚悟がないと良い作品は生まれない。なかでも小説家は、闇の部分をさらけだす覚悟がいる業の深い職業だと思います。白石作品の中では、直木賞受賞作「ほかならぬ人へ」が好きで、恋愛小説の名手と思っていた氏にもこんな辛い体験があったとは、自伝的体験のこの小説を読んで、改めて、書くことの業の深さを感じました。

☆「君がいないと小説は書けない」白石

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わたしの本棚20夜~「MAGMA」

わたしの本棚20夜~「MAGMA」

伊藤桂一、駒田信二、林富士馬、真鍋呉夫の4氏編集により創刊された「公園」の流れを継承して昭和56年に創刊された「MAGMA」。命名は真鍋呉夫氏で、氏の文学姿勢、熱情を受け継いでいるという。30年近く休止状態にあったのが、平成28年復刊したそうです。

☆「MAGMA」墳の巻  村上玄一、佐藤光直、中村桂子編集(幻戯書房)920円+税

 林真理子氏、吉本ばなな氏、三谷幸喜氏など多彩な人を輩出してい

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わたしの本棚19夜~「人生の勝算」

わたしの本棚19夜~「人生の勝算」

☆「人生の勝算」前田裕二著 (幻冬舎)1400円+税

 読後すぐに、清真、という言葉を思いだしました。さらりと書いておられるけれど、8歳で両親を失うって凄い体験だと思う。親戚の家にひきとられ、路上ライブでお金を稼ぐ。現代の日本で明らかに貧困な部類に入る幼少時代を過ごしても、挫けたりぐれたりすることなく、立派に、こんな凄い会社を立ち上げたなんて。少年の心を思うと、歌を歌ってる姿を思い描くと、胸が痛

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わたしの本棚18夜~「希林さんといっしょに。」

わたしの本棚18夜~「希林さんといっしょに。」

 樹木希林さんが亡くなって2年が経ちます。生前の希林さんの言葉や行動をあらわした本が出版され、話題になりました。この本は、是枝監督が希林さんと出会ってからの12年の間、雑誌「SWITCH」で行ったインタビューをもとにしたもので、人生訓的なものではなく、役者と監督という立場を超えて人間対人間という立場で発せられ、それゆえ双方の信頼関係が胸打つ本でした。

☆「希林さんといっしょに。」是枝裕和著(スイ

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わたしの本棚17夜~「ファーストラヴ」

わたしの本棚17夜~「ファーストラヴ」

 子どもは親を選べない。完璧な親などいない。子どものためと思ってのことが深い傷になってしまうことがあったり、親の価値観が子どもを傷つけたり。傷つけられた子どもたちの慟哭を思うとき、切なさと哀しみとそれでも生きていかなくてはならないどうしょうもなさを思いました。

☆ファーストラブ 島本理生著(文藝春秋)1600円+税 

父親を刺殺した女子大生環奈、両親から心に深い傷を受けて育った臨床心理士の主人

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わたしの本棚16夜~「首里の馬」

わたしの本棚16夜~「首里の馬」

ひとつの作品に対して、選考委員と候補作によって、これだけ評価が異なるものなんだなあ、と今年の芥川賞と三島由紀夫賞の選評を読んで感じました。両賞にノミネートされたのは、「首里の馬」だけでした。芥川賞では、各選考委員の好評価が多く、松浦寿輝氏などは絶賛されていましたが、三島由紀夫賞では欠点をいう選考委員もおり、川上弘美氏は5作品中最下位だと、はっきり明記しています。賞というものは候補作中の相対評価であ

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わたしの本棚15夜~「破局」

わたしの本棚15夜~「破局」

 ホラーとSF、ファンタジー小説の他は、作者が投影されている方が成功することが多いと思います。体験や等身大の主人公を描くことで、自分をさらけだすことで、活写される文章は魅力的です。この小説は、作者を彷彿させる主人公です。しかも、作者は憂いを帯びたイケメンで、父親はBUCK-TICKのボーカル櫻井敦司氏。今年下半期の芥川賞受賞作。

☆「破局」遠野遥著 (河出書房新社) 1540円(税込み)

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