Vol.7 わたしの不動産人生 ~注文建築の部署へ出向編②~
こんにちは。
nUe(ヌエ)株式会社の今井です。
出向編②では、たった二ヶ月の出向期間の中、どのような心境の変化が生じたのか。
その続きを書きたいと思います。
■固く禁止された新規客の接客行為
出向中にわたしに課せられた仕事は以下の通りでした。
・クライアントの土地探し
・オープンハウスの設営準備
・S部署で建てた建物をひたすら見ること
固く禁じられていたのが、一人で新規顧客に接客をすることでした。
前回(note記事vol6)に書いた通り、建物を知らない素人営業がクライアントの前に出てS部署の品位を下げる行為をボスは絶対に許さなかったため、接客同行しかできませんでした。
基本的にはボスが認めた人しか接客を許されませんでした(;・∀・)
不動産部署の人間ということもあり、触れてはいけない領域という緊張感が部署全体に漂っている感じでした。
S部署は『ブランディング』に対してのものすごく力の入れており、住宅だけではなく、作られる制作物や事務所の雰囲気、スタッフの立ち振る舞いなど、世間や業界に対しての体裁にとても気を使っていました。
私服がダサかったりしただけであの怒られようですから、ありとあらゆるところに目を配らせていたのが分かります。
ちなみにダサい車を乗っているだけで怒られていました(笑)
ボス『いいか、今井。基本は俺が認めた少数精鋭なやつしか接客することは許さないからな。』
とマジなトーンで言われました(;・∀・)
わたしは不動産屋なので、めっそうもございませんっっっm(_ _)m
ボス『俺も今井と同じで不動産出身の人間なんだよね~。だから今井くんもやる気があれば何でもできるよ。』
なんとっっ!!
それは驚きでした。
S部署のボスは数年前まで不動産事業部の責任者だったのですが、当時に建てた自邸が全く素敵ではなかったらしく、そのことが悔しくて、他部署に中途で入社した有能なデザイナーいるという噂を聞きつけては、勧誘を行い、今の部署をつくる構想を練ったようです。
しかも事業部長であるボス自らがいまだに現役で接客して契約するとのことだったので、物凄く驚いたのを覚えています。
他部署の事業部長が営業第一線でやっているなんて聞いたことありません。
ボスの接客を何度か見て自らが接客する理由が分かりましたが、とにかく素敵な住宅が好きで、それをお客様に建てて欲しくて、その時間が楽しくて仕方ないという感じでした。
後にわたしも多大なる影響を受けることになりますが、お客様との距離がとても近く、まるで長年の友人と家づくりをしているような感じ。
なによりもお客さんが凄く楽しそう(*‘∀‘)
しかし、当時のわたしにはとてもじゃないけどそんな楽し気な接客対応はできません(;・∀・)
わたしは一人で接客するなんて永遠に無理だと感じていました。
■とにかく常識外れだったS部署の組織戦略
S部署では当時、ボスを含めプロデューサーといわれる営業がたったの6~7人ほどでした。
年間100棟以上やる部署だったため、1人平均で年間14~15棟受注するという業界では考えられない数字でした。
他部署では1人平均が年間3~4棟だったため、S部署のプロデューサーは全員トップ営業ではないかと思わせるほどの数字でした。
デザイナーは倍以上の人員がおり、そのほとんどが中途採用で設計事務所経験がある人ばかり、設計力の高い人が多いという点も特徴でした。
さすがボスに認められた人しか所属できない最強軍団(;´∀`)
ハウスメーカーでは営業人員がとても多く、設計人員は少ないのが当たり前な世界だったため、S部署の人員構成を見ても、設計に対しての力の入れ具体は一目瞭然でした。
S部署が中でも驚異的だったのが、桁違いな集客数でした。
S部署はコストがかかるという理由でモデルハウスがありません。
完成したお客様のお家を2日間だけお借りして、オープンハウス開催するという手法でした。
当時の注文住宅の営業戦略は住宅展示場に豪華絢爛なモデルハウスを建てて集客するのが主流で、実際に限られた予算の中で建築された建物はあまり披露できるレベルには達しないため、とにかくモデルハウスに力を入れており、S部署のように実際の完成物件をたくさん披露することはとても珍しいのです。
初めて待機したオープンハウスは2日間で来場が10~20組あり、しかも高い確率で商談になる案件ばかりです。
毎週オープンハウスを行っていたので、月に50~60件近い案件数が発生していたため、ブランディングとマーケティング戦略の凄みを感じました。
これを行うにはいくつかのハードルがあります。
・完成物件が素敵であること
・ご自宅をお借りできるほど良好な人間関係と満足度の高さ
・素敵なお家に見合った広告デザイン
実際にこのチラシを作ってもらいたいと思っているお客様も多く、チラシをスクラップブックにまとめてファイルにして持参するお客様もおりました。
本当にとんでもない部署に出向になってしまったという恐怖感と、このビジネスモデルの凄さを肌で感じられるという優越感が入り混じった不思議な感覚でした。
オープンハウスは建物を打合せ中のお客様もいらっしゃいます。
打合せ中のお客様も建物完成までに15〜20棟以上は実物を見学しながら検討できるので、嬉々としてオープンハウスに訪れます。
結果、オープンハウスの開催中はお家の中がお客様で溢れかえっていて、その光景は今でも鮮明に覚えているほど人が賑わい、エネルギーに溢れていました。
■とにかく大量に探した土地探し
S部署は常に土地探しを具体的にしている顧客が沢山いたため、埼玉、千葉を中心に様々な沿線の土地をとにかく検索をしまくりました(;´Д`)
先輩S『いまい~。伊勢崎線で1500万円以下の土地探しておいて~。明日までにね。』
先輩D『いまい~。京浜東北線で土地が小さくても良いから、今日までに紹介できる土地を探しておいて~。』
こんな感じで、毎日毎日、様々なリクエストの土地検索依頼がどしゃぶり雨のように降ってきます。
不動産部署ではまず見込のお客様を確保することが困難だったため、真逆の苦しみでした。
事務所にいると、
『いまい~( ゚Д゚)』『いまい~( `―´)ノ』『いまい~(‘Д’)』
とあらゆる角度から、色んな人に呼ばれまくり。
その度に立ち上がり、駆け付け、クライアント情報を確認するため、ゆっくり座って物件検索すらできませんでした。
来る日も来る日も土地探しで、頭がパンクしそうになり、出向期間中は家にほとんど帰れず事務所で毎日徹夜の連続(@_@;)
この期間だけでも数千件は土地資料に目を通していたため、だんだんと感覚的に良い土地と悪い土地を瞬時で見極められる能力が身に付きました(笑)
だんだんとコツを掴んできたので、先輩からもっとクライアントの内容を深堀して内容を聞き出し、言われた通り探すばかりではなく、希望からは外れていても、このクライアントにはこの土地が合っているのではないかという機転も利くようになり、様々なリクエストに柔軟に応えるようになっていきました。
その内、土地契約も当然発生するため、寝る間を惜しんで専門書に目を通し、土地取引経験がある先輩に確認するなど、とにかくビビりな私はとんでもないミスを犯さないように細心の注意を払って、土地の契約手続きを行っておりました。
以前にもnote記事で書いていた通り、土地は専門性が必要でリスクがある割には取引額が低い分、仲介手数料はそこまで入りません。
しかし、わたしにとって専門性を確実に身に付けることができている実感は、とても満足度が高いものでした。
ただ、若さだったのか、このハードワークに体が慣れていくのは不思議な感じ(;・∀・)
たった二ヵ月の経験がここまで自分に自信を身に付ける結果になるとは夢にも思いませんでした。
■禁断の一人で接客対応
S部署でのお客様は本当に良い方ばかりで、どのお客様も気軽に話しかけられる関係性でした。
色んな打ち合わせも同席をさせてもらいましたが、雑談が中心で趣味の話しや、プライベートの話しなど、その人の人間性が分かる位までしっかり話し込みます。
ただ、その雑談がとても重要で、その人のキャラクターが分かることで、提案する建物の空間が変わるため、楽しそうにきちんと雑談をしているように感じました。
何かクライアントの潜在的な希望を引き出すような。
なので、実際に建った建物は同じ家はなく、不動産の人間からしてみると、同じ大きさの建物を取り扱っているのに、全く違う建物に見えていて、しかも居心地がとても良く、視線も抜け、開放的で、何時間も滞在したくなるような空間ばかりでした。
実際の坪数はそんな大きくない家も多かったのですが、体感はその坪数以上に感じるという不思議な感覚でした。
不動産屋のわたしにとって、ハンマーで頭を叩かれたような衝撃でした。
今まで不動産屋として見てきた建物は何だったんだ~(=゚ω゚)ノ
不動産の人間は駅の距離、金額、間取、坪数のみで良し悪しを判断しており、お客様側も同じ判断基準であることが多かったため、それは双方が違和感なく受け入れている不動の価値観だといえるでしょう。
しかしS部署の概念ではその価値観はさほど重要ではありませんでした。
毎日過ごす家における、ライフスタイルに合わせた空間作りが住宅にとって最も大事なことだったため、敷地条件が悪くても価格が極端に安い土地など、クライアントが求める空間に対しての土地探しを行います。
そんな新しい価値観を目の当たりにして、今まで見てきた不動産の世界が180度変わっていきました。
『休みの日、もしたったお一人でお家に過ごす時間があったら、どんなことしていますか?』
これはS部署がクライアントにヒヤリングする重要な質問項目でした。
この質問をするとほとんどのお客様は即答できず、脳みそをフル回転させながら想像して、自分自身を考えて、その質問に答えていく感じでした。
一般的にメーカーは『何LDK希望ですか?坪数は?何畳ほしいですか?』が聞く質問で、当然クライアントもその質問に答える準備をしているので、そりゃ休みの日の一人の過ごし方を聞かれたら、一瞬フリーズしますよね(;’∀’)
この質問を同席しながら聞いていたわたしは接客中の話しも聞かず、妄想の世界にダイブ(笑)
『休みの日に1人でどんなこと過ごすかな~(*’ω’*)。』
『リビングのソファに座ってゆったり本をみたいな~(*´ω`)。』
『テラスでコーヒー飲みながらもいいな~(*´з`)』
妄想はそのまま止まらず、接客が終わった後、自分で間取を書いてみました。
建売の間取を書く練習は不動産部署で教えてもらっていたので、建売の間取ではなく、自分の欲しい空間を書いてみました。
これがまた面白く、S部署には参考になる間取が山のようにあったので、こっそり見ては自分の求める空間の参考にしていました。
そして、こっそり完成した自分の家の間取空間(*’▽’)
だんだんとこの楽しさを話したい、家の話しをしてみたい(/ω\)
ボスには固く禁じられていた接客ですが、その恐怖心よりも欲望が勝り
『ボスにばれないように、誰もいないタイミングを見計らってやっちゃえ~(=゚ω゚)ノ』
となってしまいました。
まずはS部署のことを話せるようにボスや先輩のアプローチブックをこっそりのぞき見しまくり、今井オリジナルアプローチブックを作成(´艸`*)
そこに手書きで書いた自分の家の間取を入れて、準備万端。
『もし、バレたらボスに殺されるかもな。』と一抹な不安を抱きつつ。
ボスや先輩プロデューサーたちはいつも接客で忙しいため、オープンハウスに来ることは滅多にないので、あとは誰かに告げ口されないように、一人で接客できるタイミングを見計らっておりました。
今でも忘れない、さいたま市の与野駅近くのオープンハウスの現場。
そこに来場したI様という新規のお客様。
新規顧客は青いファイルに挟んだ間取図を渡すルールのところを、わたしは既契約者を示す黒ファイルを渡しました(=゚ω゚)ノ
これで、わたしが新規客を接客しているとは誰も分かるまい、、、
3Fに上がったタイミングで、誰もいない!!チャーーーーンス!!
アプローチブックを広げ、無我夢中で説明(; ・`д・´)
気づけば1時間以上話しをしてしまっており、やばっ!
そしてついにあの質問を
『休みの日、もしたったお一人でお家に過ごす時間があったら、どんなことしていますか~*`艸´)グフフ♪』
まさしく気分は名プロデューサーWW
けど、お客様の反応も上々で、意外と俺ってイケるかも~(*´з`)
けど現場にはボスも先輩も誰もいなかったので、とりあえずは一安心。
さすがにS部署ではないわたしがS部署のことを説明し、素人丸出しプランをお客様に説明していたことがバレたら確実に生きて帰ることはできないだろうな(;^_^A
わたしの不動産人生の歯車が変わった瞬間だったかもしれません。
オープンハウスを終えて、事務所に戻って集計結果をまとめていると、ちょうどボスも事務所に戻ってきました。
ボス『ただいま~。いまい~(*‘∀‘)いるか~??』
自分『はい!おかえりなさい。お疲れ様です。』
ボス『オープンハウスどうだった??』
自分『はい!新規〇件でした!』
ボス『今井の接客していたお客さんはどうだったの~(=゚ω゚)ノ』
自分『(えっ。なんで知っているの??)・・・。あの、その(;゚Д゚)』
ボス『アプローチブック見せてみぃ。いまい~(*´з`)』
えっっっ!!!確実にボスは知っている!!!なぜだ!?俺、終わった、、、。
この時の心臓がバクバクと鼓動が波打つ感覚は今でも覚えています。
そんな中、ボスが笑顔でわたしの自作のアプローチブックをペラペラとめくり、いつ怒りが爆発するのか固唾をのんで見守っていると
ボス『来週から、新規接客たのむね~(*´з`)』
まさに青天の霹靂とはこのことだ。
わたしは状況が呑み込めず、ずっと黙ったまま硬直していると。
ボス『実は俺、たまたま現場に寄って、こっそり今井の接客聞いていたんだよね。』
まさかのまさかでした。
後日聞いた話しで、まさか不動産屋のわたしがこの領域に踏み込んでくるなんて、今まで不動産部署の出向者には無かったらしく、接客もまさかの合格点をもらえるとは思いませんでした。
このことは本当に嬉しかったです。
その噂は部内にすぐに回り、色んな人から褒められ、S部署との人たちの距離感はグッと近くなり、信頼できる不動産担当者という地位を確立できた感じがしました。
出向が終わりを迎える頃には、S部署に残ってほしいと様々な人に言っていただきました。
ボスからもS部署に来て欲しいと言っていただきました。
しかも、割とクライアントと距離が近いS部署では、こんなわたしでもクライアントととても仲良くしてもらえる方が多く、お客様からもこのまま残って欲しいと言っていただけ、心から嬉しいと思いました。
人から必要とされることがこんなにもエネルギーに変わることなのだと思いました。
そこで、わたしは注文建築の世界に飛び込む覚悟ができました。
しかし、そんなすぐに異動は簡単ではありませんでした。
次回は、出向解除から完全移籍までのかかった約2年半の間、不動産店舗に戻って行ったことや、経験を書きたいと思います。
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