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もう両方いらない

日曜日が来る前に一度、平日に練習してデビューを果たした。その時Nさんが、コーヒー豆を仕入れて欲しいと頼んできた。送料がかかるから?って思ったけれど、わたしの豆はこないだ注文して届いたばかりだった。タイミングが合ってない。じゃぁまた今度で…って言っていたけれど、わたしもNさんが好きなコーヒーがどんなものなのか知りたかったし、これか?これ…と言ってた2種類を買えば送料もかからないし注文することにした。それを焙煎して、日曜日に出せたらいいなと思った。もう関わりたくないと思いながらも、Nさんがコーヒーしてる姿が見たいという気持ちから買うことを決めたのだ。わたしも何か、刺激を求めていた。

コーヒーの生豆が届いた日、仕事が終わってから行こうかな?って言ってたけど、今忙しい時期で身体が追いつかない。日曜日も天気が悪いから別居の娘と会うことにすると言われた。Nさんのことはもう、そんなに好きでもない。だけどお断りされたときに『寂しい』という感情が出てきてビックリした。えぇー!寂しいんだ⁈って。そう驚いていたら電話がかかってきて、土曜日の夜、焙煎して泊まると連絡があった。・・・何で泊まるんだろう?友だちなのに。わたしの中では流れに任せようと思っていた。けれどヤる前に、手を繋いだり腕組んで歩いたりしたい!ちゃんとキスもしたい…という思いが湧いてきた。そしたら!土曜日も仕事でクタクタで行けないと連絡が来た。こちらの願いが変わると起こる出来事も変わってくるんだなぁって思った。Nさんは『明日連絡します』を繰り返し、予定より3日ズレた。そして泊まりではなく、昨日の朝やって来た。

7時。Nさんがウチに来た。届いた生豆を出すとすぐに焙煎を始めた。焙煎はまぁまぁの出来だったようだが、すぐに淹れたコーヒーはイマイチだっようだ。浅煎りのコーヒーは紅茶のような色と香りがしていた。

ここでお金の話。わたしに仕入れを頼んだのはカードが使えないか、送料がかからないほど買えないか…どちらかなんだろうと思った。わたしには『お金出すから、注文してくれん?』という言い方だった。だから焙煎ごとに必要な分だけ払ってもらえば負担が少なくて済むと考えた。なので豆が届いた時に『必要な時に必要な分だけ買ってください』と言っていた。なのに開口一番に『お金ない』と言われて…200gで500円弱なのに、それも持ってないのか⁈焙煎しに来るのにお金を準備してないの?って、予想はしていたけどビックリで。もうそこで一気に冷めて気持ち悪さすら感じた。こないだコンビニに売ってあった、挽いてある豆を買って飲んでみた話を聞いていたから、そんなにお金が厳しい状態ではないと想像していた。結局、1000円札が出てきて、焙煎1回500円という破格でやり取りした。おつりの500円をキッチンカーに取りに行くと、10年愛の彼の車が停まっていてビックリ!『友だち』になってから勤務をチェックしてなかったけど、夜勤明けで寝ずにそのまま帰ってきたようだ。波があってサーフィンできる日は帰ってくることもあるけど、波もないのに朝7時に帰って来るってないことだから、何かを察したのかもしれないと思った。

少し動揺しながらおつりの500円を渡した。500円で焙煎出来るのなら…と思ったのか、もう一種類の豆も焙煎したいと、その500円を出してきた。もうわたしは気持ち悪さしかない。終わってからもいつものように話すけど、全然楽しくない。コーヒー豆代を出し渋るのに、更にエスプレッソマシンを買わないの?と何気におねだりまでする。キモい、キモすぎる。そして9時、帰って行った。

10時。毎週火曜日の午前中は、わたしの駐車場でカフェ営業。隣の隣の商店に来るおばあちゃんたちに、コーヒーを配達するのだ。開店準備をしていると10年愛の彼のお母さんが電話をしてきた。『ひとみちゃん、今日は営業するの?』彼がコーヒー飲みたいと言っているらしい。彼に営業するってことを言いながら切っていった。お店を開けると一番に、彼とお母さんが来た。彼は朝帰ってきてから寝てたらしい。いつも通りに普通に話した。お母さんが自分の家を見ながら『この家は3階があるの?って聞かれるんだで』と彼に話しているのが聞こえた。彼がノーリアクションでいると『まぁ、何も言わんわ』ってお母さんが言った。わたしもお母さんと話していてこういうことがよくあった。『ふぅ〜ん…』って心の中で思うくらいの話題で返事をしなかったりすると、お母さんは何も言わんって不服そうに言うのだ。だからそのやり取りを聞いてておかしくて彼を見ると、彼もこっちを見たから目を見合わせて笑った。こういうことって、今までになかったなぁ。

それから常連のおじさんが来て、船の話をしていた。彼は釣りをするのに船がほしいと言っていて、わたしはちょうどその時、おじさんの船が一つ余っていることを知っていたから彼に話を繋いだのだ。わたしのお店の常連さんには船を修理している人もいて、昨日も午後から来てくれていた。船外機や21フィートの船がお買い得であるっていう話を聞いたから、彼に参考までに情報を送っておいた。程なくして、21フィートの船は昔、ウェイクボードをしてた頃に欲しいと思ってたと返信があった。

そんなやりとりをしても、もう彼に気持ちが戻ることもない。友だちに今日の話をしてて…『最愛の人だからひとみちゃんのことが心配だし、しあわせでいてほしいって思うんだろうね』って言われて、そんなのもういい!って思った。わたしをしあわせに出来るのは彼だって何度も言ったのに…。それをしないんだったら放っといてって思う。

もう誰のことも想わない。わたしはわたしを想おう。そう思えたことがしあわせだ。



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